「芸人でもYouTuberでも、なんでもいい」エレガント人生が賞レースではなく“動画”で戦う理由

2023.7.20

文=梅山織愛 撮影=前田 立 編集=高橋千里


2020年に結成した男女コンビ・エレガント人生。彼らは、同世代の芸人が日々、賞レースでの活躍を目指して劇場に立つなか、あえて賞レースには出ず、動画配信を主戦場としている。

前編では、幅広い世代に共感され、愛されるキャラクターはどのようにして生まれるのか、コント動画の作り方を聞いた。

そんな彼らに肩書を尋ねると「お笑い芸人でもYouTuberでも、なんと呼ばれてもいい」と答えた。ほかとは違う道を歩むと決めた、ふたりの決意とは。

同性だからこそ描ける「男女の関係性の生々しさ」

エレガント人生

──おふたりは「エレガント人生」を結成する前、それぞれ別の方とコンビを組んで活動していたそうですが、前のコンビではどのようなネタをやっていたんですか。

山井祥子(以下:山井) 前のコンビでは、現実にいるような女の子ではなく、もっとお笑いっぽいというか、個性の強いキャラクターを演じてました。

女同士のコンビだったので、今みたいにリアルな恋愛を題材にすることもなかったし、キャラクターの作り方もわりとおおざっぱで。だけど今は男女コンビなので、よりリアルに女性を作り込もうとしていますね。

中込悠(以下:中込) 僕も以前は同性のコンビだったので、男女の関係性みたいなネタは作らなかったです。

──確かに、男女の関係をよりリアルに見せられるのは男女コンビの武器ですよね。

中込 そうですね。僕らはそこを強みとして、売りにしています。男同士のコンビのときは、女装した男性とのコントだからできるネタもあったと思うんですけど、やっぱり生々しさは今のほうがあります。

10分後に体の関係を持つ男女の会話

──それぞれの価値観の中で意見を出せるのも、男女コンビの強みじゃないでしょうか。

中込 それもありますね。提案したネタについて「それは男の考えだよ」と祥子に言われて、初めて気づくこともあるというか。

山井 最近だと「マッチングアプリでプロフィールには『割り勘でいい』って書いてあるのに、いざデートに行って男性が奢らなかったら怒る女性、みたいなネタどう?」って提案されたんですけど、私はピンとこなくて。そんな人いる?って思っちゃって、結局ボツにしたんですよ(笑)。

中込 僕はマッチングアプリをやったことがないんで、イメージだったんですけど、女性はみんな奢ってもらえないと嫌なんじゃないかな?って思い込んでいて……。

エレガント人生

──確かに、本当に割り勘でいいと思ってる女性も多いですよね。おふたりのチャンネルの視聴者はどんな方が多いんですか?

山井 私たちは世代関係なくみんなに観てほしいと思ってるんですけど、多いのは若い女性です。

中込 一番多いのは20代前半、次が10代後半ですかね。コメントしてくれるのも女性が多いので、僕が演じてるキャラクターに対して「こいつはクズ過ぎる!」とか書かれることが多くて……(笑)。

山井 女性目線だと、どうしてもそうなりますよね(笑)。だけどたまに、街中で50代くらいの主婦の方とか、ダンディなおじさんとかにも話しかけていただくこともあって、いろんな方に観てもらえるのはうれしいですね。

自分たちの肩書は、観てくれる人に決めてほしい

──現在、おふたりは動画を主戦場としていますが、肩書をつけるならなんとつけますか。

山井 お笑い芸人? YouTuber? でも、総合したらコント師じゃない?

中込 確かに。でも、正直どっちでもいいんですよね。

山井 じゃあ、エレガント人生か!

エレガント人生

中込 それが一番いいかも。最初は芸人って思われたいって気持ちもあったんですけど、結局、それは観てくれる人が決めることじゃないですか。だから、僕たちから「YouTuberじゃなくて芸人です」とか言う気はないですね。

山井 別に、なんと呼ばれても不快な気持ちになるとかはないです。

中込 みなさんで好きに決めてください!って感じです。

山井 ただこの前、道で「カップルYouTuberの方ですよね?」って言われたときはびっくりしました(笑)。

中込 あったね(笑)。別にいいんですけど、カップルYouTuberがふざけて動画上げてると思ってる人もいるみたいです。

エレガント人生

──でも、おふたりの仲のよさなら勘違いしてしまう人がいるのもわかります。芸人さんでは珍しいくらい仲いいですよね?

