男社会が小池百合子を好むのは、彼女が女将さんだから(小川たまか)

2020.7.16

文=小川たまか 編集=田島太陽


7月5日、東京都知事選の投開票が行われ、小池百合子が59%の得票率を獲得して再選した。ここまで圧倒的な票を集めるほどの魅力はどこにあるのか。『女帝 小池百合子』が話題を呼んでいるように、彼女について「語りたくなる」のはなぜか。ライターの小川たまかが、芸者屋の集まる花街のしきたりや力関係を回想しながら紐解く。


圧を感じるほどの存在感

百合子が、勝ちましたね……。NHKの開票速報、20時ジャストでの当確。いやせっかくの選挙なんだし、もうちょっとこう焦らしてくれてもいいんじゃないかと思います。

彼女が都知事になったのが2016年なんですよね。なんかもう10年ぐらい君臨されていたように感じてしまう、そのぐらいの存在感があります。密ならぬ、圧です! 圧を感じます。

今回は、都知事に立候補したときからずっと彼女に対して思っている個人的な印象……というか、突然ですが花柳界のシステムや思い出について書きたいと思います。

口角は上がっているが、目は笑っていない

小池百合子都知事に感じている私の印象、それは「料亭の女将(おかみ)さん」です。彼女の顔を見るたびに、そりゃ男社会での場の仕切り方をわきまえているだろうな……と思ってしまいます。

20代のある時期、私は東京の向島というところで働いていました。ご存知の方はご存知でしょうが、向島の一角はいわゆる花街。芸者さんがいて、芸者さんが所属する置屋さんがあって、お客さんが芸者さんを呼ぶための料亭があります。

ここから少し昔話をします。

詳細を省きますが、私が最初に面接を受けたのは、向島にあるXという料亭でした。20代の私には、その門構えは雅で格調高く見えました。ニコニコした愛想のよい女性(あとで若女将とわかりました)が出てきて、「あ、女の子来ました!」と奥に声がかけられ、私が個室で待っているとやって来たのがその料亭の女将さん。

しっかりお化粧した丸顔、堂々とした着こなし。背筋はビシッとまっすぐで、口角は上がってるけど目は笑ってない。それが女将さん。

面接はものの5分程度だったと思います。質問に答える私に、女将さんは「へえ」「ふうん」「そう」。そして、「じゃあ、やってみたら」。合格だと理解し、私はありがとうございますと言って退席しました。


“お母さん”と女将さんの力関係

墨田区向島
隅田川の東岸、押上駅と曳舟駅の周辺にある向島地区。江戸時代には100件以上の料亭で栄えていたとされ、現在もその伝統を引き継いでいる

しかしその後、家に帰ってからのこと。私の携帯電話に、女性から電話がありました。その女性はなぜかちょっとプリプリしていて、もう一度面接に来なさいと言うのです。

わけのわからぬまま、もう一度面接に行きました。今度の面接場所は料亭ではなく、街の中にある小さな美容室でした。芸者のお姉さんたちが仕事前に髪をセットするための美容室で、隣の喫茶室から出前を頼むこともできるようなところでした。ちなみに、1セット2000円。

そこで私を待っていたのは、パーマをあてながら小さな犬を抱いた女性。年齢は女将さんと同じく、60代ぐらいに見えました。

やっぱりちょっとプリプリしていたけれど、なぜか嫌な感じはせず、彼女も5分ほどの面接で私に「まあいいわよ、いらっしゃい」と言いました。

向島では、細かいことは教えてもらえないということがよくありました。別に意地悪なわけではなく(意地悪であることもあるんだけど)、女の子の入れ替わりが多くていちいち教えてられなかったり、「見て学べ」的な価値観の名残があったり、女将さんたちと女の子の年齢差が大きくコミュニケーションギャップがあったり……などなどが理由だと思います。

私がこの不思議な面接の顛末について把握したのも、のちのちのことです。

なぜ女将が勝手に面接をしたのか


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小川たまか

(おがわ・たまか)1980年、東京都品川区生まれ。文系大学院卒業後→フリーライター(2年)→編集プロダクション取締役(10年)→再びフリーライター(←イマココ)。2015年ごろから性暴力、被害者支援の取材に注力。著書に『「ほとんどない」ことにされている側から見た社会の話を。』(タバブックス)。自称フ..

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