2021年3月29日からTBSの平日8:00~枠で放送開始した帯番組『ラヴィット!』。
“実質的に大喜利番組”と称されるほどバラエティに振り切ったこの番組は、同枠で放送された過去のワイドショー路線の番組はもちろん、同様にバラエティ色の強い昼の帯番組『ヒルナンデス!』(日本テレビ)、過去を遡って『森田一義アワー 笑っていいとも!』(フジテレビ)と比較しても異彩を放つ存在だ。
本稿では、MCを務める麒麟・川島明の手腕やワイドショーというものの構造的な毒性について触れながら、この番組の特異性と可能性について考えていく。
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“裏”から“表”へのクラスチェンジ
『ラヴィット!』の特異な要素は数あれど、そもそも番組の前提の部分で大いにフックが効いていることにまず触れなければならないだろう。“裏回し”のスペシャリストである川島を“表”に、MCに起用しているのだから。
裏回しとは、ほかの出役と同様ひな壇に座りながらも水面下でMCのフォローを行う、バラエティ番組の歴史において欠かせない役割。
川島明が備える裏回しとしての力量と適性は、業界人やバラエティフリークにとっては周知の事実だろう。このことを前提として、“普段裏回しに甘んじている川島が、MCを務めることの多い芸人たちに逆襲する”という建てつけの特番が企画されたほど(『異世界転生バラエティ 万年2番手だった麒麟川島が転生したら千鳥おぎやはぎ山里を従えるメインMCだった件』)。
裏回し芸人と称される者には川島のほか、陣内智則、ハライチ澤部、パンサー向井、土田晃之などが挙げられる。また、通常ガヤ芸人と称されるFUJIWARA藤本、アンタッチャブル山崎、平成ノブシコブシ吉村なども、そのガヤ芸が裏回し的な機能を果たしていると取ることもできる。
それぞれに違った持ち味があるが、たとえば陣内智則に関していえば、テレビ初出演の若手や認知の低い芸人が最大限に活きる接し方を定義づける力がべらぼうに高い。いわば新人の”取扱説明書”を作る能力。
『ネタパレ』(フジテレビ)などの番組を注視していれば、陣内が「◯◯、なんやったっけ?」「ほな◯◯、どうすんねん」といった振り方で若手に持ちネタを促す流れるような所作に気づくはずだ。この点についてはEXIT兼近が過去のインタビューで「第七世代芸人の多くはネタパレで陣内に取扱説明書を作ってもらったおかげでうまくやれている」といった旨の表現で言及している。
企画成立屋の本領
対して川島は、対人よりも対企画に秀でているように思われる。うまくいくかどうかわからない、スタッフ自身さえも勝ち筋の見えていないような捻った新企画を軌道に乗せる力がずば抜けた“企画成立屋”だ。
たとえば『テレビ千鳥』(テレビ朝日)。大悟が場当たり的な発想で始めた着地点のおぼろげな新企画には必ずと言っていいほど川島がキャスティングされる。そのほか深夜番組を中心として、数多くの悪球を着実に外野へ運んできた確かな実績が川島にはある。
川島の培ってきたものは『ラヴィット!』で顕著に息づいている。
『ラヴィット!』では、番組の初っ端の20分をたっぷり出演者の個別エピソードトークに割く。「今日はなんの日」的な切り口で日々のトークテーマが決まり、たとえば「家電の日」であれば笑いを織り交ぜつつおすすめの家電を紹介する。家電ならまだいいほうで、「好きな建築物」「好きなソース」果ては「好きな油」と、広げる余地のなさそうなテーマの割り合いが非常に高い。
トークパートが終わると、話題のスポットを巡るロケやグルメランキングなどの生活情報をまとめたVTRを観ながらのクイズが番組終了までつづく。と言っても“VTRを観ながらのクイズ”というよりは「映像を見てひと言」形式の大喜利と捉えたほうが実情に即している。
天の声として番組をナビゲートするキャラクターのラッピーは、異様に短いシンキングタイムでの出題や、おもしろく答えようのないムチャ振りを繰り返し、出演者たちを振り回す。
上記いずれのパートも、出演者にあえて難易度の高い試練を課すような実験的なゲームバランス。芸人というよりはタレント寄りの適性が重用される、ハライチ岩井の言葉を借りるなら“お笑い風”なトーンの番組が多い正午前後の時間帯では異彩を放つ、芸人の地力を問われる内容だ。
こうしたチャレンジングな内容が生で、帯で、午前中にやれているのは、ひとえに川島のどんな企画でも軌道に乗せる対応力あってのことだろう。
そんな川島にとって最大の試練と言えるのが、あのちゃんの一件。
『水曜日のダウンタウン』(TBS)の企画の一環として『ラヴィット!』に送り込まれたあのちゃんに、千原ジュニア、野性爆弾くっきー!、笑い飯・西田、霜降り明星・粗品、オードリー春日、そして川島の相方・田村裕が別室から指示を送り、大喜利に答えていくドッキリ企画だ。
グロ・煙草・麻雀といった治安の悪い作風で妙に達者な大喜利を連発するあのちゃんに、レギュラー陣は震撼し、大いにペースを乱された。川島も例外ではなく「50代の作家ついてる?」「今日で(芸能界)辞めるんか」「帰ってくれる?」と困惑を隠し切れないリアクションを見せた。
ただ、『ラヴィット!』の大喜利は押しボタン式ではない。挙手制なので、MCが指名しない限り回答権は与えられない。つまりいくらでも無視することはできたなか、川島は一貫してあのちゃんが挙手すれば必ず回答権を与えつづけた。どんな奇人でも逃げずに対応し切ってみせるという闘争心。川島の芸人としての粋(すい)が窺い知れるやりとりだった。