2:異性の立場から「生理」を理解することに挑んだ小山健
こちらも同じく映画化までされたヒット作『生理ちゃん』。男性が語ることがタブー視されている「生理」に正面から取り組み、多くの女性読者に支持された。物語は基本的には一話完結で、さまざまな立場にある女性を主人公に、突然の生理によるトラブルや不調などを絡めながら人生の一場面を爽やかに描いていく。
このようなテーマに挑めば、一部の女性から生理の表現や理解度について批判されることは覚悟の上だったのかもしれない。実際に何度かSNSで非難の声が上がったことはあり、確かに女性蔑視に見える表現があったことは否めない。しかし『生理ちゃん』という作品全体を通して見ると、女性を元気づけ応援するストーリーがメイン。じゅうぶんに生理を理解していない男性がまわりの女性たちに取材を重ねながら、男性にとって異文化である生理を想像で描いたことによって、独特のおもしろさを生み出しているのが大きな魅力になっている。
男性漫画家が描いたことで男性にとっても手に取るハードルが下がり、「生理ってこういうものだったのか」と知るガイドとして、女性にとっては「つらいのは自分だけではなかった、誰かが理解してくれた」と癒されるような作品として。それぞれの性に別々の効果があったのではないか。
『生理ちゃん』については、大阪のデパートの女性向けフロアで、生理中の女性が任意で「生理ちゃんバッジ」をつけ、女性客とのコミュニケーションに促したいというアイデアが発表され、炎上の末に中止となった。ただ、これについては小山氏は直接の関係はなく、炎上に巻き込まれた形と言える。しかしながら、先日発売になった3巻(『生理ちゃん 3日目』)では、そのバッジについての物語を、デパートのスタッフの視点からきっちりと描いていた。炎上に触れずにやり過ごすこともできた件を発案者の思いを伝える形で作品に落とし込んでいるところに、小山氏の誠実さと闘う姿勢を感じた。
個人的には彼には彼の闘いを貫いてほしいと願っている。彼の作品はほかのフェミニストがリーチできないところへ届く可能性をじゅうぶんに持っていると思うからだ。また、自身の妻、さち子をモデルにしたエッセイ漫画も人気だが、育児を描いた『お父さんクエスト』のあとがきインタビューとして、さち子が小山氏にかなりキツめの苦言を呈すちゃぶ台返しがここでも行われているのが興味深い。