20歳が観るべきアニメ38タイトルを選んでみた(藤津亮太)
学生に「ゴールデンウィーク中に観るといいアニメを教えてほしい」と頼まれ、アニメ評論家・藤津亮太は考えた。20歳のアニメファン向け「入門書」を編むべきではないか。この本を読むことで「日本でメジャー流通するアニメが、現在のような形になっている背景を知ることができる」ことを目標に、まずはタイトル選びに着手した。
目次
過去の作品・歴史上の創作者にアクセスするには
先日、非常勤講師をやっている大学で学生から声をかけられた。ゴールデンウィーク中に観るといいアニメを教えてほしい、というのだ。観終わったら個人的に短いレポートを提出したいが見てもらえるか、という話とセットだったので、単に「おもしろいアニメを知りたい」というわけではない。むしろ「アニメというのものにもうちょっと迫りたい」という積極性の表れという感じだった。
そこで僕は、ちょっと迷ったのだけれど、今 敏監督の映画を観ることを勧めた。学生は見たことがないので、興味があるという。4本ある映画はすべて90分前後で、きっちりとした構成と的確な演出、ビジュアル的な仕掛けのインパクトが合致しており、おもしろいだけでなく、アニメという表現を深く知るためには最適の教材でもある。といっても今 敏監督ももう没後12年。現在20歳前後の学生には、縁遠い存在になりつつあるのも想像がつく。
その日の夜ツイッターを見たら、映画研究者/批評家の北村匡平が、東工大大学院の表象文化論の授業で「ヒッチコック映画を観たことがある?」と質問した、という投稿が流れてきた。映像に興味がある学生が159人いて、「ある」と答えたのは5%だったという。
このツイートを見て改めて思ったのは、新しい世代は、どうしたら過去の作品・歴史上の創作者にアクセスできるか、ということだ。もちろん普通のファンであれば、それは「ご自由に」以外の何物でもない。
でも、そのジャンルについて学ぼう、そのジャンルで仕事をしよう、となるとそうともいかない。その当該ジャンルについて、押さえておいたほうがいい知識─デジタル大辞泉に「社会生活を営む上で必要な文化に関する広い知識」とあるような意味での「教養」─を知っていたほうが絶対にプラスになる。少なくとも、アニメ関連のメディアやメーカーの関係者などを見ていると、そのあたりは個人的体験に頼り過ぎているので、キャリアが浅い人ほどジャンルへの理解が心もとない傾向があるのは否めない。
アニメの「入門書」はほとんど存在しない
一番いいのは、シンプルな作品カタログではなく、なぜその作品を観たほうがいいのかという文脈込みで記された「入門書」があることだ。もちろん、その入門書は、普通のファンにとっても、過去作品を辿るときのガイドとしてもじゅうぶん魅力的なものになるはずだ。
このような、あるジャンルを知るための「入門書」はさまざまなジャンルで出版されている。しかし、どうもジャンルには偏りがあるようだ。検索してみると「知っているとかっこよさそうだけれど、敷居が高そう」なジャンルには、こうした入門書が多いようだ。たとえばジャズ、クラシック、歌舞伎、西洋絵画といったジャンルが目立つ。
おもしろいことに映画は、検索した範囲だと、ここまでストレートな「入門書」はあまり出てこない。むしろニッチなサブジャンルに特化した「入門書」や、書き手の個性を前面に押し出した「コラム集」の側面の強い書籍などが目立つ。
そしてアニメは、というとこの種類の「入門書」はほとんど存在しない。通史や作品カタログはあっても、「観ておくべき作品の観ておくべき理由」を教えてくれる書籍はほとんど見かけない。それはおそらくアニメが「コンテンポラリーな大衆娯楽」として扱われつづけているからで、「今おもしろい作品」はピックアップされても、「過去の観るべき作品」はその作品世代の記憶の中に留まる割合が高かったからだろう。
『アニメーションの宝箱』を引き継ぎたい
そんな状況の中で唯一の例外といえる書籍が五味洋子の『アニメーションの宝箱』(ふゅーじょんぷろだくと)だ。
2004年に出版された同書は、世界のアニメーションと日本のアニメーションから全87作品をセレクト。その時点でDVD等でアクセスできる作品を優先し、「アニメーション全般を広く、分け隔てなく紹介し、お薦めする本を出せないものか」(同書の「はじめに」より)という狙いで書かれた一冊だ。
