『花束みたいな恋をした』と菅首相長男の違法接待から“社会と個人”について考える
2020年1月、20年代の始まりに『ポスト・サブカル焼け跡派』という書籍を上梓した1984年生まれのふたり組のテキストユニット、TVOD。同ユニットのパンス氏とコメカ氏のふたりが、前月に話題になった出来事を振り返る時事対談連載の第4回をお届けします。
今回は、1月29日に公開されて6週連続で興行収入1位を記録した映画『花束みたいな恋をした』と、菅首相長男による東北新社の接待問題から社会と個人の関係、「大人になる」という問題について考えていきます。
坂元裕二は恋愛を「終わりある時間」として考えている
コメカ では、TVODが2月を振り返ります。とりあえずカルチャー系の話題として我々の周囲でも話題になっていたのは、1月29日から公開された映画『花束みたいな恋をした』ですかね。『いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう』『カルテット』などで知られる坂元裕二の脚本、菅田将暉・有村架純のふたりによる主演というかたちで、現在進行形でヒットをつづけています。
パンス はい。とても話題になっているね。TVODもご多分に漏れず言及しているけど、今回はそんなふたりの意見をガチンコ衝突させていきたいと思ってます(笑)。まず、この手のさまざまな人を巻き込んで議論される映画に関しては、その「語られ方」が気になってしまうのよね。コメカ君からはそのような状況ってどう見えているでしょうか。
コメカ この映画ってけっこういろいろな角度から観られる作品だと思うんだけど、語る人によってその言及角度が割れているのがおもしろいなと思ってますね。恋愛における自分の感覚や記憶・体験について話している人もいれば、労働問題的な側面に注目したり、ジェンダー論的に考えている人もいる。劇中に出てくるサブカル記号について意見している人もいるし。
まあもちろんあらゆる物語作品はそういう多角的な読みがなされ得るわけだけど、読み手の「語り」を誘発しやすい構造をこの映画は特にうまく実現できているなあと。個人的には、この作品のコアはやっぱり良くも悪くも「ラブストーリー」だと思ってるけどね。
パンス TikTokで「花束みたいな恋をした」で検索すると、主題歌をバックにふたりになりきるカップルの動画がたくさん出てきておもしろいよ。基本的にはラブストーリー的なとこが受け入れられてヒットしているのがよくわかる。
コメカ 坂元裕二本人も「憧れでも懐かしさでもない、現代に生きる人々のためのラブストーリーを描きたいと思った」と話しているけど、彼は一貫して「終わりある時間としての恋愛」を自身の作品で描いているということができて、本作もそういう物語になっていると思う。
でね、「主人公である麦と絹には、別れずに共に生きていく道はなかったのか?」っていう論点があると思うんですよ。これが観る人によって意見が大きく別れると思うし、僕が先日出演させてもらったTBSラジオ『文化系トークラジオ Life』でも、リスナーの皆さんや出演者の方々の間で考え方が違っておもしろかったんだけど。
パンス うむうむ。おもしろいね。そんな中でコメカ君はどんな意見なの?
コメカ 僕はねえ、坂元裕二という作家自体は、さっき言ったように恋愛というものを「終わりある時間」として考えていると思うんですよ。恋愛というものが必ず終わりを迎えるある種の刹那としてあるのなら、人はそれをどのように経験し、そしてそのあとどのように生きていけばいいのか?っていうのが彼の作家としての主題のひとつだと思うのね。だからまあ坂元が書いたキャラクターとしての麦と絹は「終わり」を運命づけられたふたりだと思うんだけど。
ただそういう作家論的な角度ではなく、麦と絹というふたりの若者の姿を見た自分の考え、って角度で言うとねえ……どうだろうな、でもやっぱり別れるしかなかったんじゃないかと思う(笑)。僕はこのふたりの経験を成長譚として捉えてるんだと思うんだよね。恋愛や文化体験の共有を喪失することでひとつ強さを身につける、っていう感覚で見てるんだと思う。
パンス 基本的に成長譚であるというのには同意。ただ、成長のあり方が固定化されているとしたら問題だと思うのよ。好きだったカルチャーをわりと捨てて次のステージに行くみたいなのって、要はモラトリアムの終わりってことだよね。しかしそんなにきれいさっぱりと断念できるもんかねと思う。人生は行ったり来たりだと僕は考えているので、そう直線的には進まないよと。
主題として恋愛には終わりがある、というのはわかるけど、別に人生は終わらないので。で、そういう抽象的なレベルの話がありつつ、この映画は今の社会を的確に表現していると思う。というか、受け手の捉え方によって、現代社会をどう捉えているかが試されているという感じがしたな。
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