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死者の残念が現在へと蘇ってくる
この能の発想を取り入れて『ジュゼップ』を見てみると、まず孫がワキであり、セルジュが前シテ、ジュゼップが後シテというふうに見立てることができる。
能の前場と後場でシテの役割が変わる場合、前シテ・後シテと区別されるというが、ここではセルジュがジュゼップを降ろしてくる役割なので、一種の“同一人物”と考えて、前シテと後シテと割り振ってみた。
さらに、これと重なるようにしてセルジュがワキであり、ジュゼップが前シテ、(収容所で死んだ人の代表である)エリオスが後シテという構図も潜んでいる。『ジュゼップ』の中ではこのようにして1939年の死者の残念が現在へと蘇ってくるのである。
死者は残恨の念を抱えてはいるが、なにも教えてはくれない。それを現実につないで昇華する役割はワキである「私たち」なのである。それが「時の流れの向こうに残してきた人々」に対して今、生きている私たちにできる振る舞いなのではないだろうか。『ジュゼップ』は、そんなことを突きつけてくる一本だ。
ジュゼップが強制収容所に収容された1939年の翌年1940年は、幻の東京オリンピックが計画されていた年だ。そこから81年。世界はまた民主主義がゆらぎ、政治的対立と混乱が深まりつつある。オリンピック自体も、もはや平和の祭典などというおためごかしでは糊塗できないほど、利権まみれのイベントであることが誰の目にも明らかになってしまった。こんな時代、クーベルタン男爵や民主主義をシテに、新たな能が作られても不思議ではないかもしれない。今こそ、過去の死者、現在進行中の死者の残念に耳を傾けるべき時なのだ。
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8.13日本公開『ジュゼップ 戦場の画家』
監督:オーレル
脚本:ジャン=ルイ・ミレシ(『幼なじみ』、『キリマンジャロの雪』)
2020年/フランス・スペイン・ベルギー/仏語・カタロニア語・スペイン語・英語/74分/シネマスコープ/カラー/5.1ch
原題:JOSEP
日本語字幕:橋本裕充
配給:ロングライド
longride.jp/josep/(C)Les Films d’Ici Mediterranee – France 3 Cinema – Imagic Telecom – Les Films du Poisson Rouge – Lunanime – Promenons nous-dans les bois – Tchack – Les Fees Speciales – In Efecto – Le Memorial du Camp de Rivesaltes – Les Films d’Ici – Upside Films 2020
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