各作品の紹介は、歴史的意義や制作の背景などの「押さえておきたい知識」と的確な作品評を混ぜ合わせた内容で、大変行き届いている。海外作品と国内作品、メジャーとインディペンデントを区別することなく観つづけてきた著者ならではの守備範囲の広さが結実した一冊といえる。18年前に出版された書籍だが、アニメに関する「教養」として知っておきたい要素はここに凝縮されているといってもいい。出版時期のせいもあり、今 敏監督、湯浅政明監督作品は含まれていないのだが、今読んでも、そういう部分が気にならないぐらい、かっちりとまとまっている。
とはいえ『アニメーションの宝箱』1冊にすべてを負わせるのもまた難しい。配信サービスがここまで普及し、これまでの時代(観られない作品も多々あるが)を超えた作品にアクセスしやすくなっている現在、もう何冊か「アニメ入門書」があってもいいと思うのだ。
20歳のアニメファン向け「入門書」を考える
というわけで、ここからは藤津なりの「入門書」のアイデアを書いてみようと思う。五味ほどの守備範囲の広さはないので、20歳のアニメファンを想定し、この本を読むことで「日本でメジャー流通するアニメが、現在のような形になっている背景を知ることができる」というところにゴールを設定する。
手軽に観られるように映画を中心に構成しつつ、外せない作品のみテレビアニメを取り入れる。作品は50作品以内に収めたい。
だが、このリストは「すべてのおもしろい作品」や「歴史的転換点の作品」を網羅することが目的ではない。その目的はもう少し別のところにある。
そんなコンセプトで仮に選んでみたのが、次の38作品だ。まだ50作には余裕があるので、もうちょっとブラッシュアップする余地もあるだろう。
“日本のアニメ”の形が見えてくるはず
この38作品のポイントは、単に必見作品というだけではない。この38作品は、そこから作品をピックアップして、複数作品を組み合わせることで、アニメを貫くさまざまな文脈についても知ることができる、というふうに選んでいるところが重要なのだ。ジャンルを見るときに大事なのは、そうした複数の文脈をちゃんと自分の中に持つことだ。それによって「好きなアニメがある」から「アニメが好き」という状態に近づくことができる。
たとえば「作画の進化」という文脈では『タイガーマスク』、『銀河鉄道999』、『超時空要塞マクロス 愛・おぼえていますか』、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』、『AKIRA』、『御先祖様万々歳!』、『人狼 JIN-ROH』という7作品を取り上げて解説する。デジタル(CG)であれば、『AKIRA』、『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』、『マインド・ゲーム』、『BLAME!』を並べて、その発展史を総覧する。
技術的なことだけではなく、作品が扱ったモチーフでも文脈を拾うことができる。「少女と変身」であれば『魔法のスターマジカルエミ 蝉時雨』、『劇場版 美少女戦士セーラームーンR』、『少女革命ウテナ』、『HUGっと!プリキュア』、「少年と世界」であれば『太陽の王子 ホルスの大冒険』、『銀河鉄道999(劇場版)』、『機動戦士ガンダム(劇場版三部作)』、『王立宇宙軍 オネアミスの翼』、『新世紀エヴァンゲリオン』という作品をつないでいく。
試しにいろいろ文脈を作ってみたが、現在の38作品であっても、15テーマぐらいは考えることができる。このようにして各個の作品を結ぶ線を設定することで、制作技術やモチーフ・主題を浮かび上がらせれば、今多くの人が触れている“日本のアニメ”の形が見えてくるはずだ。
映画とテレビというメジャーな流通チャネルでアニメが流れるようになって60年ほどが経過している。通史ではなく、作品主体で(これは『アニメーションの玉手箱』と同じコンセプト)押さえておくべき作品、押さえておくべきポイントをまとめた一冊。こういう書籍のニーズは、むしろこれから増していくのではないかと思うのだけれど。
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