「がんばってるんだから文句を言うな」『コンテイジョン』『感染列島』の比較で見えた日本体質の呪い

2020.5.6


今は考えなくていい

両作品とも、中心人物が感染してしまう。
『コンテイジョン』は、ミネアポリスで調査中のミアーズ医師が。
『感染列島』は、WHOメディカルオフィサー小林栄子が。
感染に気づいたふたりの対処方法は、まったく違う。

『コンテイジョン』のミアーズ医師の場合。
ホテルの部屋、体温を測る。熱がある。
泣きながらも、電話をする。
「この24時間内に、この部屋に入った全員の名前を教えてください。昨夜ルームサービスを持ってきたボーイにも連絡を取ってほしいんです。全員の電話番号も、家も携帯も全部です」
そして、上司に携帯で連絡をする。
「ドクターチーヴァー。私も病気かも」
「何があった」
症状を語るミアーズ。
「落ち着け。うろたえるんじゃないぞ。今ひとりか」
「まわりにも感染させたはず」
「まだわからない」
「どうすれば」
「ホテルの部屋にいるんだ。保険局に連絡して君のことを伝える」
「わかりました」
「だから心配いらない」
「誰か後任を見つけて」
「ああ、だが、今はそんなことを考えなくていい。体を休めることだ」
「途中なのにすみません」
「何を言うんだ、気にしなくていい。君を健康な体でこっちに連れ戻すから」
ミアーズ医師は症状が出ると、すぐに接触者や上司に連絡し、自分を隔離し、対処した。

がんばりますの呪い

一方で『感染列島』のWHOメディカルオフィサー小林栄子は、どうか。
車を運転中、咳が止まらない。手で覆うと、その手に血がついている。
そして、驚くことに、栄子はそのまま人の大勢いる臨時医療施設へ行き、車から降りるのだ。
食料の配給に並ぶ人の列の横を歩き、臨時医療施設の医師たちに、こう言う。
「申し訳ありません。私ブレイムに感染したみたいです」
もう観てる側は、「ぎゃーー、だめーー!」と映画の意図とは違うポイントで驚いているのだが、栄子は、臨時医療施設に入り込み、言うのである。
「発症してまもないのでまだ感染しません。重篤患者の担当にしてください」
「しかし……」
「私にもできることがあります」
ううむ。「発症してまもないのでまだ感染しない」というそれまでに出てきていない設定を急に持ち出して、がんばろうとするのだ。
ここまでくると「がんばりますの呪い」だ。

乱暴に言わせてもらう

いや、映画『感染列島』を貶したいわけではないのだ。
2009年、『コンテイジョン』よりも前に、膨大な取材をベースに感染爆発の状況を描いたことはすごい。緊迫感があり、さまざまな情報も込められた前半は悪くない。
だが、後半、どんどん登場人物たちが、「がんばってる私」や、義理人情で、ウイルスに対抗しようとする。
「密!」な空間に集まって会議をし、感染した医師ががんばって患者のケアに当たり、「わずかな可能性に賭けたいから」と犯罪だと知りながら検体を怪しい人物に渡し、「孤独に死なせたくない」と恋人を特別に病床へ招き入れる。
がんばったり、大声で叫ぶと融通が効くシーンが多発する。

たった2本の映画を比べただけで、日米の差まで拡張させて考えるのは乱暴だが、乱暴に言わせてもらう。
日本人の「がんばってるんだから認めろ」という思いは、ウイルスには通用しないよね。




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米光一成

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米光一成

米光一成 (よねみつかずなり)ゲーム作家/ライター/デジタルハリウッド大学教授/日本翻訳大賞運営/東京マッハメンバー。代表作は『ぷよぷよ』『はぁって言うゲーム』『BAROQUE』『はっけよいとネコ』『記憶交換ノ儀式』等、デジタルゲーム、アナログゲームなど幅広くデザインする。池袋コミュニティ・カレッジ..

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