「本当の天才は体型なんて気にしない」中国発“プラスサイズ・アイドル”、熊猫堂ProducePandasが放つ痛快な魅力

2022.9.28

※トップ画像=熊猫堂ProducePandas『COSMIC ANTHEM/手紙』より
文=キクチカムサ 編集=菅原史稀


8月31日に中国のボーイズグループ、熊猫堂ProducePandas(以下、熊猫堂)が日本1stシングル『COSMIC ANTHEM/手紙』をリリースした。本拠地・中国のみならず、ここ日本でもかねてより熱い視線を集めている彼らが持つ独自の魅力を、メンバーと同性・同世代である筆者が紹介。

熊猫堂ProducePandas
(くまねこどうプロデュースパンダ)2020年に結成された中国の5人組アイドルグループ。メンバーは、リーダーでビジュアル担当のDING、メインボーカル担当のOtterとHusky、メインダンサーのMr.17、ギャグ・お笑い担当のCass。2021年、中国のアイドルオーディション番組『青春有你3』に出演して注目を浴びる。2021年12月に日本デビューアルバム『emo』、さらに2022年8月、日本1stシングル『COSMIC ANTHEM/手紙』をリリースした。

BLACKPINK・リサも称賛した魅力

私と熊猫堂との出会いは、中国のオーディション番組『青春有你3』だった。新ボーイズグループのデビューメンバー選抜を目的として2021年2月から放送されていた同番組に、彼らはオーディション参加者として出演していた。

彼らのステージを観た私は、ひと目で心奪われた。そのチアフルなパフォーマンスには、音楽に合わせて身体を動かすことのプリミティブな歓びが感じ取れるような輝く個性があった。同番組で参加者のトレーナーを務めていたBLACKPINKのリサ(そのとき彼らが披露していた曲のオリジナルアーティストでもある)のリアクションを見れば、彼らの舞台がいかに好意的に受け取られたか想像に難くないだろう。ほかのオーディション参加者も総立ちで歓声を上げ、熊猫堂はまさに会場をRockしてみせた。

リサは彼らの印象を「イケててかわいい」と語ったが、彼らのパフォーマンスからあふれ出るポジティビティは、私たち視聴者、プロのアーティスト、そして競合相手であるはずの参加者の胸を躍らせる魅力があったのだ。

「誰が踊ったっていいし、誰がアイドルを目指したっていい」

同番組内で特に印象に残っているのが、熊猫堂のメンバーふたりが参加している「Sunshine Rainbow White Horse」のステージだ。耳に残るキャッチーな曲調、ポジティブな歌詞と相まって終始和やかな雰囲気をまとったこのステージだが、「君は誰よりも強く、偉大で、明るく、眩しく、最高で、かわいく、かっこよくて、誇り高くて……」と、個をエンパワメントするような同曲歌詞の世界観を表現するにあたり、熊猫堂のふたりが放つ存在感が大きく寄与しているように感じられた。

誰が踊ったっていいし、誰がアイドルを目指したっていい。パフォーマンスを通じて、そんな前向きなメッセージを伝える彼らに興味を持った私は、改めて熊猫堂というグループについて調べてみることにした。

経歴もバラバラな5人が、プラスサイズ・アイドルに

2020年7月に中国でデビューした彼ら。プロフィールを調べて、そのユニークなバックグラウンドに驚いた。

まずはメンバーのほとんどがアラサーであること。グループ最年長であるMr.17は1989年生まれ、一番若いOtterは1998年生まれ。また、デビューするまでの経歴も多様だ。パフォーマンスに関わる仕事をしていたのはバーで歌手をやっていたCassのみ。ほかのメンバー、たとえばHuskyはIT企業でプロジェクトマネージャーをしていたし、Mr.17は大手の石油企業に勤めていたそうだ。

この5人は「親しみやすく刺激的なバンドを作りたい」と考えていた北京の芸能事務所・DMDF Entertainmentが開催した、プラスサイズの人々を対象とするオーディションによって300人ほどの候補者から選ばれた。メンバーのDINGはもともと有名なプラスサイズ・モデルだったが、その経歴を捨てオーディションを受けた。「雑誌の表紙に載るためにはおそらくこれ(プラスサイズ・アイドルになること)が一番近い」とは彼の言葉だ。

私が熊猫堂に心惹かれたポイントは、ほかにもある。彼らの楽曲「大驚小怪 -Stand Up-」では「ためらわないで、ぽっちゃりしているほうがほかの人の目を引くよ」「本当の天才は体型なんて気にしない」「誰が決めた? 男の腹筋がワンパックではダメだと」といった、まさに“パンチラインの嵐”な歌詞が歌われている。彼らは、自身がパフォーマンスをすること、アイドルでいることを通して自分に正直でいることの素晴らしさを伝えてくれる。メンバーと同性同世代で「腹筋がワンパック」な自分としては、初めてといっていいほど男性アイドルに自分自身の姿を重ねられ、感動を覚えたのだ。

熊猫堂に感じた「ボーイズグループはもっと多様であっていい」

さらに、彼らは女性アイドルのカバーダンス映像もアップしているが、持ち味であるポジティブさから見ているコチラも踊ってみたくなるような印象も覚えた。これは、彼らのパフォーマンスが稚拙だったり見た目でごまかしているというわけではけっしてない。むしろ、これほどの堂々たるパフォーマンスを完成させるまでに積み重ねてきたであろう努力に感動を覚えるほどだ。また、世間で“あるべき”とされるアイドルの姿から逸脱している彼らに、心ない誹謗中傷が投げかけられることもあるだろうが、それらを一切見せず純粋にパフォーマンスを楽しむプロフェッショナリズムに心を打たれる。

彼らとの出会いで改めて考えさせられたのは、ボーイズグループのメンバーの年齢層や身体性はもっと多様であっていいということだ。その多様さが広がれば、これまでボーイズグループに関心を寄せることが少なかった私のような層にも響くのではないかと思う。

日本、そして世界での活躍も期待

そんな彼らは日本デビュー前から日本のファンよりラブコールを受けており、活動拠点の中国と比べると少ないとはいえ、さまざまな手段でアプローチをしてくれている。YouTubeで見られるVlogには日本語字幕がついていたり、ツイッターなどのSNSでは日本語での発信もある。日本デビューをきっかけにさらなる活躍を見せ、ボーイズグループの規範、美的ステレオタイプを打ち破る先駆けの存在になるかもしれない。

実際に、熊猫堂のパフォーマンスのもたらす前向きなエネルギーと喜びは、掛け値なしに最高だ。彼らにオピニオン・リーダーの役割を背負わせることは望まないが、それでもここにひとりのアラサー男性が救われたことは事実だし、彼らが世界を揺るがす日が来ることを夢見てしまうのだ。

この記事の画像(全7枚)




この記事が掲載されているカテゴリ

QJWebはほぼ毎日更新
新着・人気記事をお知らせします。