YouTuberと社会問題の関係性
たとえばアメリカでは「セクシャリティに問題提起をする映画を作りたい」とコンテンツメーカー側が言えば「いいね、一緒に作ろう」とビシネスサイド側が応える仕組みがある。一方日本では、社会問題にアプローチを試みようとしても「興行的に成功するのか」「流行とマッチするか」「スポンサーはどうするんだ」とビジネスサイドが利益を優先して、頓挫するケースも少なくない。
もちろんそうした土壌がなくとも、個人の意思で自由に作れるYouTubeならアプローチは可能かもしれない。では、UUUMが社会問題への注意喚起、クリエイターへの呼びかけを積極的に行うかというと、難しい問題だ。2018年の西日本豪雨、2019年の台風19号の際にUUUM所属のHIKAKINが100万円を寄付し、募金を呼びかけた。このことについては賛成だ。甚大な被害で困窮している人々を支援することは、100%良いことだと思うからだ。
しかし自殺、セクシャリティなどの問題になると判断が難しい。もちろんセクハラやパワハラといった事象は100%悪いことだと思う。けれども問題が起こったときのシチュエーション、原因、被害者と加害者の関係など、当人同士ですら白か黒かジャッジできない問題を外側から「それは黒だからやめなさい!」と呼びかけるのは危ういことだと思う。
YouTuberはテレビのコメンテーターでもなければ社会運動家でもない。エンターテインメントを提供するクリエイターだ。社会問題を解決する義務はないから、あくまでもクリエイターの自発性に委ねている。だからUUUMが社会問題にアプローチしようとしても、彼らに「コンテンツ側からアプローチしてください!」と強制はせず、「このような社会問題が起こっています。みなさんも考えてみてください」などの問題提起にとどめるだろう。
けれども「このタイミングでコンテンツを発信しないでください」という注意喚起は行う。エンターテインメントの提供自体が不適切なタイミングがあるからだ。たとえば甚大な災害がある県を襲っているとき、都心には影響が何もなく、いつもどおり投稿するYouTuberも多いなか、UUUMではクリエイターに「今日の配信は控えてください」と呼びかける。
それは多額の報酬をいただいて製作する広告案件でも同様だ。ある新商品の発売日が今週の金曜日で、その日に向けてコンテンツを完成させて投稿するときでも、大きな災害が起きれば投稿は中止する。クライアントには「コンテンツの内容が不適切ということではなく、多くのお金をいただいて動画を投稿するという行為自体が、このタイミングでは不適切です」と理解を得てもらう。深刻で複雑な社会問題と、エンターテインメントコンテンツは無関係ではいられない。