K-POPの次は“T-POP”?MV再生1億回超のタイ発アイドル・4EVEが示すアイデンティティ「人々の感情に乗って拡散していく」
日本でもファンの多い『2gether』(2020年作品)をはじめ、タイドラマのブームが巻き起こったこともあり、にわかに耳にするようになった“T-POP”(=タイのポップス)という単語。K-POPがアイドルカルチャーを全世界的に広げるなか、タイの音楽シーンにもT-POPアイドルの活躍がますます目立つようになっているという。
本稿では、タイポップス探検家・山麓園太郎が、現在タイで最も人気を博しているガールズグループ・4EVE(フォーイブ)メンバーへの来日インタビューを通じ、今まさに成長を遂げているT-POPの様相とアイデンティティに迫る。
目次
3年ぶり開催『タイフェス』出演、最新系T-POPアイドル4EVE
2023年5月、コロナ禍で代々木公園での開催が3年つづけて見送られ、久しぶりの復活となった『タイフェスティバル東京2023』。そのイベントステージには、タイドラマの俳優たちに加えて、AKB48の海外姉妹グループであるBNK48、日本の「ラストアイドル」姉妹グループであるラストアイドル・タイランドを含め、女性アイドルが6組も出演することになった。
BNK48がタイ語版の「恋するフォーチュンクッキー」で大ヒットを飛ばし、現地で国民的アイドルの座に着いたのが2017年。それ以降タイでは、日本スタイルを踏襲したアイドルが数多く活動している。
しかし、ほかのグループと同じく代々木のステージで歌い踊っていた4EVEは、アイドル枠とはいえ頭ひとつ抜けた存在だ。彼女たちは、今タイの若い女性から絶大な支持を集める人気No.1のガールズグループ。「COACH」などのブランドアンバサダーを務めるなどインフルエンサーとしての顔も持ち、その楽曲も日本式のタイアイドルとは異なる「T-POPスタイル」を体現するものだ。
タイの最新ヒットを知りたければ、Spotifyを開いて「T-POP」で検索するといい。たちどころに3時間を超えるプレイリストが現れるだろう。歌詞の内容はわからなくてもタイ語の柔らかな響きは耳に心地よく、メロディやアレンジは驚くほど日本人好みだ。
T-POPの成り立ち
タイでは90年代にジャパンカルチャーの一大ブームがあり、日本のマンガやアニメ、ゲームが広く親しまれた。テレビアニメの主題歌としてJ-POPを耳にした子供たちが現在、音楽シーンで活躍する世代になっている。音楽レーベルの中にはsmallroom(1999年設立)のように、渋谷系に衝撃を受けたミュージシャンによって生まれたものもある。
もちろんそれ以前から、タイの先進的なミュージシャンは、自国の外に創作のリファレンスを求めていた。たとえば、GMMレーベル。同レーベルは、『2gether』など人気ドラマの制作会社GMMTVの親会社で、70年代からいち早くUS/UKチャートを研究して楽曲に取り入れていたバンド・The Impossiblesのメンバーが設立したもの。こうした背景があるからこそ、タイドラマの劇中で流れる曲には、今も70~80年代洋楽のエッセンスが感じられる。
この、GMMが辿って来た道のりは同じ70~80年代に日本でシティ・ポップが生み出された背景とも合致する。こうして洋楽とJ-POP、そしてのちのK-POPの流行からの影響が従来のタイ歌謡を大きく変質させたものが、T-POPの起源だ。2016年にはタイでもシティ・ポップブームが起こり、その後の90年代リバイバル、そして日本と同様にファッションも含めたY2Kブームを経ていて、SpotifyのT-POPプレイリストからもそんな流れを感じることができる。
サバイバルオーディション発グループ・4EVEの“自由”な姿
それにしても、4EVEから感じるこの“自由さ”はなんだろう? タイフェスティバルに出演するほかのアイドルと違い、彼女たちには「制服」がない。渋谷109を買い物の途中で抜け出してきたような、それぞれ違うファッションの7人。ガールクラッシュ(女性からも憧れられる女性)をコンセプトに結成されたグループであることは、このステージが証明している。客席には、日本やタイ以外にも台湾やインドネシアから応援に駆けつけたファンまでいて、女性の歓声のほうが大きいのだ。
ステージ終了後、彼女たちの日本エージェント契約を結んだ「CHET Group」、そしてタイのレーベル「XOXO Entertainment」を擁し、数々の音楽番組を制作する「T-POP Incorporation」のスタッフを交えながら、4EVEのメンバーに話を聞くことができた。
──まず、日本でのステージを終えての感想を聞かせてください。
Mind 私たちにとって、初めての海外でのステージだったんです。だからワクワクすると同時にとても緊張していたんですけど、タイのファンだけじゃなく日本人のファンもいたのでとてもうれしかったです。
──タイトな来日スケジュールだと思いますけど、日本で買い物を楽しむ時間はありそうですか?
