昼は落語家、夜はヤクザのダブルワーク
『タイガー&ドラゴン』は、宮藤官九郎脚本、長瀬智也、岡田准一主演でスペシャルドラマが1作(『タイガー&ドラゴン「三枚起請の回」』)、その続編というかたちで連続ドラマが全11話放送された。脚本の宮藤、プロデューサーの磯山晶、演出の金子文紀という布陣は『俺の家の話』とまったく同じ。そして何より、主演の長瀬、共演の西田敏行という組み合わせも同じである。
これまで発表されている『俺の家の話』の設定と『タイガー&ドラゴン』を比較すると、さまざまなリンクがあって非常に興味深い。まずは『タイガー&ドラゴン』について振り返ってみたい。
主人公は冗談がまったく通じないヤクザの山崎虎児(長瀬)。幼いころの複雑な過去によって「笑い」を忘れてしまった彼が、借金の取り立てのために偶然、林屋亭どん兵衛(西田)の古典落語を観て笑いに目覚め、押しかけ弟子となる。虎児は林屋亭小虎の名を与えられ、昼は落語家、夜はヤクザのダブルワークをすることに。
どん兵衛の実の息子、竜二(岡田)は幼少のころから天才落語家と言われていたが、あるきっかけで廃業、現在は裏原宿で洋服店「ドラゴンソーダ」を営む。実はどん兵衛の借金はこの店が原因であり、親子の関係は非常に悪い。
どん兵衛が虎児に教える古典落語のストーリーが現代の物語とシンクロして進み、最後には見事なオチがつく。笑いのセンス皆無だった虎児だが、自分の経験を古典落語に重ね合わせた説得力抜群のノンフィクション落語(劇中では「ヤクザ落語」とも)で人気を博していく。
主人公を救う「コミュニティ」と「フィクション」
孤独だった虎児を救ったのが、コミュニティとフィクションだ。
まず、彼が拾われたのはヤクザという組長(笑福亭鶴瓶)を中心とした疑似家族だった。その後、住み込み弟子になるどん兵衛の家には、妻(銀粉蝶)、長男(阿部サダヲ)の家族のほか、弟子たち(春風亭昇太、星野源、深水元基、浅利陽介)が生活している。虎児のセックスフレンド(?)のメグミ(伊東美咲)やジャンプ亭ジャンプ(荒川良々)も生活していたことがあった。落語の師匠を中心とした大家族的なコミュニティの中で、債権者と負債者だったはずの虎児とどん兵衛は親子のような情愛で結ばれていく。一方、家族からはぐれた竜二は裏原宿で店員(蒼井優)や友人(桐谷健太)らと小さなコミュニティを築いていた。
フィクションとは、もちろん落語のこと。落語の滋味にあふれたストーリーと複雑な現実を重ね合わせ、自分の中に取り込んでいくことで虎児の孤独は癒やされていく。落語の中の人物に扮する再現劇も毎回登場した(長瀬と女装した西田が夫婦を演じることが多い)。また、フィクションとは「自分の好きな世界」という意味でもある。虎児は好きな落語にのめり込み、服役中も落語の本を読み漁ってネタを覚えてしまうほどだった。竜二も自分の好きな服の世界で生きようとしていた。
落語の本歌取りを見事に決めた『タイガー&ドラゴン』だったが、放送時から西田敏行主演のドラマ『淋しいのはお前だけじゃない』(市川森一脚本)の本歌取りだと指摘されていた。『淋しいのは~』では、借金取り(西田)が大衆演劇の一座にのめり込んでいく物語だった。宮藤は「思わず唸ったドラマ3選」という企画で『淋しい~』を1本目に挙げている(TOKYO FM『アポロンの秘密』2013年7月3日)。西田も自身が演じた役について「この作品の小虎(虎児)も似てるね」と当時、出囃子を担当した落語家の瀧川鯉朝に語ったという(ツイッター 2020年12月26日)。ドラマ評論家の成馬零一は市川森一ドラマの特徴である「虚構の世界にのめり込み、今度は物語の力で現実の自分を救っていく」という構図が『タイガー&ドラゴン』やその後の宮藤作品『あまちゃん』と共通すると指摘していた(『キャラクタードラマの誕生』河出書房新社)。
そして16年後の『俺の家の話』
『俺の家の話』は若いころに家出したプロレスラーの観山寿一(長瀬)が、父親で能楽師の寿三郎(西田)の介護のためにプロレスを引退して家に戻ってくる物語である。なんだか『タイガー&ドラゴン』の虎児と竜二のハイブリッドのような役柄だ。古典芸能の世界が舞台になっているのも共通しているし、寿一が身を投じていたプロレスの世界も疑似家族のようなコミュニティが築かれる。もうひとつの舞台となる介護センター(名前が「集まれやすらぎの森」!)も一種のコミュニティだろう。そしてプロレスも能も落語と同じくフィクションを演じるエンタテインメントだ。
『タイガー&ドラゴン』と『俺の家の話』はさまざまな部分でリンクしている。だからこそ、両方の作品を見比べてみると2005年から16年経った今の日本がどんな社会になっているかがよくわかるのではないだろうか。楽しみでもあり、少し怖くもある。
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