俳優・古舘寛治 語りにくいからこそ語っちゃおう――俳優の労働問題

2020.2.12
クイックジャーナル_古舘寛治_top

文=古舘寛治 編集=森田真規


名バイプレーヤーとして映画やドラマに欠かせない、今もっとも引く手あまたな俳優と言っても過言ではない古舘寛治。そんな彼は、実はツイッターで積極的に政治的な主張を発信している。

そんな彼が今回テーマに選んだのが「俳優の労働問題」。「小栗旬 事務所社長就任へ『間違いありません』と現社長認める」(『女性自身』2020年2月4日号)という記事では、小栗旬がかつて「将来、日本の俳優のユニオン(組合)を作りたい」と語っていたことなどが書かれていた。このセンシティブな問題に、業界のど真ん中にいる古舘寛治が迫ります。


俳優の労働環境について書きたいと思うが……

例のごとくやらなければならないことに追われながら、怠惰な自分をのっそりと動かす毎日を過ごすうちに原稿の期日が迫ってくる。まわりからは評論家くさい、おもしろくない、などのダメ出しが入ったりする。しかし俺は元来まじめな男だと心で反論している。

俳優の労働環境について書きたいと思う。しかしこれは非常に書きにくい問題だ。そしてまさにその書きにくいということが、その問題の大きさを言い表しているのである。

世の中には書きやすい問題と書きにくい問題がある。書きやすい問題とは自分が不利益を被る可能性がない問題だ。書きにくい問題とは自分がまさに不利益を被る可能性が想像できる問題だ。

ツイッターなどで多くの人が何かを批判しているとき、その対象は彼らにとって前者の場合がほとんどだ。人は自分にとって遠い、関係のほぼないであろう問題には強く正義感を振りかざすことができる。嬉々として声を上げる。しかし、自分に不利益が降りかかるような対象には沈黙するものである。

不利益を被る可能性があるのは多くの場合、社会的立場の強い権力である。だからそれが本物の勇気ある正義かどうかを知りたければ、その対象が彼らに不利益を被らせる力を持った権力かどうかがひとつの判断材料になるだろう。半端な正義は簡単に振りかざすことができるのだ。

社会的立場の強い権力とは怖いものである。それは世界共通だろう。

なぜか。人間はひとりでは生きていけないからだ。少数派かも知れないが、野生には「個」で生きていける動物がいる。繁殖期のみつがいになるが、あとは1匹で暮らす動物。しかし人間は、ひとりきりで自然の中に入って生きることはほぼ不可能だ。

そしてたとえ街で独りで暮らしていても実際は店で食糧や日用品を手に入れないといけないし、着るものも必要で、それらすべては誰かほかの人が作り売っているものである。あらゆる生活必需品はほかの誰かによって供給されているのだ。

つまり僕らは生きるために必要なものをお互いに提供し合うコミュニティー、皆が絡み合い支え合う社会の中でしか生きられない。個は無力なことを直感で知っているのだ。だから僕らにとっては常にその社会、全体がとても大事になる。そして僕ら日本人は特に島国特有の単一性によってその傾向を強め、先祖代々、全体に奉仕することをよしとし、個の権利の主張などはわがままとする人生観を育んできた。とても腑に落ちる。


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古舘寛治

(ふるたち・かんじ)大阪府生まれ。舞台出身で、近年では数々の映画やTVドラマに出演し、名バイプレーヤーとして印象を強く残す。2016年には舞台 『高き彼物』で演出を手掛けた。近年の主な出演作に映画『淵に立つ』(16)、『海よりもまだ深く』(16)、『勝手にふるえてろ』(17)、『教誨師』(18)、ド..

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