スタジオジブリ場面写真無償提供の「常識の範囲でご自由にお使いください」の真意を考察。SNS使用は範囲内なのか

2020.10.3
藤津亮太サムネ

文=藤津亮太 編集=アライユキコ 


アニメ業界前代未聞の場面写真DLサービスが始まって半月。SNSはジブリ大喜利で大賑わい、その様子を報じるテレビ番組もあった。公式サイトに記されたスタジオジブリ代表・鈴木敏夫のメッセージ「常識の範囲でご自由にお使い下さい。」は、本当はどう解釈すべきか。アニメ評論家・藤津亮太が著作権の歴史を踏まえて考察する。

アニメの場面写真を正当に利用するには

アニメの場面写真利用をめぐるアレコレは、特定の業界に関する狭い問題のようで、案外広い論点が潜んでいる。
スタジオジブリが9月18日より、自社作品の場面写真の無償提供を始めた。現時点で『千と千尋の神隠し』など8作品各50点、合計400枚の場面写真が公式サイトからDLできるようになっている。場面写真を提供するページには「常識の範囲でご自由にお使いください」とあるだけで、細かい規約などは書かれておらず、その使用方法は利用者の良識に委ねられている。

スタジオジブリ公式サイトより鈴木敏夫代表のメッセージ「今月から、スタジオジブリ作品の場面写真の提供を開始します」
スタジオジブリ公式サイトより鈴木敏夫代表のメッセージ「今月から、スタジオジブリ作品の場面写真の提供を開始します」

このニュースを聞いて、ジブリ論を集めたある人文書が、ジブリ作品の図版を引用していたことを思い出した。後述する理由で、商業出版でアニメの図版を引用のかたちで掲載する例は多くない。しかもこの本は、映像をキャプチャしたのではなく「フィルムコミック(映画の場面写真を構成してマンガのかたちにした本)」からの引用というかたちをとっていた。それも、印象に残った理由だった。どうしてフィルムコミックからの引用という迂遠な方法がとられていたのか。

「フィルムコミック」の例(蔵書より)
「フィルムコミック」の例

アニメの場面写真を正当に(ここはとても大事なポイントだ)利用しようとした場合、どのような問題と可能性があるのか。それは、この「オフィシャル場面写真」と「フィルムコミックからの引用」という両極端の話題を考えることから見えてくると思う。
そもそも、スタジオジブリの場面写真無償提供が非常に驚きを持って迎えられたのは、アニメ業界は場面写真を厳しく管理しているからだ。これはもともとアニメ業界が映像制作だけでなく、映像を起点にした版権ビジネスで大きな利益を得ているからだ。

アニメとは煎じ詰めると「絵」である。だから、版権ビジネスとは「アニメの絵」の流通をいかにハンドリングするか、ということになる。そして、場面写真もまたその中に含まれるのである。
たとえば以前、ある作品のムックを編集するときに、クリエイターのフィルモグラフィーのコーナーを作った。そこに過去作の図版を掲載しようと、ある作品のDVDをリリースするメーカーに連絡を取った。そのとき、先方から提示されたのは、キービジュアル1枚2万円、場面写真1枚1万円という値段だった。これが高いか安いかは、編集予算次第だが、少なくともそのときのムックの予算とは折り合わない金額だった。なのでこちらから貸し出し依頼を取り下げることにした。

もちろんこういう貸し出し料は作品によってマチマチだし、作品が稼働中(放送中・上映中・販売中等)であればプロモーションとして無料になる場合もある。いずれにせよ場面写真のハンドリングが、版権ビジネスの一部であるのは、アニメ業界の基本の考え方で、是非以前の前提なのである。

SNS使用は明らかに逸脱している?

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