ウイルスより宇宙人を警戒していたトランプの意外な素顔(粉川哲夫)

2020.4.16

この危機を「世界改革」のチャンスと考える起業家たち

この「陰謀説」に関してはすでに追跡調査が進んでおり、その核心にトム・コットン議員がいることがわかっている。彼はトランプから信望のある議員で、CIA長官や国防長官が罷免されたときには必ず後継候補に挙がった人物だ。コットンは1月30日の議員集会で、「武漢にはバイオセーフティー・レベル4の巨大研究施設があり、世界の、最も高い致死率の病原菌、そう、コロナウイルスを扱っている」と語った。

しかし、この発言は1月4日の香港発とされるふたつのツイート――必ずしも武漢の生鮮市場と研究所とを関連づけているとは読めないが――の意味ありげな書き込みを断定的に言い直したものであることがわかっている。実際、その後のインタビューでコットンは同じことを繰り返すが、「証拠はないけどね」と言っている。

陰謀のない政治はないが、「陰謀理論」のダメなところは歴史を特定の人物や組織に集約させてしまう単純さだ。本当の陰謀が起こるのは、自然災害であれ、不測の事態であれ、それが起こった時点からである。すでに多くの起業家たちがこの危機をどう活用するかを考え、シンクタンクなども「世界改革」の絶好のチャンスと見て、さまざまな計画を練っている。陰謀としてはこちらのほうが奥が深く、陰湿である。

もし、武漢のバイオラボ(BSL4)から細菌兵器としてのコロナウイルスが生鮮市場に流され、そこから蔓延が始まったというストーリーを作るのなら、その「元凶」がシー・チンピン(習近平)とその一党だというのでは三文小説だ。ならば、ついでに“中国を貿易制限で苦しめ、細菌兵器を使わせるところまで追い込んだトランプ”という設定も可能ではないか?

Covid-19は、ご覧のとおり細菌兵器としては効果的過ぎるほど効果的なので、その目的が達成されると、地球文明の破滅もあり得る。ということは、その使用者には最初からその覚悟があり、いざとなったら月があるさという意識の持ち主であるという想定のほうがおもしろい。しかし、そういうことだと、シー・チンピンもトランプも、悪魔性が弱すぎ、ミスキャストである。

トランプはソーシャル・ディスタンシングの模範生?

ただし、見方次第ではトランプは、その風貌に似合わずけっこう内気で屈折している。彼は、自分が「細菌恐怖症(germaphobia)」であることを公言しているのだ。トランプはABCのテレビホスト、ジョージ・ステファノポロスに向かって、「あの、カメラの側の人、咳してるけど外してもらえないかな」と言っているのが映像に残っており、最近では「ハワード・ヒューズに次いで有名な細菌恐怖症者」と言われ、その彼が、それにしては世界の首脳たちと平気そうに握手やハグをしているのは不思議だといった論評もある。その後、大急ぎでうがいや手の消毒をしているのかもしれないから、事実のほどはわからないが、細菌恐怖症は彼のツイッター・フリークぶりとは符合する。

ワシントン・ポスト紙の公式YouTubeチャンネルによるトランプ大統領の「細菌恐怖症」に関する動画

彼は、他人と距離を取りたいためにメディア機器を使うのであって、他人に近づくためではない。まさに「ソーシャル・ディスタンシング」の模範なのだが、そう考えると、あの野卑な風貌の先にとても寂し~いキャラクターが浮かんできもするのである。

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粉川哲夫

(こがわ・てつお)メディア批評家、ラジオアートパフォーマー。著書に『メディアの臨界』『アキバと手の思考』(共にせりか書房)、『RADIO-ART』(UV Éditions, Paris)など。https://anarchy.translocal.jp/

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