初詣などしなくとも人は生きていけるけど……
新年に向け着々と準備が進んでいた年の暮れ。隔離されている部屋で夜ゴロゴロしていると、電話がかかってきた。父親だった。「のう、なんか体がおかしいんや……今日の夜から急に寒気がしてのう……これはいよいよコロナになったかもしれん……」と憔悴した様子。「……お父さんにもしものことがあったらお前……正月の神社頼むぞ……」と遺言めいたことを言ってくるので私も不安になり、とりあえず早く検査行きなよと勧めた。
確かに父は70代後半の後期高齢者であり、コロナになったら特に危険な年齢層にがっつり当てはまっている。普通に肉親として心配でもあるし、急に正月の神社を仕切れと言われても自分にそんな能力はない、という実務的な心配もあった。
翌日検査を受けた結果、無事陰性だったらしくひと安心したが、父親は腑に落ちない顔で「なんとか陰性やったけどのう……PCR検査にも失敗はあるって言うし……」とまだブツブツ言っている。凡庸な検査結果に終わったことにやや拍子抜けしているようにも見えたが、田舎の高齢者は私の想像以上にコロナが不安なのだなと実感した。
それで初詣にはどのくらいの人が来たのか。私が「今年はたぶん人来ないから楽そうですね」と手伝いに来てくれていた神主さんに言うと、その人は「いや、金比羅さんとか有名な神社に行ってた人がうちみたいな近所の神社に来るようになって逆に人が増えるのではないか」と答えた。確かに、と思った。
しかし結果から言うと、やはり例年に比べ参拝客は少なかった。年が変わる瞬間、いつもなら賽銭箱の前に30メートルくらいの列ができているのが、今年は見た感じ15メートルくらいで、1時間も経たないうちに列はなくなった。
そして列の中にはまったくと言っていいほど老人が含まれておらず、若者ばかりが神社に集まっている非常に珍しい光景が生まれていた。元日の昼以降は高齢者の姿も徐々に増えたものの、三ヶ日の人出は例年の5~6割程度だった気がする。
神社の内側にいる私が言うのもなんだが、最悪初詣などしなくとも人は生きていける。しかし、かなりコロナを恐れながらでもなんとか初詣をしていい年を願いたい、という地元の人々の姿に切ない祈りを感じ、ややグッとくるものがあった。
ちなみに香川有数のでかい神社へ初詣に行った友人の報告によると、でかい神社の参拝客の減少率はうちの比ではなかったらしい。毎年ぎゅうぎゅうに人が並びすし詰めのような状態だったのが、今年はほとんど並ぶこともなかったと言っていた。神主さんが言っていた予想もわりと当たっていたようだ。
参拝客は減っても忙しさは大して変わらなかったし、むしろ地元の人に東京帰りでビビられているのではないかとやたら気を遣って疲れた。夜に地元の友人と居酒屋などに行こうとしてもことごとく店が閉まっていたし、いいことはなかった。
コロナの副次的な影響によって楽をしようとするのはもうやめて、今後は心からコロナの沈静化を願っていきたいと思う。