オリンピック開会式の森山未來ダンスパフォーマンスと『ジュゼップ 戦場の画家』を結んだ死者の残念(藤津亮太)

『ジュゼップ 戦場の画家』より(C)Les Films d’Ici Mediterranee - France 3 Cinema - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons nous-dans les bois - Tchack - Les Fees Speciales - In Efecto - Le Memorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d’Ici - Upside Films 2020
文=藤津亮太 編集=アライユキコ
8月13日に公開される『ジュゼップ 戦場の画家』は、スペインの画家が異国の強制収容所で体験した過酷な生活を題材としたフランスのアニメーション作品。アニメ評論家・藤津亮太が、映画に寄せられた片渕須直監督(『この世界の片隅に』など)のコメントを紐解きながら「死者の残念」について考え、オリンピック開会式の森山未來の圧倒的ダンスパフォーマンスを解釈する。
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時の流れの向こうに残してきた人々
「時の流れの向こうに残してきた人々。時はどこから来てどこへ流れてゆくのか。それは何かを浄化してくれるのか。それとも、苦しみを苦しさとして残したまま漂うのか。ジュゼップならどう答えてくれるだろう?」
これは8月13日から新宿武蔵野館などで公開となるアニメーション映画『ジュゼップ 戦場の画家』に寄せられたアニメーション監督・片渕須直のコメントだ。
ジュゼップ・バルトリはスペイン出身の画家。スペイン内戦で、フランシス・フランコ率いる反乱軍に抵抗したものの敗れ、1939年にはフランスへと脱出し、強制収容所で過酷な生活を送ることになった。『ジュゼップ 戦場の画家』は、ジュゼップのこの収容所生活を中心に描いたアニメーション映画で、フランスの全国紙『ル・モンド』などでイラストレーターとして活躍してきたオーレルが監督を手がけた。フランスのセザール賞で長編アニメーション賞、、東京アニメーションアワードフェスティバルでも長編コンペティション部門グランプリに輝いている。
映画は1939年、スペインからフランスに流れてきた難民たちの姿から始まる。1939年の映像は動きを抑え、人物のシルエットで見せる画面づくりがされている。
そこから画面はフランスの老人セルジュと孫に切り替わる。寝たきりのセルジュは、訪ねてきた孫に自分の体験を語り始める。1939年2月、セルジュは憲兵としてスペインからの難民を収容する強制収容所の警備にあたっていた。収容された人々に過酷な仕打ちをする先輩の憲兵たち。そこでセルジュが出会ったのが、国際旅団の片足の兵士の姿を描くジュゼップだった。セルジュは、隠れてジュゼップに紙と鉛筆を渡すのだった。
映画の主要な舞台となる強制収容所は1939年2月にできたばかりのアーゲルシュールメール強制収容所と思われる。映画の中にはそこでジュゼップが描き、のちに画集『強制収容所』(1944)などにまとめられた絵がいくつも挿入されている。
ジュゼップのスケッチを見たときに個人的に思い出したのは同じスペインの画家ゴヤが描いた版画集『戦争の惨禍』だった。ナポレオン戦争に端を発するスペイン国内の悲惨な状況を克明に見据え描き記したゴヤの視線と、自らの今置かれた状況をスケッチする視線に通じるものを感じたからだ。一方でジュゼップは、憲兵などを醜悪にカリカチュアした絵も描いており、絵を描くことが彼にとって戦う手段であったことも窺わせる。片渕監督はここに描かれた(憲兵も含む)名もなき人々の姿を「時の流れの向こうに残してきた人々」と評したのだろう。「時の流れの向こうに残してきた人々の姿」が刻まれている『強制収容所(Campos de concentracion)』はKindle Unlimitedで読むことができる。

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