俳優・古舘寛治 語りにくいからこそ語っちゃおう――俳優の労働問題

2020.2.12

“言葉”は現状を変えるための人間の発明した強力な道具である

個は弱い。だから組合を作って権利を守る。道理だ。しかし日本では、俳優組合はあるものの肝心の組合員が増えていかない現状がある。メリットを感じられない、知らない、問題について考えたこともない、ということが理由として考えられる。なぜみんな自分の生きていく権利について考えないのか。自分の仕事においての権利について無頓着なのだろうか。

そういう話をまわりの俳優たちにしてもたいがいポカンとされる。

俳優の労働環境の問題は先に挙げた事柄だとして、近年ようやく社会問題化してきた芸能事務所と俳優、タレント間の問題も大きい。しかし、どんな問題よりも大きな問題は当事者の意識だと思う。俳優自身の当事者意識だ。ほかの誰かが決めてくれたことに則って生きる、ということに慣れてしまっているのか。自分が動いて何か大きなシステムを変える、というイメージを抱けないためか。団結という行為への嫌悪か。社会というものへの無力感に支配されているのか。忙し過ぎる毎日に、目の前のことに当たるだけで精一杯だからか。ただ無知なのか。

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小栗旬が俳優の労働組合について語った『クイック・ジャパン』vol.115(2014年8月11日発売)

これまではそうだった。その原因をもっと深く考えることはできる。しかし、これからのことを考えたい。このままでは次の世代にとっていいはずがないだろう。海外資本の作品もどんどん増えてきている。まさに今が変革の時だろう。次の世代は先輩たちを見て育つ。だから今まではこうだった。ならばこれからの世代のために今の先輩たちがもう少し考えてみる。動いてみる。それが必要な時期に来ているのではないか。

欧米人のマイナス面はもちろんあるだろう。日本人のよさももちろんある。しかし欧米人たちの「社会のシステムは自分たちで作る。変える」という態度は今最もこの国、日本の人たちに必要な姿勢ではないだろうか。

最後に断っておきたいのは、今回は俳優の立場で俳優の問題について書いたが、現場では当然スタッフのほうがさらに長く働いているということだ。撮影期間中は平均で4時間くらいしか寝られないことはザラのようだ。こっちの問題のほうが本当は優先して解決されるべきだとも思う。スタッフの皆さんにももっと声を上げてほしいと思う。言葉は現状を変えるための人間の発明した強力な道具なのだから。

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