セクシュアルな深夜ドラマ『アカイリンゴ』『サブスク彼女』は何を描きたいのか?男性向けだった「DMM TV」の新たな挑戦

2023.4.8

文=ちゃんめい 編集=高橋千里


──「どうせ本命に選ばれないなら、定額制のワリキッた彼女になる」。そんな“月額課金制の彼女”を始めることにした女の子たちが繰り広げる歪な恋愛交錯劇『サブスク彼女』が紺野彩夏主演で実写ドラマ化され、5月7日より朝日放送テレビ(ABCテレビ)で放送、「DMM TV」にて独占配信される。

過激な性描写で話題を呼んだ『アカイリンゴ』につづき、朝日放送テレビ(ABCテレビ)とDMM TVの共同企画ドラマ第2弾となる本作。そもそもなぜ『アカイリンゴ』『サブスク彼女』など、センセーショナルな漫画作品のドラマ化に踏み切ったのか。

朝日放送グループホールディングス コンテンツ開発局長・清水一幸氏と、DMM TVオリジナルコンテンツ制作責任者・久保田哲史氏が明かしたその理由と、ドラマ化で描きたいものとは。


『サブスク彼女』から感じた女性たちの“悲哀”

──まずは、なぜ『サブスク彼女』をドラマ化しようと思ったのか、その理由と経緯をお聞かせください。

久保田哲史(以下、久保田) 「DMM TV」は2022年12月にアニメを主軸とした動画配信サービスとしてスタートしましたが、最近ではオリジナルドラマの制作にも力を入れています。

ドラマのメインターゲットはDMMの今までの動画事業の歴史や相性を考えて男性に据えているのですが、今回は女性にも響く作品を作りたかったんです。ある意味、チャレンジだと考えています。

──『アカイリンゴ』は、完全に男性層へ向けて制作されていたと。

清水一幸(以下、清水) 久保田さんから、男性向けで地上波では観ることができない過激さもある作品で……というオーダーをいただいたときにご提案したのが『アカイリンゴ』でした。そして、この作品をきっかけに、朝日放送テレビ(ABCテレビ)とDMM TVによる共同企画ドラマのプロジェクトが本格的にスタートしました。

久保田 『アカイリンゴ』は、性行為が法律で禁じられた近未来の日本を舞台に、欲望や理性、衝動の狭間で葛藤する男女の姿を描いた作品です。「DMM TV」で絶賛配信中ですが、最終回を迎えた今でも多くの方にご視聴いただいていますね。

ドラマ『アカイリンゴ』ティザーPR

──『サブスク彼女』には“月額課金制の彼女”というセンセーショナルな設定が登場しますが、本作のどんなところが女性に響くと感じたのでしょうか?

清水 まず、原作を読んだときに、現代の女性が抱えているのかもしれない“悲哀”みたいなものを感じました。作中に登場するのは、誰かの一番になりたいのになれない……そんな本命になれない虚しさを抱える女の子たち。もしかしたら、今まさに同じような気持ちでいる女性たちが世の中にはいるのではないかなと。

『サブスク彼女』1巻/山本中学/日本文芸社
『サブスク彼女』1巻/山本中学/日本文芸社

久保田 そういった悩みって、昔は誰にも言えない空気感がありましたよね。だけど、SNSの発達によって第三者に気軽に相談できる時代になったと。

本作だと、まさに主人公・トモとなーちゃんがSNSを介して出会い、誰にも所有されない“月額課金制の彼女”を始めないかと相談をするわけですが……。もしかしたら現実でも起こりそうだという、このリアルさに共感する方もいそうだなと思います。

清水 昨年、『明日、私は誰かのカノジョ』がドラマ化されて女性たちを中心にすごく話題になりましたが、この作品で描かれていたのもまさに“悲哀”を含めた今を生きる女性たちのリアルな生き様。この“悲哀”という要素が女性に響くのではないかなと考えています。

「愛が先か?性的行動が先か?」普遍的テーマの変化

──“悲哀”以外にはどんなことを感じましたか?

久保田 今までのドラマで脈々と受け継がれてきたキャラクターが、現代的に生まれ変わっているところがおもしろいなと。たとえば友達以上恋人未満みたいな、いわゆる“都合のいい女”的なキャラクターって、昔からドラマに存在していましたよね。

清水 それが本作では“サブスク彼女”になっていると。もう、ネーミングが今時ですよね。あとは、原作を読んでいて、男女間で恋愛に発展する場合、愛と性的な行動、どちらが先なのか?という問い自体が、もう違うのかなと考え込んでしまいました。

──どのような点が違うと感じたのでしょうか?

