黒島結菜が光オタクを演じた『ハルカの光』を愛おしむ。珍しいEテレ本格ドラマが傑作だった

2021.3.18


光オタクの主人公、黒島結菜の魅力

「私は一日中、光のことだけを考えていたいの。私から光を奪わないでください」

主人公のハルカは美しい照明なら何時間でも見ていられる「光が恋人」と言って憚らない“光オタク”の女性。名作照明の専門店「éclat」(フランス語で「輝き」という意味)」で働きつつ、売り物の照明たちを「この子」と呼んでかわいがっている。

ハルカを演じるのは、黒い眉が凛々しい黒島結菜。先日、2022年の朝ドラ『ちむどんどん』でヒロインを務めることが発表された今、まさに旬の女優である。同じNHKの『アシガール』では、戦国時代にタイムスリップして戦場を駆け巡る「溌剌」を絵に描いたようなショートカットの女子高生を好演していたが、本作では黒髪がすっかり伸びて「静」の魅力をたたえている。いつも白い服を着てスッと立っている彼女の姿は、まるで電球の中のフィラメントのよう。それでいて照明の話になると愛情が爆発するのだからおもしろい。

『アシガール』DVD/Happinet
『アシガール』DVD/Happinet

ハルカと彼女を見守る「éclat」オーナーの西谷(古舘寛治)のもとへ照明を求める客がやってきて、それぞれのストーリーが紡がれていく。そこにハルカが語る名作照明の持つエピソードが絡んでいくという仕掛け。照明監修を務めた萩原健太郎の著書『ストーリーのある50の名作照明案内』(トゥーヴァージン)をもとに、制作スタッフが自由に発想をふくらませて作り上げられた。脚本は『毒島ゆり子のせきらら日記』(TBS)などの矢島弘一が務めている。

ドラマ全体の雰囲気は静かでオフビート。青い暗がりと橙の光のコントラストが全編を包み、スタイリッシュでありながら温かい作品に仕上がっている。

ポップなお遊びも多く、タイトルが『ピタゴラスイッチ』風になっていたり、ボクサーが登場する第3話では『ロッキー』のテーマに合わせて巨大なタイトルが横から流れてきたりした。ハルカがショーウィンドウを見つめるシーンで『ティファニーで朝食を』のテーマ「ムーンリバー」が流れたり、ボクサーがやる気になるとクイーンの「ウィー・ウィル・ロック・ユー」が流れたりするなど、ちょっとベタな選曲も楽しい。

『ストーリーのある50の名作照明案内』萩原健太郎/トゥーヴァージン
『ストーリーのある50の名作照明案内』萩原健太郎/トゥーヴァージン

名作照明と東日本大震災

照明を求めて店にやってくる客は、同時に人生を照らす希望の光を求めている。

たとえば、この道40年の寿司屋の大将・岡林(イッセー尾形)は長年連れ添って店を切り盛りしてくれた妻を亡くして失意の底にあった。そんな彼にハルカはフィンランドの建築家、アルヴァ・アアルトの名作照明「ゴールデンベル」を紹介する。

この名作照明はアアルトの妻、アイノの手助けによって生み出されたもの。アルヴァとアイノはお互いに支え合いながら生涯にわたって共に仕事をつづけてきた。光に温かみを感じた岡林はアアルトの照明を家に持ち帰り、妻の遺影を光にかざしながら別れの酒を傾ける。

年老いた大学教授の古山(塩見三省)と彼の元教え子の良太郎(渡辺大知)は恋人同士だった。重い病に冒されている古山は若い恋人の未来を奪うのではないかと結婚を躊躇していたが、身内として古山の力になりたいと願う良太郎は結婚を強く望んでいた。ハルカが彼らに紹介したのは、ドイツの照明デザイナー、インゴ・マウラーが手がけたハートの形をした「ワン・フロム・ザ・ハート」。

ソファーに並んで腰かけるふたりの間の壁に、照明から発せられたハート型の光が浮かび上がる。この名作照明は、マウラーの結婚する友人のために作られたものである。。

ハルカ自身も名作照明に出会う前は、人生の希望を見失っていた。東日本大震災で被災し、避難所での生活を余儀なくされていた少女のころ、母(山下容莉枝)に笑うことも喜ぶことも禁じられていた。母は家族の誰も犠牲にならなかったことに罪悪感があったのだ。それ以来、母親との関係はうまくいかなくなってしまった。

故郷と家族を捨てるように上京して働いていたが、営業先でセクハラに遭ってしまう。落ち込んで歩くハルカの目に映ったのが「éclat」に飾られていたベルトラン・バラスによる名作照明、その名も「ヒア・カムズ・ザ・サン」だった。彼女は温かな光を見つめて涙を流す。震災から1年後、ハルカを救ったのはようやく漁を再開した父が乗る漁船の光だった。そのときに見た光と照明の光を重ね合わせていたのだ。

最終回が放送されたのは東日本大震災から10年を目前に控えた3月8日。そのことは多分に意識されており、ハルカは改めて震災で負った心の傷を見つめ直すため、故郷へと帰っていく。

ハルカが照明を「この子」と呼ぶのは、人々の生活の中にある「光」は生きていると考えているから。生活に寄り添う光は、時として希望の光になる。そんなことをこのドラマに教えられた。何よりも黒島結菜、イッセー尾形、塩見三省ら、出演者たちの表情を光が照らすシーンがどれも印象的だった。とりわけ、おじさんたちの顔に刻まれた深い皺がカッコよく見えた。ハルカの少女時代を演じた田牧そらの表情も素晴らしかった。

きれいに終わったので続編などはないと思うが、何度もリピートして愛でたくなるドラマだった。ちょっとお値段は高いかもしれないが、いい照明を買ってみたくなる気分になる。はっ、これってハルカの思惑どおりなのかもしれない……。


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大山くまお

1972年生まれ。名古屋出身、中日ドラゴンズファン。『エキレビ!』などでドラマレビューを執筆する。

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