∞ホールの漫才師を代表する“顔”であるダイタクとオズワルド。2組に共通する点といえばなにをおいても、囲碁将棋の薫陶を受けた直系の後輩たちであることだろう。その襟元には誇らしげに囲碁将棋バッヂが輝く。東京吉本の漫才の今を語るということは、それすなわち囲碁将棋について語ることとイコールなのだ──。
※この記事は『芸人雑誌volume9』(2023年3月24日より順次発売)掲載のインタビューを転載したものです。
不在の中心として“大将”から東京漫才を語る
──この数年、東京吉本漫才師周辺が盛り上がってると思うんです。囲碁将棋さんを中心にひとつのコミュニティが形成されて、それがライブの動員にもつながってる印象があって。
伊藤俊介(以下、伊藤) あぁ、それはそうですね。それでいうと、囲碁将棋さんがこの時代にハマりはじめてる感じがします。
吉本拓(以下、拓) 今、間違いなく東京の漫才師でいちばん面白いんじゃないですか?
吉本大(以下、大) 人気もあるし。
──あらためて、なぜ今そういう空気になってるんでしょうか。
拓 ようやく大将感を出してくれるようになりましたよね。
大 昔よりね。
拓 責任持つのが嫌だったんでしょうね。『M-1』に出られなくなった後、腐ってほしくなくて僕らとニューヨークで囲碁将棋さんを持ち上げるライブをはじめたんですよ。そうやって「あなたたちが大将なんだから」って2年くらい言い続けてようやく、自分らが頭のライブをやってくれるようになりました。
畠中悠(以下、畠中) 『オマエらには負けねえから!』とか、神保町の若手とも一緒に戦ってて良いですよね。
大 今バリバリ『M-1』の決勝目指して頑張ってる若手に圧勝する芸歴20年目ってマジですごいからな。
伊藤 大阪にだってそういないでしょう。
拓 『M-1』抜けた人から刺激をもらうことってほぼないんですよ。大体の人が前よりネタつくらなくなったり舞台数減ったりするけど、『THE SECOND』予選でいちウケが囲碁将棋で次がタモンズだったって聞いて、震えました。
畠中 たしかに、『M-1』終わっても終わりじゃないんだって思わせてもらえますね。バリバリ現役でかっこいい。
拓 あの芸歴でこの活躍は、後輩芸人からしたら単純にパワーをもらいます。
大 東京吉本の歴史の中でもかなり異質だと思う。ネタからふたりのキャラクター、雰囲気や売れ方も含めて、ああいう人たちはいなかったよ。ここから売れきったらマジですごくない? 囲碁将棋さんがもう一個上がったら、東京の若手ももういっちょ盛り上がるんじゃないかな。
──大将がいると、そこを目指して下の世代も盛り上がる?
伊藤 たぶん、大阪は世代の分かれ方が細かいと思うんですよ。千鳥さんの世代、かまいたちさんの世代みたいに何年かおきにその時期の大将がいるけど東京はそのイメージが俺はないんですよね。東京吉本の純正漫才師でいったら囲碁将棋さんの上はポイズン(POISON GIRL BAND)さんまで空くし、下はダイタクさんまで空いてる感じがする。僕らがなんで囲碁将棋さんを見て育ったかって、世代が刻まれてないせいでパッと上を見たときにふたりが丸見えだったからで。俺らからすればダイタクさんもそういう存在ですけど。
畠中 大将をつくろうとしたわけじゃなくて、面白すぎたからみんな憧れちゃっただけ。
拓 そう、自然発生的に大将になった。あと、これからは大阪からどんどん上京してくるじゃん。今年も若手が6組来てガクテンソクさんも来るでしょ。僕らよりちょっと下の世代で、これから気合い入れて踏みとどまらなきゃいけない漫才師のライブの枠が食われちゃうわけですよ。だから一致団結して、そいつらがでっかい舞台でネタかけれるようなライブを定期的に打ちたいって俺は本気で思ってます。
大 えー、いいんじゃない? ワラバランスとかまんじろうとかはさぁ。
伊藤 ピンポイントで言わないでいいでしょ(笑)。そういう状況を後輩も見てるから囲碁将棋さんはすごいなと余計思うんですよ。才能とか面白さを抜きにしても「腐らなかった人たち」だから。どこにいてもずっと面白くあった人たちというか……なんか死んだ人の話みたいになってますね、今。
3人 (笑)
拓 いろんな人たちが知名度的に囲碁将棋さんを乗り越えて「でもいちばん面白いのはこの人たちです」って紹介する存在にしたいですね。あんまり売れすぎる世界線は見たくない。
大 それは俺たちの勝手な願望だよ。
拓 そうだけど(笑)。
伊藤 でも実際、ふたりがテレビでMCやってるところは想像つかないっちゃつかないですね。やりたがらない気もするし。
──3組とゆかりの深い作家・山田ナビスコさんの著書『東京芸人水脈史』(宝島社)では、もともと東京吉本の芸人はテレビを目指すことが前提になっていたと書かれていました。漫才師とテレビの距離感は今はどうですか?