Fai 昨日もう行きました! 原宿、表参道、渋谷です。服とスニーカーを買いに。
Taaom 私はコスメを買いに、マツキヨ(マツモトキヨシ)に。
──あれ? マツキヨはタイにもありますよね?
Taaom タイのマツキヨはバンコク郊外が多くて、どこもあまり大きくないんです。日本のマツキヨは品数が多くて最高! 来日した初日からすごい金額使っちゃった(笑)。
Hannah 私は浅草に。本当は着物をレンタルして着て歩きたかったんだけど、雨が降っていて借りられなかったんです。残念……。
「ガールクラッシュ」という彼女たちのイメージから、媚びない強さみたいなものを勝手に想像していた僕の、メンバーに対する印象はインタビュー開始早々完全に逆転した。柔らかな表情で日本のお菓子はカワイイとか、『少年ジャンプ』系のマンガが好きだとか、TikTokで藤井風を聴いてるとか話してくれる彼女たちは、タイの首都バンコクのサイアム駅あたりによくいる、学校帰りに道草している女子大生たちと変わらない。
4EVEはサバイバル・オーディション番組から生まれたグループだが、タイでもこれまでロックやポップスの部門でオーディション番組はあったものの、韓国の『PRODUCE 101』のようなスタイルでガールズグループを結成するプロジェクトは、タイではあまり前例のないことだったという。
そのため審査に使える課題曲が見つからず、タイのロックバンドや古いタイ歌謡の曲をアレンジして使うなどさまざまな試行錯誤をしたそうだ。アイドルを志した理由について彼女たちに聞くと、こんな答えが返ってきた。
Aheye 海外でもコンサートができるようなアーティストになりたかったんです。
Punch 歌とダンスで、そこに居る人に何かを伝えたいって、心から思っています。
Hannah グループとして活動をするなかでいろいろなタイプの曲をいただいて、そこに自分を合わせていくんですけど、たとえば歌い方でも「これは自分が考えてるものとちょっと違うな」と感じたらレコーディング中でも意見を言って話し合います。
という言葉どおり、オーディションを勝ち抜いた彼女たちに共通しているのはステージ・パフォーマーとしての強いアティチュードだ。結果として勝ち取った4EVEのメンバーの座ではあるが、当人にとっては勝ち負けではなく「自分自身に納得できるか」が何よりも重要だったのだろう。この、よりよい自分を目指しつづける姿勢が、多くの女性の共感を集めているのではないか。
多様なカルチャーが混ざり合うT-POP。その「らしさ」に迫る
一方、タイフェスに出演したHatoBito、Sora! Sora!、The Glass Girlsなど、日本式タイアイドルにも目を向けてみたい。彼女たちの活動形態は日本の「地下アイドル」と同じくライブと物販、2ショット撮影などで成り立っていて、楽曲や振り付けも日本のアイドルにかなり近い。
しかし各グループにおけるメンバーの平均年齢は、日本の地下アイドルより高く、大学卒業後に仕事と両立しながらアイドルとして活動を始める女性も珍しくない。成熟した大人の女性が職業として選択するほど、日本の「萌え」と「カワイイ」がタイに与えた影響は大きいのだ。そんな彼女たちと4EVEの共通項である「タイらしさ」とはなんだろうか?
──この数年でタイではT-POPという言葉が使われるようになりました。これはK-POPとJ-POPを参考にしながら、それに加えてタイのオリジナリティも表現していこうという気持ちから生まれた言葉だと思いますが、皆さんが考える「タイらしさ」とはどんなものでしょう?
