『機動警察パトレイバー2』が示した「平和という言葉がウソつきたちの正義」にならないために必要なこと

2021.3.2
藤津亮太ジャーナル

文=藤津亮太 編集=アライユキコ


2月26日。1936年、陸軍青年将校たちが、天皇中心の軍事政権を目指し、1400人余りの軍人を率いて起こしたクーデターを企てた日である(29日未明、未遂に終わる)。時の大蔵大臣・高橋是清ら閣僚9人が殺害された「二・二六事件」を設定に組み込む『機動警察パトレイバー2 the Movie』を端緒に、『アニメと戦争』を上梓したアニメ評論家・藤津亮太が考える「戦争と現実」。


アニメ映画史上に残るマスターピースのひとつ

先週金曜日が2月26日だったので「理想」と「現実」についてアレコレ考えた。

といっても二・二六事件について考えたわけではない。入り口は『機動警察パトレイバー2 the Movie』。「戦争」と「平和」を主題にしたこの映画のクライマックスが、2002年2月26日という設定なのである。『パトレイバー2』は1993年の公開だが、ちょうど2月から4DXでのリバイバル上映も始まっていることもあり、改めてこの作品について考えてみたくなったのだ。

『機動警察パトレイバー2 the Movie 4DX』予告編

本作の監督は、映画『花束みたいな恋をした』の作中で言及され、当人が本人役で出演したことで(一部で)話題になった押井守。ストーリーも押井のアイデアによるもので、押井濃度がとりわけ高い一作になっている。日本のアニメ映画史上に残るマスターピースのひとつといってよい。

本題に入る前に、本作がどうしてマスターピースなのかを説明しておこう。本作は、単に現代日本を舞台にしたポリティカルフィクションとしておもしろいだけではなく、「アニメで“映画”を作るにはどうしたらよいか」という問いに対し、ひとつの回答を出し、のちの作品に大きな影響を与えたからだ。

ここでひとつの目標あるいは理想として語られている“映画”とは、単純に映画館の大きなスクリーンにかかる映像作品を指すわけではない。ここでいう“映画”とは、フレームで切り取られた映像の中の情報量と、それぞれの映像のつながり(編集)をコントロールすることで、その作品固有の時間と空間を表現することに成功した作品のことだ。

アニメは、すべてが絵であるため、実写より情報量が少なく、放っておくと人間も背景も“書き割り”にしかならない。そんなアニメでいかに“映画”らしい時間と空間を獲得するのか。押井監督は、先人のさまざまな挑戦を踏まえた上で最終的に、レイアウト(フレームの中に何をどのように描くかを決める設計図)の段階で、画面の中の空間感と情報量をコントロールするという方法論を確立したのだ。押井監督自身、のちに、自分の映画の作り方は本作で確立されており、次作である『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)はそのシステムに則って作っただけだという趣旨の発言をしている。

そして、本作のレイアウトをまとめた書籍『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』は、アニメ制作の現場でも一種の教科書的に広く読まれることになり、1990年代後半に普及する「カメラレンズを意識した画面作り」を底支えすることになった(ちなみに実際にレイアウトを描いたスタッフのひとりとして、のちに『千年女優』『パプリカ』などを監督する今敏が参加している)。

『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』押井守/KADOKAWA
『Methods 押井守「パトレイバー2」演出ノート』押井守/KADOKAWA

「冷戦後の戦争」を扱う唯一のアニメ『パトレイバー2』

この記事を気に入った方はサポートをお願いします。次回の記事作成に活用いたします。

この記事の画像(全3枚)


関連記事

この記事が掲載されているカテゴリ

藤津亮太

Written by

藤津亮太

(ふじつ・りょうた)アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関係の執筆を始める。『アニメの門V』(『アニメ!アニメ!』)、『主人公の条件』(『アニメハック』)、『アニメとゲームの≒』(『Gamer』)といった連載のほか雑誌、Blu-rayブックレット、パンフレットなども多数手が..

QJWeb今月の執筆陣

酔いどれ燻し銀コラムが話題

お笑い芸人

薄幸(納言)

「金借り」哲学を説くピン芸人

お笑い芸人

岡野陽一

“ラジオ変態”の女子高生

タレント・女優

奥森皐月

ドイツ公共テレビプロデューサー

翻訳・通訳・よろず物書き業

マライ・メントライン

毎日更新「きのうのテレビ」

テレビっ子ライター

てれびのスキマ

7ORDER/FLATLAND

アーティスト・モデル

森⽥美勇⼈

ケモノバカ一代

ライター・書評家

豊崎由美

VTuber記事を連載中

道民ライター

たまごまご

ホフディランのボーカルであり、カレーマニア

ミュージシャン

小宮山雄飛

俳優の魅力に迫る「告白的男優論」

ライター、ノベライザー、映画批評家

相田冬二

お笑い・音楽・ドラマの「感想」連載

ブロガー

かんそう

若手コント職人

お笑い芸人

加賀 翔(かが屋)

『キングオブコント2021』ファイナリスト

お笑い芸人

林田洋平(ザ・マミィ)

2023年に解散予定

"楽器を持たないパンクバンド"

セントチヒロ・チッチ(BiSH)

ドラマやバラエティでも活躍する“げんじぶ”メンバー

ボーカルダンスグループ

長野凌大(原因は自分にある。)

「お笑いクイズランド」連載中

お笑い芸人

仲嶺 巧(三日月マンハッタン)

“永遠に中学生”エビ中メンバー

アイドル

中山莉子(私立恵比寿中学)
ふっとう茶☆そそぐ子ちゃん(ランジャタイ国崎和也)
竹中夏海
でか美ちゃん
藤津亮太