『2020年 五月の恋』(WOWOW/5月28日~31日)
主演ドラマ『コールドケース3~真実の扉~』(WOWOW)の撮影がストップしてしまった吉田羊が、『12人の優しい日本人』のリモート朗読に参加したのをきっかけにドラマを発案。『真田丸』(NHK)で夫婦役を演じた大泉洋を自らメールで誘い、脚本家の岡田惠和も賛同して実現した。
離婚した夫婦が間違い電話をきっかけにお互いの近況を語り合い、徐々に心の距離が近づいていく軌跡(奇跡)を10数分ずつ4夜連続で描く。スタジオには俳優以外のスタッフは立ち入らず、各話1カットで撮影するなど、さまざまな工夫が凝らされていたが、完成した作品のイメージの豊かさに驚嘆させられた。
話が進むうちに、これがリモートドラマだと徐々に意識しなくなっていくのは、ふたりの俳優の演技力と脚本の力にほかならない。リモートドラマという型式をドラマのおもしろさが上回った初めての作品であり、また同じスタイルで続編を観てみたいと思ってしまう傑作ドラマだった。
『世界は3で出来ている』(フジテレビ/6月11日)
俳優同士がリモートで会話するドラマが相次ぐなか、「ひとりの俳優が複数の役を演じれば3密が回避できる!」という逆転の発想で制作された作品。
性格の違う主人公の3つ子を見事に演じ分けた林遣都の演技力が凄まじかったし、それをひとつの部屋でシームレスに編集してしまう技術にも驚かされたが、普通の人たちがコロナ禍で味わう苦境、それぞれの立場の違い、それを忘れていこうとする世の中の流れの早さなどを、自然な会話の中に織り込んで展開していく水橋文美江の脚本がとにかく素晴らしかった。演出は『教場』などのベテラン・中江功。
放送後、フジテレビの番組審議会で同ドラマが取り上げられて審議委員たちから絶賛を集めたが、その中に「最初観たときに3人が同じ人だと全然気がつかなかった」という感想があったのにはさすがに笑ってしまった。気づくよ!
『MIU404』(TBS/6月26日~9月4日)
綾野剛、星野源主演の話題作『MIU404』も、緊急事態宣言によって大幅な撮影中断を余儀なくされた1本。しかし、どんなエンタメ作品にも常に現実を反映させようとする野木亜紀子の脚本は、中断期間とコロナ禍による撮影上の制約を逆手にとって、(実際には凄まじくギリギリの進行だったらしいが)ドラマの中に現実のコロナ禍を盛り込んでみせた。
物語は2019年の春から始まり、人が人生の中で何度も直面する「スイッチ(分岐点)」について語られながら進んでいく。最終話では薬物でバッドトリップした主人公ふたりが、東京オリンピックが開催される「あったはずの2020年」を幻視するが、これは人類全体が直面した巨大な「スイッチ」を描いたもの。犯人の菅田将暉を逮捕後、マスクをした主人公たちは思いもよらぬコロナ禍の現実について語りつつ新国立競技場から車を走らせる。物語の中で過酷な現実に翻弄されていた人たちと、コロナという現実に翻弄される我々自身がリンクした瞬間だった。
『不要不急の銀河』(NHK/7月23日)
これぞ、コロナドラマの極めつけ。『あまちゃん』、『いだてん』(共にNHK)の演出家、井上剛が又吉直樹の脚本を得て作り上げたコロナ禍のホームドラマ。前半はドラマのメイキングを描くドキュメンタリーで、緊急事態宣言からリモートでのミーティング、医師の見解、舞台となるスナックへの取材、撮影の実験などが積み重ねられる。どうやったら安全にドラマを作ることができるのかという問いは、やがてドラマなど不要不急なのではないかという問いに移るが、それを振り切るように本番の撮影が開始されて本編がスタート。
自粛警察に監視され、営業停止を余儀なくされたスナック「銀河」。親の代から受け継いだスナックを守りたい夫(リリー・フランキー)と休業して働きに出る妻(夏帆)の間にはヒリヒリした険悪な空気が充満する。それを見守る祖父母(小林勝也、片桐はいり)と幼い娘(りり花)、そして恋人とキスすることで頭がいっぱいの先妻の息子(鈴木福)。
経済を回すために会社へ通う満員電車は許されるが、社会の片隅で暮らす人たちが集うスナックなんて不要不急? ドラマだって不要不急? 前首相の声、都知事の声、アベノマスクなどの沈鬱なファクターを、思いもよらぬラストのファンタジックさと中島みゆき「ファイト!」(のん+大友良英スペシャルバンドによるカバー)の力強さで強引に吹き飛ばしてしまうヤケクソのような作劇が爽快極まりなかった。
『#リモラブ〜普通の恋は邪道〜』(日本テレビ/10月14日~)
通常なら完結していないドラマを評価するのは難しいのだが、真正面からコロナ禍を扱ったドラマということで選に入れた。
秋ドラマの1本、波瑠主演の『#リモラブ』は、数々のヒット作を手がけてきた櫨山裕子プロデューサーの「(コロナを)なかったことにしてドラマを作っていいんだろうか」という自問と「テレビ屋として一回、コロナと格闘してみたかった」という意欲から生み出されたラブコメディ。顔が売り物のひとつである俳優、女優たちが全員マスクをしたまま演技をしているのが大きな特徴。
コロナという重い現実がありつつも、あくまでもテンポのよいラブコメに仕上げているのがポイント。温厚な恋人役・松下洸平に癒やされている視聴者は多いんじゃないだろうか。松下と間宮祥太朗のゆるい友情も心地よい。脚本は『世界は3で出来ている』の水橋文美江。
『姉ちゃんの恋人』(カンテレ/10月27日~)
有村架純主演の恋愛ホームドラマ『姉ちゃんの恋人』も、コロナ禍の現在を舞台にしたドラマ。『2020年 五月の恋』の岡田惠和が脚本を担当し、『世界は3で出来ている』の林遣都が有村の恋人役を演じる。まるで全部つながっているみたいだ。
コロナの直接的な描写は抑え目ながら、こんな時代だからこそ、人を好きになったり、誰かの味方になったりすることの大事さ、人と人の心を近づけることの重要さを押しつけがましくなく表現している。ひと言で言うなら、とても優しいドラマだ。
コロナ禍のなか、ドラマにできることとは、立場の弱い人、お金も力もない人に寄り添い、よりよい世界を提示していくことなのかもしれない。今後もコロナの情勢は不透明なままだが、どのようなドラマが生み出されていくのか楽しみに待ちたい。
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