「主流」に対する妨害として実に「効く」
タワゴトの積極的拡散の主たる効用は、主流的理性や価値観の足を引っ張ることといえる。主流的理性や価値観とはすなわち、『朝日新聞』など、いけすかない既得権層に属する言論人や思想人どもの武器であり、そいつらはすなわち俺たちアタシたちをずっとないがしろにしてきた連中であり、偽善が多分に含まれた業界ギルドであり、ゆえにヤツらをタワゴトの力で制裁するのは、一種の逆説的正義といえる!
……のだ。
それは正々堂々たる勝負ではなくむしろテロ・ゲリラ・パルチザン戦であり、戦略的な勝利のための陰湿な小技の積み重ねだが、史実が示しているとおり、「主流」に対する妨害として実に「効く」のである。
なんというか、権威層がやたらに肥大化しながら偽善含みの理性をシステム的に押し通そうとする光景が常態化したドイツの人から見て、これはこれでわかるんですよね心情的に。
でも私の場合、たとえば、その先で最終的に得られるサムシングがどうにもしょぼくてむしろ屈辱的に感じられるので加担しないのだ。まあ、理由はほかにもいろいろあるけれど。
……ただし、それだけではいわゆる極右極左活動家とかのやってることと大差ない。
特にイマドキの陰謀論的ムーヴメントを考えるにあたって印象的だったのが、ABEMA PrimeでやっていたQアノン支持者特集(『“Qアノン”日本人に聞く陰謀論』2021年1月16日)だ。
日本のQアノン支持業界のオピニオンリーダーと目される方々をピックアップして、スタジオのレギュラーコメンテーターとバトらせるという定番の展開。で、思想的な傾向から見てQアノン陣営はひろゆき氏を自分たちの味方と想定していたっぽいのだが、まさにそのひろゆき氏によってボコボコにされておしまい、という展開だった。嗚呼。
ここで興味深いのが、ひろゆき氏にボコられるQアノン業界代表に対してネット上のQアノン支持層がまるで同情的でなく、擁護の動きが極めて希薄だったことだ。むしろDisる動きが目立ったとさえいえる。曰く「あんなメンツを出演させるのが間違ってる。いやあの人選自体、マスコミ的なネガティブ作為に違いない!」と。
ひょっとして実際にそういう人選だったのかもしれない。その点について断じる根拠をわたしは持っていないが、この手のネット情景を長年見つづけてきた者の感想として、たとえば、何かのアンチ業界の怨念を背負いながらタレコミ告発系YouTuberの配信に電話で凸ったけど表現力不足であえなく爆死しちゃった凸者(告発者)に対する、「せっかくの弾劾チャンスだったのに、なにヌルいことしてんのよ……」的なガッカリ反応とは違う、なんともいえない明確な冷淡さがそこにあったのが印象に残る。
ヤツらは同情やフォローに値しない
これはなんなのか。
ひとつ直観的に感じたのは、件のアベプラ番組にて、Qアノン代表陣営の皆様は、
「顔出し・名前出しでメジャーな発言の場を与えられた」
ことだけで、もうすでに一定のQアノン支持層にとって「仲間でない」存在と化していた、ということ。そもそもネットとマスコミの境界、汽水域に位置するアベプラがメジャーといえるのか?というツッコミはあるだろうけど、マスコミ人にはわからない(あるいは見ようとしない)非リア充なネット民的感覚とはそういうものだ。
ゆえに、ヤツらは同情やフォローに値しない。
もしわたしがQアノン支持的な存在だったら、スマホを見ながら思うだろう。
自分たちが構築している反権威的な「正しい」言論ムーヴメントは、あんなマスコミ迎合的なヤツらではなく、まさに自分たち、無名のネット民たちが先鋭化させた言霊の集積で生成され、既得権層を脅かし、社会に食い込んでいくのだ、と。
無名であるがゆえの勝ちパターン
これはたとえば、歴史アクション映画『300』でも描かれた古代ペルシャ帝国の精鋭部隊「不死隊」のコンセプトを思い出させるものがある。
不死隊がなぜ「不死」なのかといえば、誰かが斃れれば即ほかの誰かがその穴を埋めて突き進むからだ。そして飽和攻撃で敵を圧倒し、蹂躙する。
そういえば、いわゆるネットリンチ問題で特に嫌がられるもののひとつに、匿名アカウントからの飽和攻撃がある。無名の精鋭からの飽和波状攻撃は、致命的ではないにしろ想像を絶する無限の不快感をターゲットに与えるのだ。
「悪名は無名に勝る」というけれど、逆に「無名であるがゆえの勝ちパターン」がここに醸成されつつある気がする。
無名であることの有利さ。
それはたとえば「無責任でいられる」ことだ。何か好ましからざる方向に風向きが変わったら、すぐ別の話題に移ってそこに集中すればいい。明確な殺害予告や脅迫で足がつくようなドジを踏まない限り、ちょっとしたデマの拡散ぐらいでいちいち咎め立てを食うことはない。もし仮にあったとしても、別アカウントを即作ればいいだけのこと。
先日の米大統領選挙絡みではいろいろと妙な情報が飛び交ったが、選挙後に騒がれていた「トランプ起死回生の大反撃」がどうも期待のシナリオどおりにいかなそうだと見るや、それまでトランプ兄貴イケイケで煽っていたアカウントがいきなり日本国内のフェミニスト叩きに転じ、「え? 前からこの路線でやってましたよ」感を醸し出していた情景とかは興味深かった。
そして逆にいえば、トランプ応援やり過ぎ的ムーヴの中心で「名前」が目立ってしまった個人なりアカウントには、逃げ・ごまかしが利きにくい的なデメリットがあったといえる。いろいろ凝った状況解釈を提示しながら正当化を図らなきゃならなくなったりして。
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