『機動警察パトレイバー2』が示した「平和という言葉がウソつきたちの正義」にならないために必要なこと

2021.3.2


大村知事リコール署名の最高意思決定の場は?

ここまで理想主義と現実主義を対立するものとして書いてきたけれど、おそらくそれは間違っているのだ。荒川の指摘に、そこを考えるヒントがある。「平和という言葉がウソつきたちの正義」にならないためには何が必要なのか。

それはつまり「平和」という理想を盲目的に称えるのではなく、戦争のあるこの世界の中でどう位置づけるかという具体性を持った検証が必要ということだ。この指摘はつまり本作で、柘植が「理想主義」に見えることの裏返しでもある。

「現実を欠いた理想主義」も「理想を欠いた現実主義」もどちらも不毛だ。理想を掲げ、そこに向かうルートを現実主義的に見極めていくということが必要で、「理想主義」がゴールなら、「現実主義」はルートなのである。理想主義と現実主義をこうやって一連のものとして考えていくことが大事なのではないか。

そんなことを考えていると、ツイッターのタイムラインには愛知県の大村知事リコール署名に、組織的な偽造が見つかった件に関してさまざまなニュースが流れてきた。これもスタート地点にそれなりの「理想」はあったのだろうけれど、その「理想」が最優先され過ぎた結果、「現実主義」的なルートを見極めることができず、現実を歪める方向に進んでしまった事件というふうに見えた。ここでは「平和という言葉がウソつきたちの正義」になってしまったのだ。

『パトレイバー2』に出てくる後藤隊長の有名なセリフ。


「戦線から遠のくと、楽観主義が現実に取って代わる。そして最高意思決定の段階では、現実なるものはしばしば存在しない。戦争に負けているときは特にそうだ……」


リコール運動の最中、最高意思決定の場において、「現実」が見えていないという意識はどれぐらいあったのだろうか。


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藤津亮太

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藤津亮太

(ふじつ・りょうた)アニメ評論家。新聞記者、週刊誌編集を経て、2000年よりアニメ関係の執筆を始める。『アニメの門V』(『アニメ!アニメ!』)、『主人公の条件』(『アニメハック』)、『アニメとゲームの≒』(『Gamer』)といった連載のほか雑誌、Blu-rayブックレット、パンフレットなども多数手が..