「投票しても何も変わらない」というあなたへ。日本の民主主義は「はりぼて」になっていないか(古田大輔)

2020.10.2
古田大輔 ジャーナル1002

文=古田大輔 編集=谷地森 創


富山のローカル局「チューリップテレビ」が制作した報道ドキュメンタリー映画『はりぼて』が全国で公開中だ。政務活動費を不正に使い込む議員たちに迫るこの作品。

ジャーナリストの古田大輔は、この映画で描かれる議員たちの姿を「ほとんどコメディ」と評する。それでも、政治に絶望する前に、考えてほしいことがあるという。その真意とは。

投票に行かない人には、行かないなりの理由がある

「投票に行こう!」みたいな呼びかけの最大の弱点は、それを素直に受け入れる人は、そもそも投票に行っている人だということだ。投票に行かない人には響かない。投票に行かない人には、行かないなりの理由がある。

「めんどくさいから行かない」という人にも「なんでめんどくさいと感じるんですか?」ともう一歩深く聞いてみると、なんらかの理由がある。たとえば、こんなふうに。

「1票で政治は変わらない」
「投票したい人がいない」
「誰に投票するべきかわからない」
「そもそも関心が低い・ない」

これは2013年の参院選の際に、朝日新聞で選挙に行かない人に理由を聞く企画「#投票する?」を担当した際に実際に集まった声だ。たくさんの投票しない理由を分類していくと、だいたいこの4つに集約される。

「忙しい」とか「投票の仕方がよくわからない」というような理由もある。けれど、ある程度の関心があれば、忙しくても30分ぐらいはなんとかなりそうなものだし、投票の仕方を解説する記事などもたくさんある。

つまるところ、投票しない理由は上の4つのどれかに関係がある。

私は2002年に新聞記者になってから、そして、2016年1月に『BuzzFeed Japan』を創刊編集長として立ち上げてから、さらには昨年独立してからも、何度となく有権者が投票に行こうと考えるような、その参考になるようなコンテンツを企画し、自らも書いてきた。

私は「投票に行ったほうがよい」と考える。なぜか。社会の一員として、とんでもない人間が選挙で選ばれつづけること、どうせ選挙に勝つと思った人間が堕落してしまうことを防ぐ努力をするためだ。

事件は、富山市議会で起きた

「権力は腐敗する。絶対的権力は絶対に腐敗する」

19世紀の歴史家アクトン卿の言葉として有名だが、こんなたいそうな言葉じゃなくても、自分に置き換えてみるとわかるはずだ。誰かが監視してくれないと、人は楽をしがちな弱い生き物だ。「これぐらいいいだろう」と、すぐに自分の都合のよいように行動してしまう。

映画『はりぼて』は、そんな弱い人間たちの姿を映している。大問題なのは、その弱い人間たちが政治家であり、我々の税金で飲み食いをし、さらには自分たちの給料を上げるように主張していた、ということだ。

事件は、富山市議会で起きた。

2016年、議員報酬を月10万円引き上げて月額70万円とする条例が議会の賛成多数で可決した。ボーナスも合わせると年収994万円になる計算だった。議員にはこのほかにも、調査研究などの議員活動に使う「政務活動費」月15万円が支払われる。

地元チューリップテレビは、報酬引き上げの中心にいた「自民党会派のドン」にインタビューをした。「議員活動にカネがかかる」「食っていけない」と畳みかけられ、反論もできない。

そこで政務活動の何にそんなにカネがかかっているのか、情報公開制度で領収書を調べてみると……というのが、このドキュメンタリー映画の流れだ。

映画『はりぼて』予告編

議員たちの狼狽する姿はコメディのよう

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