糞みたいな年の<糞みたいなおじさんベスト5>岡野陽一

2020.12.28

まずは第5位!


第5位「掴み取りじじい」

今から20年近く前。
僕がパチンコを覚えたてで、猿のように毎日パチンコ屋に通ってた頃の京都のパチンコ屋でのお話。
余談だが、あの頃の写真を見ると僕はパチンコをやり過ぎて目ん玉が銀色になっていた。

あれは人間じゃない。パチンコ猿の目だ。

当時、パチンコ屋では色んなイベントが行われていた。
その日はパチンコ玉の掴み取りイベントの日。
ルールは簡単。銀色のパチンコ玉がいっぱい入ったボックスに、一個だけ金色のパチンコ玉が入っていて、そこに片手を突っ込み、金色の玉を引いたら凄くいい台を打てるのだ。
当時の凄くいい台は10万、20万は勿論、下手したら100万円勝つ事もあるので、そこには200人近くの長蛇の列が出来ていた。

勿論、このパチンコ猿もウキウキ言いながら3時間近く並び、30番くらいでその時を待つ。

その行列の先頭こそが、推定6時間並んでいた我らが掴み取りじじいである。

ついにイベントが始まり、強欲おじさんがボックスに丸太のような腕を突っ込む。
誰かが金色の玉を引いた時点でイベントは終了。
逆に、掴み取りしたパチンコ玉は戻さないので、誰も引かなければどんどん確率があがっていくのである。

頼む……。頼む!引かないでくれ!頼む!

結果、僕まで順番が回ってくる事はなかった。
それどころか誰ひとり金の玉を引く事はなかったのだ。

掴み取りじじいがやりやがったのだ。

パチンコ玉をなるべく掴もうと、指を広げ過ぎて人間の手の限界を超えて、水掻きみたいなとこが破れてボックスが血だらけになってひとり目でイベントが中止になったのである。
後にも先にもあんなに赤いパチンコ玉を見たのは初めてだ。

すぐに掴み取りじじいは救急車で運ばれて行ったが、夜に包帯をして戻ってきて左手でパチンコを打つ掴み取り糞親父の背中は非常に糞であり格好良くもあった。

イラスト/岡野陽一
イラスト/岡野陽一

続いて第4位!

第4位「WINS席取りじじい」

さて、こちらはWINSからのランクイン!

知らない方の為に説明すると、WINSとは場外馬券場の事で、競馬場に行かなくても馬券の買える夢のような場所だ。
たまにテレビなんかで夢の国という言葉を聞くと思うが、それはWINSの事を指している。
当然、大人気故に朝の並びも凄い。
有馬記念やダービーの日なんかは、みんなテレビに近い良い席を取ろうと、朝5時から並んだりする。
WINSが開く瞬間は皆様是非平和な世の中になったら一度見て欲しい。

開門と同時に一直線に狙いの席を取るおじさん。インコースをついて席を取るおじさん。前が詰まるおじさん、大外ぶん回しおじさん……。

ひと足早い糞の有馬記念だ。

席を取れるのはごく一部の選ばれしおじさんだけで、戦いに破れたおじさんは一日立って過ごす事になるのである。
もし席を取れたとしても安心してはならない。
そこに何も置かずに立とうもんなら、一瞬で飢えたおじさんのお尻か競馬新聞が飛んでくるのだ。

なので、WINSで席を立つ時は、お尻の下に競馬新聞やペットボトルを敷いてから席を立つのは常識である。
逆に座る時も気をつけなければならない。
WINSではペットボトル、競馬新聞は勿論、ペットボトルのキャップ、フリスクひと粒も人とみなす。

「兄ちゃん!なに人の席座っとるんや!俺のゴミ置いてあっただろ!」

と言われた事があるから間違いない。
それ以降、僕も席に座る際には細心の注意を払っていたのだが、席取り糞親父は別格だった。

ある日、寝坊して昼過ぎにWINSに行った時の事。
昼から行って座れるなんて期待もしてなかったが、その日は奇跡的に1席空いていたのだ。

ゴミひとつ置いてない事を確認して座る。
しかもモニターも近い最高の席だ。

恐らく朝から並んで午前中で全財産を使い果たしたおじさんが、帰ったのだろう。

悔しかっただろうに……。
おじさん……僕、仇をとるよ!
今日は絶対に勝つ!

気合いを入れたその時、喫煙所の方から褐色の小さい塊が怒号と共に凄い勢いで飛んでくる。

「おい!こらぁ!なに人の席に座っとんじゃ!」

物凄い勢いで飛んで来たので、一瞬分からなかったが、褐色の小さい塊は小さいおじさんだった。

「え?何にも置いてませんでしたよ」
「そんな訳あるかい!立ってみぃ!」

「…え?何もありませんよ」
「ほら、ここや。よう見ろ。わしの唾や」

ズボンのけつを触って、僕は言う。

「あ、ほんとだ!唾だ!すみません!唾気付きませんでした!」

その日僕はスクーターを買えるくらい負けた。

イラスト/岡野陽一
イラスト/岡野陽一

続いて第3位!

第3位「パチンコ席取りじじい」


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