清水 男女の距離が縮まっていくなかで、愛を確かめ合ってから性的行動に発展するとか、逆もまた然りで。つまり、男女間において「愛が先か、性的行動が先か」というのは普遍的なテーマだと思っていたんです。

ですが、そのどちらでもない問いを具現化したのが『サブスク彼女』だなと。その様子を原作で読んでいて、今の若い世代ってそもそも恋をしないのかな?とも感じましたね。

『サブスク彼女』2巻/山本中学/日本文芸社
『サブスク彼女』2巻/山本中学/日本文芸社

久保田 もしかすると恋に関する悩みがすごく複雑なものになっているんじゃないかなと。今はSNSやネットの普及によって「好き」って相手にすぐ送れてしまうじゃないですか。対して、僕たちの時代はまず自宅から電話をかけて、そしたら親御さんが出て慌てるみたいな(笑)。つまり「好き」と伝えるまでにハードルがあったから、そのぶん時間をかけて悩んだんですよね。

時代関係なく、人を好きになるまでにはそれなりの時間を要するはずなのに、現代の子たちはそこが大幅にカットできてしまう。そして、いきなりそのあとからのスタートを強いられてしまうからこそ、僕たちの時代以上に恋愛に対しての悩みが深くなっているのではないかなと思います。

“性の価値観”が転換期を迎える今「自分たちはどうやって生きていくのか」

──ドラマ『サブスク彼女』は、現代の若者にとってどのように映ると思いますか?

清水 男性からすると、“サブスク彼女”という設定に驚きつつも、理想的だと思う方もいるかもしれません。一方で女性だと、主人公・トモと自分を重ねて“自分の悩みそのもの”だと感じる方もいるのではないでしょうか。

紺野彩夏
ドラマ『サブスク彼女』で主人公・トモを演じる紺野彩夏

久保田 そもそも、現代の若者たちは混乱していると思うんです。たとえば、女性・男性だけに留まらず性の多様化が進んでいるけれど、日本では男女格差がまだまだ根強い一面がある。一方で、海外では「#MeToo運動」をはじめとする社会運動が活発に行われていると。

今、世界的に転換期を迎えていて、常に多様な性の価値観、思考があふれている……。つまり、情報過多になっているからこそ「自分たちはどうやって生きていけばいいの?」と不安を感じている若者も一定数いると思っています。

──先ほどの『明日、私は誰かのカノジョ』もですが、最近はそういった若者たちの不安に寄り添った作品が多い気がします。

久保田 その不安に対して、ドラマで無理やりハッピーエンドを提示するつもりはなくて、当事者である現代の若者たちがどう生きていくのかを考えられたらいいと思っています。『サブスク彼女』のように、ステレオタイプではない展開を観て考えてもらえるきっかけになったらうれしいです。

描きたいのはセクシュアルなシーンよりも“心の機微”

──『アカイリンゴ』ドラマ化の際は、撮影現場にインティマシー・コーディネーター(※)を導入されていたと伺いました。『サブスク彼女』も原作にセクシュアルなシーンが一部登場しますが、今回もインティマシー・コーディネーターを入れるのでしょうか。

※インティマシー・コーディネーター:映画やドラマで露出や身体的接触を伴うシーンを撮影する際、俳優の身体的・精神的安全を確保するために撮影現場に立ち会い、俳優と制作の間で調整を務める専門家

清水 検討中です。そもそも『アカイリンゴ』のときは物語の設定上、セクシュアルなシーンがプレイとして扱われていたこと、そして原作も男性目線の作品だったので、なおさらインティマシー・コーディネーターの方に入っていただく必要性がありました。

久保田 セクシュアルなシーンをパフォーマンスのように魅せていたところもあるので、インティマシー・コーディネーターの方には、一つひとつのシーンに対して必然性があるのかどうか慎重に判断していただきましたね。

清水 けれど、『サブスク彼女』の場合は、登場人物たちには“搾取されない恋愛がしたい”という思いが根底にあるので、(性行為を)断る際はしっかりと断っているんです。

あと、先ほど久保田さんも仰っていましたが、転換期を迎えている今の時代に「私たちはどう生きていくのか?」といった問い、そして丁寧に描かれる登場人物たちの心の機微が本作の魅力だと感じています。ドラマでも、セクシュアルなシーンよりも心理描写に重点を置いて制作しているので、ぜひ注目してほしいです。

左:清水一幸(しみず・かずゆき)朝日放送グループホールディングス コンテンツ開発局長。1996年に朝日放送に入社し、2005年にフジテレビに移籍。2021年に再び、朝日放送に移籍。フジテレビ時代の主な担当作品に『のだめカンタービレ』『CHANGE』『最高の離婚』『昼顔~平日午後3時の恋人たち〜』『東京ラブストーリー(2020)』など
右:久保田哲史(くぼた・さとし)DMM.com プレミアム事業部コンテンツ戦略兼オリジナル制作責任者。1995年にフジテレビに入社しドラマ制作・海外事業を歴任、2019年にAmazonスタジオのHead of Scripted Originalsとして移籍。2022年「DMM TV」ローンチを機にDMM.comに移籍し、現職に至る

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マンガライター。マンガを中心にエンタメ系のインタビュー、レビューの執筆や、女性誌のマンガ特集に出演。毎月100冊以上マンガを読む。

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