配信で観られる日本未公開映画4選!グッチーズ・フリースクール推薦

2020.1.18

文=降矢 聡 編集=森田真規


日本未公開映画を紹介するだけにとどまらず、実際に上映の企画・運営をしている団体「グッチーズ・フリースクール」。と言っても所属メンバーはそれを専業にしているわけではなく、好きが高じていつの間にか海外の権利元にメールして、いつの間にか好きな映画の上映や配給をしていた……といったインディペンデント精神あふれる団体だ。
ここではグッチーズ・フリースクールの主宰・降矢聡氏に、配信サービスで観ることができる今おすすめの日本未公開映画を4つ紹介してもらいました。

劇場でかけるとしたら──新しい才能とベテラン監督の妙味が堪能できる未公開映画たち

どうやら映画の配給にはさまざまな打算と困難と情熱がひしめきあっているらしい。しかし個人配給に限っていえば、作品選定はものすごくシンプルだ。配給したいから配給する。本当にこれに尽きる。しかし、そのなかには大きくふたつのモチベーションがある。ひとつは「好き」ということ。監督や俳優、そしてその作品が好きだから配給する。単純だ。もうひとつは「新しさ」。ここでいう新しさは、新作でも、埋もれていて日の目を見ていない作品でもいいわけだが、つまりは、その1本によって、今までとこれからがまったく違うように見えてくるような新しさだ。不遜ながらそんな映画を引っ張り上げて、映画とともにいつでも新しくいたいと思う。以下ではそんな理由から個人的に配給したいと思わされた(思っていた)作品を紹介したい。

西部劇、再考『ザ・ライダー

マーベルの新作映画『エターナルズ(原題)』の監督に抜擢されるきっかけとなったクロエ・ジャロ監督長編2作目にあたる、落馬事故で頭部に重傷を負い、ロデオライダーの夢を断たれた若きカウボーイの実話の映画化。
製作資金は監督と撮影監督の持ち出しで、スターなし。役者は実際の人物たちだ。そんな低予算のなか、何もない荒野で馬に乗れないカウボーイを撮り続けるという監督の大胆さと、この映画を観てマーベルの新作映画に抜擢するアメリカ映画界の慧眼に感服しきり。よくこんな地味な映画を……とは思いつつも、夢を断たれた若者という普遍的な物語に、アメリカ、あるいは男らしさの象徴的な存在であるカウボーイを重ね合わせるところが、実に巧妙であり現代的だ。
加えて、かつては一大ジャンルであった「西部劇」(の終わり)というものを再考するうえでも極めて重要な1作であることに気づき、今さらながら配給できなかったことが悔やまれる。たとえば配信すらされていないケリー・ライヒャルト監督による女たちの西部劇『ミークス・カットオフ』と併せて見るのはどうだろうか。

『ザ・ライダー』予告編(字幕版)

『ブラック・クランズマン』との併映を期待する『ホワイト・ボイス

ラッパーとしても活躍するブーツ・ライリー監督の長編デビュー作。製作のアンナプルナ・ピクチャーズに配給打診のメールを数度試みたところ、一切音沙汰がなかったが無事に(?)配信された。
最初はボンクラコメディ映画だと観ていると、次第に政治性、社会的メッセージを帯び始め、いきなり不条理劇に突入したかと思うと、最終的にはクリーチャーものになるという衝撃的に妙な映画だ。スパイク・ジョーンズとドリュー・ゴダードを掛け合わせたらバケモノが生まれてしまったというキテレツさで、1作品のなかに複数のジャンルや映画が存在しているかのような本作の転調ぶりは、新しい作劇が生み出されつつある兆しを感じさせる。
また、同時期に撮られた『ブラック・クランズマン』の「黒人が白人のしゃべり方を模倣する」という描写が本作にもあり(当時ツイッターでブーツ・ライリーは、スパイク・リーが『ブラック・クランズマン』で黒人警官を史実に反し英雄にでっちあげたと批判していたことも)、現代のブラックムービーを考えるうえでも、今からでも併映する手は残されている。

『ホワイト・ボイス』予告編(オリジナル版)

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グッチーズ・フリースクール_降矢聡

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降矢 聡

(ふるや・さとし)映画上映団体グッチーズ・フリースクール主宰、『ムービーマヨネーズ』企画・編集。2020年3月7日に編著『USムービー・ホットサンド 2010年代アメリカ映画ガイド』(フィルムアート社)が刊行。また『DVD&動画配信でーた』にて、コラムを連載中。共著に『映画を撮った35の言葉たち』、..

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