マスクをつける『#リモラブ』vsつけない『姉ちゃんの恋人』。コロナ禍に取り組むドラマの闘い

2020.11.19

『#リモラブ』と『姉ちゃんの恋人』相違点と共通点

同じ恋愛ドラマでも、観たときの印象はかなり異なる。『#リモラブ』は、波瑠演じる恋愛をサボってきた産業医がSNSを通じて新たな恋に目覚めていく様子を高めのテンションで描く。『姉ちゃんの恋人』は、有村架純演じる両親を事故で失った主人公が、やはり過去に傷を持つ林遣都演じる男性と出会って恋を育む様子がゆっくりとしたテンポで描かれる。

前者は『きょうは会社休みます。』、『世界一難しい恋』(共に日本テレビ)に連なる“恋愛弱者”ラブコメディシリーズの第3弾と位置づけられ、ラブコメ要素が強め。一方、後者は『ひよっこ』(こちらも有村架純と岡田惠和とのタッグ作だ)を思い起こさせるようなスローテンポなホームドラマ風味。ドラマのタッチだけでなく、コロナの描き方にも違いがあり、『姉ちゃんの恋人』では登場人物のほとんどがマスクをつけていないが、『#リモラブ』では登場人物がほとんどずっとマスクをつけている。コロナを前面に押し出している『#リモラブ』と、後景に置いている『姉ちゃんの恋人』という違いを感じる。

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とはいえ、両者は共通点も多い。まず、それぞれ主人公のふたりはくっつきそうで、なかなかくっつかない。どちらのドラマも恋愛が始まってからの波乱万丈を楽しむというより、恋愛が始まるまでの過程をじっくりと描いている。惹かれ合った男女が手もつなげない、なかなかキスもできないというのは、コロナの影響だけでなく、今の気分の反映かもしれない(逆にこれまでドラマの男女はみんなすぐにキスし過ぎだったのかも)。

偶然知り合って、惹かれ合う相手が同じ職場にいたという共通点もある(『姉ちゃんの恋人』は小池栄子と藤木直人のカップルがこれ)。幸せは実は身近なところにあるという考え方もあるが、コロナ禍において距離の離れた偶然の出会いはなかなか成り立たないという考え方もできる。

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両者共基本的に登場人物が“いい人”ばかりだというのも大きな共通点だ。『私の家政夫ナギサさん』(TBS)などに見られる近年のドラマのトレンドだが、コロナという重いテーマを扱っているからこそ、穏やかな人たちによる優しさのつながりが観たいという視聴者の要望を汲み取っていると感じられる。『#リモラブ』で江口のりこ演じる精神科医が語ったセリフ「誰も悪くないですよ。悪くないです」が胸にしみる。

何より最大の共通点は、『#リモラブ』も『姉ちゃんの恋人』も恋愛がメインに置かれているが、同時にコロナ禍における人との関わりの大事さというテーマを描こうとしている点だ。

『#リモラブ』の主人公は面倒な恋愛よりもひとりの生活を謳歌してきたタイプだったが、コロナ禍でひとりになることを余儀なくされ、寂しさが募っているときにSNS(ゲームに付随しているチャットアプリ)で癒やされたことで、他人への関心が高まっていく。『姉ちゃんの恋人』の場合、コロナの影響と恋愛は直接関係ないが、主人公と恋の相手の林遣都が惹かれ合うきっかけになったのは、「寂しい気持ちを抱える人でも楽しめるクリスマスプロジェクト」だった。今後はお互いに寄り添うことで過去に負った心の重い傷を癒やしていくことになると予想される。

コロナが覆い尽くす世界では、寂しさが募る反面、人を好きになるのは難しいかもしれない。生活も大変になり、つらい過去はさらに重くのしかかってくるかもしれない。だからこそ、人を好きになる気持ちだったり、誰かを想う気持ちが大切なんだよ、とふたつのドラマは語りかけてくる。

『半沢直樹』は一種のファンタジー

コロナの収束の見通しは立っていない。今後はコロナを描くかどうかが、そのドラマがリアリティを意識しているかどうかの境目になるのではないだろうか。コロナのない世界を描こうとするなら、それは必然的に「今、ここではない世界」ということになる。つまり、ファンタジーに近い。

〈ドラマには「現実を忘れるもの」と「身につまされるもの」の2種類がある〉。これはほかならぬ岡田惠和がインタビューで語っていた言葉だ(『文春オンライン』 2019年8月3日)。夏に放送されていた『MIU404』はコロナを描いていたが、同時にリアリティを非常に意識したドラマでもあった。一方、(描かれた時代から考えて当然だが)コロナが出てこなかった『半沢直樹』(共にTBS)は一種のファンタジーだと言うことができる。

どちらが良くてどちらが悪いという話ではなく、「現実を忘れるためのドラマ」なのか「身につまされるドラマ」なのかがコロナによってよりくっきりと色分けされるのではないかというのが筆者の予想だ。そのあたりに注目しながらドラマを観るのもおもしろいのではないかと思う。

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