俳優・古舘寛治 語りにくいからこそ語っちゃおう――俳優の労働問題

2020.2.12

たとえば出演料の問題。たとえば契約書。たとえば……

さて、だからその日本人の私は自分と直接関係のある問題を書くことがはばかられる。黙っていたほうが安全だ。

ではなぜ欧米人は書けるのか? なぜ個が日本人に比べ強いのか? 発言するのか? 権力に物申すのか?ということも考えたくなるが、それだけでじゅうぶんに1回の記事の枠が必要な議題だから今日は置いておこう。

俳優の労働問題である。「今さらわかっているよ」や「そこは違う」などの声もあるだろうが書いてみる。

たとえば出演料の問題。元々海外に比べ高くないと言われてきた。それも、昨今はどんどん安くなる傾向だ。まず、「今回は予算がない」という言葉から出演の打診が来るのが普通になった。昨今は底の抜けた感の強い額が提示されることもある。海外ではそうならないように最低賃金の取り決めがある。

たとえば契約書。日本では契約書を交わさないまま撮影が始まるのが普通で、終わってから交わされることが慣例になっている。だから出演料も終わってから交渉されるという性善説による慣行が続いているし、撮影時間もいくらでも延長できる。約束事が何も文章化されないままに仕事が進むのだから当たり前だ。

古舘寛治_クイックジャーナル_3回目
当事者意識がないから団体交渉できない、という問題も孕んでいる

たとえばその撮影時間。契約書がないから日本では1日何時間でも撮影することが可能だ。プロデューサーや監督の個人的人格や思想、そして予算との兼ね合いで「今日はここまで」と区切られる。アメリカでは1日8時間を超えるとそのあとの2時間は1・5倍、その後は2倍の賃金を払わなければいけない。だからプロデューサーはなるべく早く終わらそうとするし、むしろ次の日に撮ったほうがよいということにもなる。それによって俳優の過重労働は避けられる。

たとえば労災保険。普通仕事場での事故等によるケガなどには労災保険が適用される。その保険料は雇用主が払わなければならない。しかし日本の俳優にはそれが適用されない場合が多い。個人事業主という枠組みにされているからのようだが俳優は雇用される労働者の側面が強く、海外では俳優は労働者として認識されているのが普通だ。しかもほかの仕事と比べても俳優という特殊な仕事は、やったことのない初めてのことを身体を使ってやらされることが多いため、よりリスクは高い仕事であり、手厚い補償が必須である。

ざっと挙げるととりあえずこんな感じだが、これらのことは欧米ではほぼ俳優の労働組合が取り決めを作り製作サイド(雇用主側)との交渉もする。しかし契約書を最初に交わすのは中国でも主流だと聞くので、日本の特殊さは際立っていると言えるだろう。

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