心のバックアップで“不老不死”も現実に?「マインド・エミュレーション」の可能性(粉川哲夫)

2020.9.9

「心」よりも「身体」との関係性が重要に

TK つまり我々はすでにデジタル・ヒューマンになりつつある、と。そうだとすると、この動きはどこまで進むのでしょう?

MX 歴史的に人間は、「マインド」が「ボディ」をコントロールして、それが今、極限に達するところまで来ているかのようなイメージがあるが、実際にはその逆で、「ボディ」を限りなく拡大・強化するために「マインド」を使ってきた。空を飛びたいというのは「マインド」の要求かね? むしろ「ボディ」の欲求じゃなかったのか?

身体の欲求を限りなく追求してきたのが「モダン・エイジ(近代)」という時代だとすると、それはまだ終わってはいないが、今、「ボディ」の欲求なるものが、実は「近代」という一滴の「媚薬」の結果に過ぎず、「ボディ」はもともとそれほど大規模で強度な欲求を求めてはいなかったのかもしれない。むしろ、あなたの言う「ボディ・セイヴィング(身省化)」な状態が「ボディ」にとって普通だったのかもしれない。

TK だとすると、「マインド」の強調というかリバイバルというか、「マインド」という言葉が目につく状況というのは、ひと昔前の「精神主義」とか「スピリチュアリズム」とかとは違うのですね。前々から僕は、英語で”I don’t mind”という言い方を、日本語で「気にしない」と訳すことに興味を覚えていました。

つまりこれは、「考えない」のとは違うのです。「気にしない」のです。気にするというのは、「心(マインド)」よりも「身体(ボディ)」との関係で決まる要素が強いですね。それとも、この表現は「頭では忖度しない」けど、身体では「気にしている」という含みがあるのでしょうか?

MX そういうことは考えたことがなかったが、おそらく「マインド」のそういう両義性が今後の「マインド・エミュレーション」のカギになるだろうね。皮肉な未来学者がね、AIに人間の知能を超えさせることは簡単だと言うんだ。つまり、人間があまりものを考えなくなれば、デキの悪いAIでも人間以上であり得ると。その考えで行くと、デジタル・ヒューマンを「リアル・ヒューマン」に近づけるには、「リアル・ヒューマン」がなるべく身体を使わなくし、冷酷な例だが、『潜水服は蝶の夢を見る』の状態になれば簡単だということになる。

The Diving Bell and the Butterfly | ‘This Can’t Be Life’ (HD) - Mathieu Amalric | MIRAMAX/『潜水服は蝶の夢を見る』予告編

「マインド・エミュレーション」という発想には、こういうドライな発想が内在してもいるということは忘れるべきでない。あるいは、未来の人間は「ボディ」が極度に萎縮した「マインド」だけの透明なクラゲのようになるのかな? 地上が荒廃したあとに考えられている水中生活には、そのほうが向いているかもしれない。

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