コロナ禍の社会に対する「命をかけた賭け」 毛皮族・江本純子の「行動」を見届けたい(末井昭)

2020.8.17

文=末井 昭 編集=谷地森 創


編集者として『写真時代』、『パチンコ必勝ガイド』など数多くの雑誌を創刊し、自伝的作品『素敵なダイナマイトスキャンダル』が映画化されるなど、エッセイストとしても多くの読者を魅了する末井昭。

「3蜜」を避けるため、音楽ライブや演劇公演の「自粛」が求められているコロナ禍の日本で、新たに「行動」を起こそうとする人たちがいる。それが、江本純子率いる毛皮族だ。新作公演『毛皮族2020Tokyo「あのコのDANCE」』を9月に上演するため、着々と準備を進めている。江本がこの「行動」にかける思い、本公演の画期的な演出手法などを、末井昭が紹介する。


日本モデルはコロナ禍を「収束」させた?

今、世界中の人々が一番気になっていることは、新型コロナウイルスの感染がいつ収束するかということだろう。今年いっぱいか。2年か。3年か。永久か。永久ってこともあり得ない話ではない(そうなると、コロナとの戦いではなく共存だ)。

5月25日の緊急事態宣言解除の記者会見で、安倍首相が「日本ならではのやり方で、わずか1カ月半で今回の流行をほぼ収束させることができました。まさに日本モデルの力を示したと思います」と、誇らしげに演説していたけど、「日本モデルで、わずか1カ月半で収束させた」とはどういうことだったのか。それから2カ月半経った今、収束どころか第2波の真っ只中で、感染者が急増している。

そういうなかで、自粛したほうがいいと言われているのが、音楽ライブと演劇公演だ。音楽ライブは生配信が多くなってきたが、演劇はそれも難しい。

誰もがコロナでピリピリしているこのご時世で、通常の演劇公演を行うということは、かなりリスクを伴う。打ち合わせ、リハーサルから公演まで、「密閉、密集、密接」すべてそろっているのが演劇だ。スタッフ、出演者、観客の中にひとりでも感染者が出たら、公演は即中止になる。コロナ禍が収まるまで、公演は控えておいたほうが無難なのは言うまでもない。

しかし、世間から非難されたとしても、感染する可能性があったとしても、演劇を控えることができない人たちがいる。毛皮族の江本純子さんもそのひとりだ。

江本純子の「命をかけた賭け」

江本さんは、9月2日から下北沢ザ・スズナリで、『毛皮族2020Tokyo「あのコのDANCE」』という公演を行う。それに伴いネットに「族仲間募集中」というオーディション告知をしたが、その最初に「わたしたちはアンガージュマンする」という文章を江本さんが書いている。

毛皮族、始動します。最後に活動したのは6年前です。 この6年、毛皮族から離れて、ややオーガニックな演劇活動を行なっていました。小豆島での天然野外演劇、財団江本純子での無添加演劇、たまに“旅”、そして近頃は「観客」と「作り手」の境界なき構造のための“行動”など。その成果を集約させる頃合いを常に伺いながら。 2020年、コロナ禍突入。毛皮族はTokyoオリンピックの真裏で行う行動芸術を予定していました。わたくしごとのハッピーバースデイはどうでもいいと思いますが、2020年9月、毛皮族は創立20周年を迎えるのです。コロナ禍において、ますますどうでもいいです。コロナ禍での創作・稽古・上演はとても困難です、この制限下では何もできない、何もしない方がいいという選択肢もあります。 しかしコロナも怖いが人間も怖い。人間はおもしろいはずなのに。何この分断、何このヒステリー。社会は大丈夫か?わたしは大丈夫か?といちいち立ち止まって考えます。いま起こりかけている状況と状態に、とことん対峙して、これからのゲージツを創始・・できるのかわからないけど、やってみます。

2020年9月、スズナリで、毛皮族2020Tokyoと題して「行動」を開始します。コロナ禍での演劇行動自体が、社会に対しての命をかけた賭けであり、もはやアンガージュマンて感じなんですが。

江本純子「わたしたちはアンガージュマンする」より

毛皮族で30回の公演を行い、その後も、演劇の形式自体を変えていくような作品を作りつづけている江本さんの、宣言のような文章だ。「社会に対しての命をかけた賭け」というのも、言葉のはずみではなく本気でそう思っているのだろう。

江本純子(撮影:神藏美子)

感染防止対策を逆手に取った舞台設計

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末井 昭

(すえい・あきら)編集者、エッセイスト。『ニューセルフ』(セルフ出版)、『写真時代』(白夜書房)、『パチンコ必勝ガイド』(白夜書房)などを立ち上げ、編集長を務める。『自殺』(朝日出版社)で第30回講談社エッセイ賞を受賞。1982年の刊行以来、さまざまな出版社から文庫化され、版を重ねている自伝的エッセ..

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