4.アジアのバンドたち
2016年に「88rising(エイティエイトライジング)」のYouTubeチャンネルがスタートした。88risingとは、アジアにルーツを持つ作り手によるヒップホップを中心にフックアップするプラットフォームだ。このチャンネルはHigher Brothers(ハイヤー・ブラザーズ)、Rich Brian(リッチ・ブライアン)、Keith Ape(キース・エイプ)、Joji(ジョージ)といった逸材の存在を世界に──つまり“西洋”、あるいは“欧米”、あるいは“アメリカ”に──知らしめてきた。
同じことがヒップホップ以外で、バンドやシンガーソングライターでもできるはずだ。そういう思いから、日本以外のアジアにルーツを持つバンド(あるいはヒップホップ以外のミュージシャン)を紹介する日本語の記事を増やしていくことをひとつのライフワークにしている。
韓国や台湾、タイやインドネシアなど、アジアの国々にはおもしろいバンドがたくさんいるのだ。枚挙に暇がないほどだが、いくつか厳選して紹介する。コアなリスナーの間ではかねて知られている顔ぶれではあるが、もっともっと多くの人に知られていいはず。そのポテンシャルをじゅうぶん持っている面子だ。
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・HYUKOH(ヒョゴ)
from 韓国。日本でもコアな音楽ファンには知られた存在。『Comes And Goes(와리가리)』を聴いたときの衝撃が忘れられないというリスナーは少なくないだろう。韓国の音楽に対して、今のK-POPやひと昔前(『冬ソナ』の時代)のK-POPの印象しかない人は、繊細なボーカルと軽妙な演奏に認識を改めさせられるはず。
・SE SO NEON(セソニョン)
from 韓国。ギター・ボーカルのファン・ソユンのブルージーなプレイは新たなギターヒーローとしての風格充分。ただブルーズに根ざしたスタイルかと言うとそうではなく、本当に多彩な楽曲を作り、高い演奏技術でそれらを聴かせる。そしていつ見てもスタイリングが最高なファッショニスタでもある。
・Say Sue Me(セイ・スー・ミー)
from 韓国。メタルの街・釜山出身ながら、これぞUSインディーというペイヴメント直系スタイル。スプリングリバーブをかけた浮遊感のあるサウンドが心地いい。ドレスダウンした佇まいもあって、いかにもインディーロック好きが求めるロックバンド像に見合った存在といった感じ。
・落日飛車/Sunset Rollercoaster(サンセットローラーコースター)
from 台湾。こちらもHYUKOH同様国外でも一定の認知がある実力派。アーバン、メロウといった言葉で形容される、AORの系譜を感じる音楽性。
・Phum Viphurit(プム・ヴィプリット)
from タイ。人懐っこい笑顔を絶やさないキュートなキャラクターで、南国を想起させるピースフルなムードをまとった音楽を鳴らすシンガーソングライター。「Lover Boy」が記事公開時点で8400万回以上再生。USツアーも経験し、世界で認知を上げている。
・YONLAPA(ヨンラパ)
from タイ。透き通った歌声が心地よく、サイケでドリーミーなギターが映えるインディポップバンド。
・Kurosuke(クロスケ)
from インドネシア。Phum Viphuritもフェイバリットに名を挙げるシンガーソングライター。シティポップの要素を感じさせ、洗練されたファンクネスをインドネシアンポップのマナーにかけ合わせた独自の音楽性。
ほかにもまだまだおもしろいバンドがいるのだけれど、この記事ではここまでに留める。日本で日本以外のアジアのポップミュージックの情報を得るのはなかなか難しいけれど、BIG ROMANTIC RECORDS(大浪漫唱片)というレーベル/プラットフォームがまとまった情報を発信しているので、ディグっていきたいなら定期的なチェックをおすすめする。
このブロックで紹介したバンド・ミュージシャンが今後世界的にビッグな存在になるのを想像すると胸が躍る。ただ、オリエンタリズム的に消費される可能性と隣合わせだということには注意していたい。
これらの音楽を愛でるとき、その姿勢がたとえば「ワールドミュージック」という言葉の根底にある、英語圏の一部の層の特権意識と同根の振る舞いにならないか。非英語圏の音楽を十把一絡げに「“俺ら”とは違うあの人たち」と他者化する行いに陥っていないか。
「おかんアート」の件にも符合する観点だ。創作や自己表現の機会を奪われてきた人々による作品を「おかんアート」と称するとき、そこに生じる権威勾配に、ラベリングしキュレーションすることの暴力性にじゅうぶん自覚的であるか。
欧米基準での国籍や言語、文化の“違い”が壁となって、じゅうぶんに知られず流通してこなかった音楽が、世界の人の耳に届こうというときに起こり得る不均衡にシビアでありたい。フェアなかたちで世に広まらなければ、結局、欧米基準での「他者」としての消費に留まり、マーケットに定着せず一過性のものとして消えていってしまう。
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