にじさんじとタイムマシーン3号
VTuber事務所として巨大な核のひとつになっているいちから株式会社の「にじさんじ」は、自社の企画に他の著名人を呼ぶ際バーチャルアバターを付与し、話題性を盛り上げるのに成功している。
AbemaTVで放映されていた『にじさんじのくじじゅうじ』では、タイムマシーン3号のふたりが司会として抜擢された。その際レギュラーのにじさんじライバーたちは、3Dモデルでバーチャル空間に登場している。それに合わせてタイムマシーン3号のふたりも、3Dモデル化された。
おもしろいのは関太が女性キャラクター「天川さくら」になっていたことだ。元の顔とのギャップ自体がギャグとして笑えるのだが、番組が進むにつれてだんだんとそのぽっちゃりかわいい姿に人気が出てきて、ファンからかわいいと言われ始めた。実際天川さくら自身も「関」と呼ばれることを拒否し、少しずつ動きもおしとやかに変化して違和感がなくなっていった。運営側の遊びが視聴者の楽しみ方とピタッとハマった例だろう。
にじさんじの公式チャンネルでは、倉本美津留が「ミラクルプロデューサー:クラもとミつル」としてアバターをまとって登場する『もっとミラクル!にじさんじ』という番組が配信されている(有料会員限定)。
にじさんじのライバーがやりたいことを「クラもとミつル」と台本なしでトークし、もっとおもしろいミラクルを起こそう、と現実的に探っていく内容だ。
クラもとミつルの姿はイケメンな奇術師のようで、かなりぐりぐりと動いてライバーに話しかけることができる。あくまでも一緒に夢を叶える水先案内人は「クラもとミつル」なので、倉本美津留本人は登場していない、というスタンスだ。
思いもしないようなかたちで、夢だと思っていたことを現実にしていく彼の行動力は、アバターと相まって本当に魔術師のように映る。
隠すことはプラスかマイナスか
YouTubeの登録者数1億人超えのPewDiePieは、普段は自分の姿を映しているYouTuber。しかし今年の頭にアバターを利用して動画を投稿したことがあった。
これは「アバター化」というよりは「顔出ししない場合再生数は減るのかの実験」というほうが近く、いろいろな種類のアバターをとっかえひっかえ使用していた。結果としてアバター定着はしなかったようだ。それよりもトップYouTuberがアバターでの配信文化を意識した、ということ自体が大きな時代の変化だ。
ひろゆきこと西村博之も、中田敦彦のアバター化の話題に乗って、アバターを使った配信を行ったことがある。これはあくまでも「配信時にアバターでどこまで表情が出せるか」の実験だったようだ。ちなみに使用しているのはバーチャルアバターを動かすツール「FaceRig」の最初からついているアバターのひとつ。結果としては、ファンからはギャグとして捉えられたようだった。
PewDiePieもひろゆきも、声と顔のイメージが一致しているがゆえに、違和感がものすごい。顔がコンテンツとして定着しているからだ。
おそらくまったく知らないVTuberが最初からこのアバターのこの声で話していたら、(人気が出たかどうかはともかく)違和感なくすんなり受け入れられただろう。そもそもVTuber文化より遥か前から、アバターイラストを用いて顔出しせず、トークや歌を披露する配信者は無数にいる。
「最初から顔出しをしない」ということ自体は、創作コンテンツのデメリットにはならない。ずっと真夜中でいいのに。、ヨルシカ、Eve、Ado、さよならポニーテールのようなアーティストは大ヒットソングを多数生んでいるが、アーティストの顔は基本出さず、MVはアニメーション等だ。そもそも自身のキャラクター性を売るわけではない場合、音楽を純粋に聴いてもらう際の邪魔にすらなるので出ない、という人もいる。
ゲーム実況者も顔出ししない人がほとんどだ。アイコンはあるものの、自身の顔は基本的に画面に映さない。見せるべきは顔ではなく、ゲームプレイのおもしろさとトークだからだ。
その点、大手実況者であるガッチマンが、それまでは動画では顔出しをしようとしていなかったにもかかわらず、バーチャルアバターを制作して3Dでの活動を開始したのは大いに話題になった。VTuber「ガッチマンV」としてのキャラ売りと、顔を出さないゲーム実況者「ガッチマン」の両輪で現在は活動しており、どちらも大成功。意外と被っていないVTuberファンとゲーム実況者ファンの両方にウケている。
すでに顔出しをしてデビューしたタレントの場合、その人の「顔」を見つづけてきた視聴者からしたら、突然のアバター化は「顔」という情報が突然減ってしまったマイナスに見えてしまうのも事実だ。PewDiePieもひろゆきも中田敦彦も、みんな顔と動きも含めて1タレント・1キャラクターとして見ている。本人たちは「顔に頼らないコンテンツを提供しています」という自信があっても、ファンは「その人が話しているから観たい」と感じてしまうものだ。
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