Jorin やっぱりタイ語の特徴的な響きだと思います。
Fai タイ語には声調(音程の上げ下げ)があって、それが曲のメロディーと組み合わさったときにタイらしさが出ると思ってます。
Taaom 日本には四季があるから季節ごとにステージ衣装も変わったりするでしょう? タイは一年中夏のファッションだから、そこもタイらしさかも。
Aheye 私は、 それぞれに自分らしさがあるところがT-POPやタイアイドルの魅力だと思います。
Mind 全員違うんですよ。
Fai タイ人はもともと明るくてアクティブだし。
Taaom ファニーな感じがあるっていうか、楽しいことが大好きだから。
Punch だからステージでは、自分自身が楽しむことも大事にしてますね。
──タイの芸能人って、ステージを降りてファンと接するときにもすごくフレンドリーに対応してくれますよね。
Mind そうするのが楽しいんです。その親近感とか距離の近さが、タイらしさだと思います。
タイの芸能界には、日本とも韓国とも違ういい意味での「適当さ」がある。サイン会のブースでファンとアーティストの間を区切ってるのがパーテーションではなく、梱包用のピンクのビニール紐だったり、マネージャーもつけずにアイドルがフェス会場をステージ衣装のまま歩いていたりするのだ。もともと無料ライブが盛んで芸能人に会える機会が日常的に多いことからファン側も引きどきをわきまえていて、つきまとったり取り囲んだりしない。日本のタイフェス会場でも、ラストアイドル・タイランドとそのファンがそれを実践してみせていた。
人々の感情に乗って拡散するカルチャー
「海外でステージに立つ夢は今日叶った。次の夢は4EVEのコンサート・ツアーで日本を回ること」と、メンバーのAheyeは言う。では今後、T-POPがグローバル展開する上でハードルになるのはなんだろう? タイの芸能事務所「T-POP Entertainment」代表、日本でT-POPの普及を目指す日本のレーベル「CHET ASIA」代表に、それぞれ聞いた。
T-POP Entertainment代表 やはり言葉の壁です。とはいえ、まだ「T-POP」と呼ばれるようになって2~3年です。YouTubeのMusic Videoに各国語の字幕をつけるなど、海外にT-POPの魅力を伝える方法はこれからも数多く見つかると思いますし、韓国のように完成されたマーケットに進出するのは大変ですが、日本とタイの間にはもともと親近感がありますから、日本については少しハードルが低いだろうと考えています。
CHET ASIA代表 私たちはLDH JAPANのタイ進出のサポートも行っているのですが、LDH JAPAN所属アーティストのタイ進出の一環で、「BALLISTIK BOYZ from EXILE TRIBE」と「PSYCHIC FEVER from EXILE TRIBE」のタイでの武者修行をサポートさせていただいた際、トラックに乗ったメンバーが一般道路をパレードする、いわゆるタイ式のプロモーションを企画しました。
日本ではなじみのない手法に、最初はメンバーの皆さんも戸惑っている様子でしたが、実際やってみると至近距離でファンの反応を直接感じられたり、その場で写真が次々とSNSにアップされることに驚いていました。
タイでは、SNSを中心に人々の感情に乗ってコンテンツが拡散されていくんです。言語や国境を越えていくエンタテインメントを発信するためには、ローカルの人がどうやってコンテンツを楽しんでいるかを実際に体験することが大きなヒントになりました。T-POPが日本に進出する時はタイ式のコンテンツの展開を引き継ぎつつ、日本人が楽しみやすい体験の設計が重要だと思います。
インタビューの最後、4EVEに「10代の女の子の代わりに質問しますね。4EVEみたいになれるオススメのタイコスメはありますか?」と聞くとメンバー全員が顔を見合わせて笑い、せーので「4U2!」と言った。なるほど、すでに彼女たちは、コスメブランドのイメージキャラクターも務めていたのだ。T-POPが将来日本でブレイクするころには、4EVEはBLACKPINKのように音楽雑誌や女性ファッション雑誌の表紙を飾るようなグループに成長しているだろう。そしてそんな日は、そう遠くないようにも思えるのだ。
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