伊藤 でも結局、テレビにどれだけ出ても漫才をまずやっていかなきゃいけないって感覚はありますよね。
拓 テレビだとスベったところはカットされて映らないじゃないですか。それで「この人たち面白いな」と思って舞台観に来てもらったとき、クソスベってたら恥ずかしすぎるから。
畠中 そうですね。ちゃんと漫才が面白くありたい。
拓 だからみんな漫才に、舞台に戻ってくるじゃん。
大 ネタはずっとやっていきたいね。なんだったら俺は舞台メインがいい。ただ、東京は一旦テレビを経由しないとネクストステージにいけないんですよ。僕は個人的な目標として、「双子」じゃない認識のされ方になれたらいいなと思ってるんです。中川家さんは兄弟だけど、今は誰もそこありきで見てないじゃないですか。難しいかもしれないけど、そうなれたら僕らの新しい漫才の形が生まれるんだろうなと思ってて。
拓 それには知名度を上げるしかないんですよね。そうなると『M-1』が手っ取り早い。
大 そうなんですよ。認知された前と後で、漫才の質は変わるんです。これは間違いなくそう。オズワルドも『M-1』が終わったらもうちょっと変わっていくと思う。もっと寄席寄りにたぶんなるし、なったほうがいい。そのほうがたくさんの人を笑わせられるから。囲碁将棋さんも、ここからバーンと売れきったらたぶん“ネクスト囲碁将棋の漫才”が待ってるんですよ。東京だと舞台だけじゃそれはなかなかできないんで。
拓 一回世に出なきゃ舞台ももらえないしな。
──最後にひとつ聞かせてください。大阪の漫才師なら「NGKのトリをつとめたい」、コント師だと最近は「単独ライブの全国ツアーで食べていけるようになりたい」という目標を掲げる人が多いですが、それでいうと東京の漫才師が目指すところはどこだと思いますか?
畠中 僕らはNGKめっちゃ出させてもらってるんで、そこの憧れはあります。そういうところでウケる漫才師でありたいし、漫才師の格みたいなものはずっと保っていたいですね。
大 気持ちいいからな、NGKは。
拓 でもまぁ、どこでもいいよな。
畠中 そうですね、どこでも。漫才やれたら。
拓 呼んでくれてめっちゃ笑ってくれたら。
伊藤 どこでも一緒ですよね。俺はもう根本で言ったら「その日めっちゃウケて、みんなでめっちゃ飲みに行きたい」、これに尽きると思います。
大 場所は問わずね。結局ねぇ、漫才やって地方回れておいしいメシ食えて友達と酒飲めてバレない浮気ができる、それが最高です。
伊藤 あ、これは載せないでください。ひとくくりにされるんで。
大 載せていいです。全員思ってますから。
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『芸人雑誌volume9』では今最もホットな劇場ヨシモト∞ホールを取り上げる。中面ではレギュラーメンバー全25組の撮り下ろし写真&インタビュー、ほか表紙を飾るそれぞれ2組のクロストーク、さらにはダンビラムーチョが語る『2022年「M-1」敗者復活戦』やコットンと劇場支配人との対談を収録。ケビンス・山口コンボイの知られざる楽屋ルーティーンやシシガシラ・脇田浩幸の私服も激写。賞レースファイナリストやテレビ・YouTubeでの人気者が多数在籍し、お笑いシーンを牽引するヨシモト∞ホールを総覧できる一冊となっている。
定価:1,650円(本体1,500円+税)
発売:2023年3月22日より順次発売
ページ数:96ページ
判型:B5
※表紙は3バージョン用意(中面は全て同じものとなります)
※限定版(A・B)は丸善ジュンク堂書店、honto、よしもとエンタメショップにて限定販売
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