原盤権、地下アイドル、業務委託……すべてのフリーランサーが知っておきたい“契約”のこと(tofubeats)

2020.9.10

コストとリターンを天秤にかけるのが契約書

そのあと幾百枚の契約を経てきましたが、弁護士事務所に自分から行くようになったのは23歳とかからだったと思います。ほかの人より比較的こういったことを気にする神経質な自分がこんな感じであるということは、とりあえず事務所に入りたい!アイドルになりたい!みたいな子たちが、なんとなく契約書にサインしてしまうことは想像に難くありません。

実際に業務委託契約の名の下に苦しい生活や嫌な仕事を強いられたり、辞めるなら辞めるで身に覚えがない賠償金(宣材写真の撮影費・レッスン代と称してなど。もちろん本書にあるとおりタレント自体に瑕疵がある場合は賠償責任があるのは当然です)を払わされたり、ほかにもあのアイドルの事務所はあんなことをやっていた……といったケースは自分も見聞きするところです。まあ、実際にそういったケースが多いことを踏まえて、このような書籍が出たのだと思います。

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本書でも紹介されていますが、日本における芸能事務所に関係する契約書というのは恣意的に運用されることが多い気がしてまして、業界内でテンプレートとされている契約書でさえその一部に適法性が疑われていたことは一部の法律関係の方には周知のとおりです。

昨年、そのテンプレートとされている音事協(一般社団法人 日本音楽事業者協会)の契約書は公正取引委員会の指摘を受けて一部改定されたとのことですが、拘束力がけっこう強かったという印象を自分は受けています。改定前は1年間の競業避止義務(簡単に言うと同業種の事務所への移籍の制限)や、契約終了後の芸名にまつわる権利の事務所への帰属が明記されていました。

競業避止義務に関しては憲法違反であるにもかかわらず、ずっと当たり前のように運用されてきたという側面があります。実際自分がこれまでサインしてきた契約書にも、この競業避止義務は当たり前のように入っていました。実際にこれに関しては当時弁護士さんからこの文言を守る必要はない、と教えてもらっていましたが、横のつながりがある業界を恐れて事務所の移籍を1年待った、という例も聞いたことがあります。

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しかし時が流れて自分も事務所経営者になり、時折契約書なんかを作りに司法事務所に行くことがあるのですが、やはりそうなると契約書っていうのはどうしても発注主である自分にかかるコストが少なくなるように弁護士さんが作ってくれるんですよね。

まあもちろんそれは一方では当たり前のことで、もしまったく売れていないタレントと契約する……となった場合、事務所が本当にそれをきちんと売り出すならばコストがかかってくるからです(このコストをかけないのに売り上げをかすめようとするところがあるのも問題です)。もちろん契約書を作るのもタダではありませんし、その投資を回収しようとするのは当然の流れです。

たとえば、音楽でよく言われる「原盤権」なんかも制作時のコストを請け負うことによって売り上げの利権を手にすることができる、という権利で、株式会社じゃないですが、所有と運営を分離することによってコストを分散する構造になっているわけです。

自分がデビューしたときはワケもわからずそれを譲渡していましたが、今となってはそのコストは弊社で負担可能なことがわかったので自社でいくらかの割合を保持しています。契約書というのは、こういった感じでコストとリターンを天秤にかけて結ばれるものなのです。

いろいろ書いてしまいましたが契約書自体は悪いものではなく、きちんと結べば自分自身を守ってくれるものになる場合もあります。目の前にある契約書にサインをしようか考えている人で、何か引っかかるところがあれば専門家への相談をおすすめしますし、そもそもそんなこともわからない方は、こういった書籍を読むところから始めてみるのがいいのではないでしょうか。

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    デジタルミニアルバム『TBEP』

    2020年3月27日配信
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    2020年9月4日配信
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