中込 ゲキマブですね(笑)。芸人になったときから、しょっちゅう飲みに行ってました。出会って10年くらいになるんですけど、今でも当時と変わらず飲みに行ってますね。この前、久しぶりに1年目のときによく飲んでた店にふたりで行ったりもしました。

山井 遠慮なくどこでも行けますね。

「正統派じゃない道」を選んだ理由

エレガント人生

──お笑いを始めたときは、現在のように、ほかの芸人さんとは違う場所で戦うという選択肢はありましたか。

中込 まったくなかったです(笑)。僕は『M-1グランプリ』を観てNSCに入ったので、むしろ正統派の漫才師に憧れてました。だから、コントをやって、しかも劇場にもあんまり出ないとかはまったく考えてなかったです。

──正統派じゃない道へ進むことに抵抗はありましたか。

中込 なかったですね。昔から何をやるにもいろんなことを考えるタイプだったんですよ。コントを始めたのも、漫才師に憧れてる奴が多かったから、じゃあコントやったほうが目立つかなと思ったからで。抜け道というか、やりたいことよりも自分に合ってると思ったほうに行くことに抵抗はないです。

山井 私は、最初から正統派で売れることはないだろうなと思いながらNSCに入りました。それが、まさか動画で……とかはまったく予想してなかっですけど、私に合ってるのはこれだったんだって今は思ってます。

エレガント人生

──今は、賞レースに出ようという話もあまりしないのでしょうか。

中込 少なくとも、今年は出ないと思います。賞レースで戦うためには、まず劇場に出て、ネタを磨いていかないといけないじゃないですか。そこに時間を注いでいかないと上にはいけない。

だから、みんなが賞レースに向けてネタを仕上げてる時間を、僕たちは動画に振ってるんです。劇場にも出て、バランスよくどっちもやっていこうっていうよりは、動画でがんばると覚悟を決めたので、みんなが出てるから出なきゃとは思わないです。

もちろん今でも賞レースは大好きだし、憧れも強いんですけどね。でも、だからこそ、やるときは本気でやりたいので、今は違うかなと。

山井 私も賞レースは好きなんですけど、競うよりも、自分たちが表現したいことを好き放題に詰め込めるコントのほうがやりたいんで。

エレガント人生

──動画配信に注力できるのには、金銭的な余裕も関係していますか。

中込 それは間違いないですね(笑)。動画が多くの方に観られるようになってから、バイトを辞められたので。

山井 そうですね。バイトも辞められたし、普通に苦しくない生活を送れているのは大きいですね。私はずっと歌を習いたかったんですけど、今ではそれもできるようになったし。

中込 昔は、わけのわからない生活をしてましたね。お菓子みたいなものをおかずにしていたり(笑)。今はちゃんと生きられるようになりました。

単独ライブは「死ぬまでやっていきたい」

エレガント人生

──そんななかでも、おふたりは単独公演を大切にされていますが、おふたりにとって単独公演はどんな存在なのでしょうか。

山井 やっぱり、みんなが笑ってくれているのを生で見られる空間が本当に好きなんです。それは動画では体感できないから、単独公演は死ぬまでやっていきたいです。

それと、私はその時々で伝えたいテーマがあるんですけど、好き放題そのメッセージをコントに落とし込めるのも、単独ライブならではなのかなと。

中込 僕たちは小説や映画みたいに、伝えたいことをコントで表現したいんです。だから、単独ライブでは一つひとつのコントを“作品”として作り込んでいるので、その姿も見てほしいですね。

エレガント人生

──今年の単独ライブ『菊、あじさい、ハイビスカス』はどんな公演になりそうですか。

山井 今、居心地のよくない場所にいる人も、ちょっと希望を持って明日を迎えられるような作品にしたいです。

中込 そうですね、前を向けるような作品にしたいと思ってます。嫌なことがあったり、最近あんまり楽しくなかったりする人が観て、ちょっとでもがんばろうって思ってくれたらうれしいです。

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  • エレガント人生 単独ライブ『菊、あじさい、ハイビスカス』

    日時:8月11日(金)開演19:30/終演21:00
    場所:ルミネtheよしもと

    エレガント人生による第2回目の単独ライブ。複雑に絡まる人生の交差点。
    YouTubeなどのSNS動画でブレイクし、昨年よしもと有楽町シアターでの単独ライブを即完させたエレガント人生が、今年はついにルミネtheよしもとで単独ライブを開催!

    ※オンラインの見逃し視聴は8月13日(日)19:30まで(チケット販売は同日正午まで)

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梅山織愛

(うめやま・おりちか)1997年生まれ。珍しい名前ってよく言われます。編集者・ライター。自他共に認めるミーハー。チョコレートとかき氷が好き。

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