映画『ノマドランド』から考える21世紀の“新しい”生き方

2021.3.11

「リバタリアニズム」のイメージ

──ガタリが、スキゾ分析では、患者だけでなく、医者も謝礼を払うべきだと言いましたね。ところで、ファーンの姉ドリーが、ノマドがやっていることは開拓者たちがやったことと違いはなく、あなたはアメリカの伝統を受け継いでいると称賛しますが、アメリカには、「ホーボー」の神話化がありますね。1930年代の大恐慌の前後に増大した浮浪の人々と、そこからウディ・ガスリーのようなフォークシンガーが生まれ、それがボブ・ディランにまで引き継がれている、と。

1月の大統領就任式でウディ・ガスリーの「This Land Is Your Land」をカバーしたジェニファー・ロペス

確かに、ノマドとホーボーとは重なる部分があるが、ホーボーは、なければないほうがいいい類の存在なんだな。そして、その中で強者が生き残る。それに対して、『ノマドランド』のノマドは、積極的にノマドでありつづけ、かつ強者や支配者にはならないようにする。ファーンは、2008年のリーマンショックで工場が閉鎖され、町自体が過疎化したことがノマドになる動機だった。しかし、彼女は別の町に移り、新たな職を得ることもできなくはなかった。それでも彼女がノマドを選んだのは、定住と所有そのものと決別する決意を抱いたからです。

──そうか、映画を観ていてデヴィッド・ストラザーンの演技が浮いていて、そのキャラクターの存在自体がよけいだと思ったんだけど、そうではなくて、ファーンのノマド性を明確にするためには必要なキャラだったんですね。ノマドの仲間に加わってはいるが、本当は「定住」を求めている非ノマド人間として対置されている。

だから、ストラザーンはいい仕事をしてるんですよ。しかし、アカデミー賞の選考者たちはそうは見ないだろうな。先ほど出たドリーからの称賛も、ファーンからすれば、わかってないなという面がある。ドリーを演じたメリッサ・スミスもプロの舞台監督・俳優です。非ノマド的な役にはプロを配置してるのさ。

デヴィッド・ストラザーン演じるデイブは、放浪生活の中でファーンと交流を深めていく

──かつてアメリカは、「人種のるつぼ」と呼ばれ、世界のあちこちからやってくる移民者がそこで「溶け合い」「アメリカ人」として一体化するのを「夢」としました。しかし、事実は、白人主導の文化に異文化を統合しようとしたのであり、60年代以後、その内部にうずまく差別と抑圧への批判が高まり、代わって「サラダボウル」というパラダイムが出てきます。無数のルーツや文化を持つ人々が共生する場としての新たな夢です。しかし、これもまた、今や、トランプの「MAGA(Make America Great Again)」でぶっ壊れようとしている。「ノマド」は、それに対抗する新しいパラダイムになれるのかな?

トランプは、「サラダボウル」に大味でアメリカンなケチャップをぶっかけてるわけね。それは、意外と成功していて、トランプが去ったあとの共和党は、ネオリベやレッセフェールの自由主義を標榜する古典的な共和党路線がどんどん後退し、MAGAを掲げるトランプ派が主流になっている。しかしね、その一方で、「リバタリアン」の方向に興味を示す流れも生まれつつある点は注目じゃないかな。

──「リバタリアニズム」って、日本語では「自由至上主義」とか「自由意志主義」なんて訳されてますが、翻訳し切れてないですね。2020年の大統領選挙でリバタリアンたちの多くは、トランプにではなく、バイデンに投票したんでしょう。革新であり保守であり、個人主義であり、わかりにくいですね。

うん、そこが人気の鍵なんでしょう。リバタリアン党(LP)なんてのもできていて、大統領候補を出したりし始めているが、重要なのは「党」なんかの概念に収まり切らないところじゃないか。その点、『ノマドランド』のほうが、リバタリアニズムのイメージが掴めるかもしれない。

21世紀の生活で考えなければいけないこと

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