「芸人を名乗ってもいいことない」板橋ハウス、TikTokでの正攻法と吉本5年目のリアル

2022.5.10
板橋ハウス

文=原 航平 撮影=長野竜成 編集=梅山織愛


TikTokを観ない人に、「板橋ハウス」の名はどれだけ浸透しているだろうか。

板橋のマンションでルームシェアをする吉野・住岡・竹内という20代の男性3人が、ただただ修学旅行の夜の部屋みたいなわちゃわちゃした会話を交わす動画がバズっているのだ。TikTok上では公にしていないが、実はこの3人は吉本興業所属、芸歴5年目の芸人。3人それぞれにコンビを組んでいて、『M-1グランプリ』や『キングオブコント』の決勝を目指してしのぎを削っている。

彼らが普段から撮影をし、寝食を共にしている板橋ハウスを訪問。「芸人の活動を差し置いてTikTokでバズった」ことにどんな思いを抱いているのか率直に話してもらった。

お笑いについて2時間語り合い、ルームシェアを決めた

板橋ハウス
「板橋ハウス」アイコンを実写化

吉野(よしの)写真左
1994年2月3日、福岡県出身。板橋ハウスの中でのポジション「かまってちゃん」。東京NSC22期、コンビ名「めぞん」

住岡(すみおか)写真中央
1993年6月22日、大阪府出身。板橋ハウスの中でのポジション「マスコット」。東京NSC22期、コンビ名「軟水」

竹内(たけうち)写真右
1995年1月6日、愛知県出身。板橋ハウスの中でのポジション「ディフェンダーのフィニッシャー」。東京NSC22期、コンビ名「ピュート」

──TikTokで話題の板橋ハウスが、吉本興業所属の芸人だと知ったときには驚きました。普段は別々のコンビで活動している3人ですが、いつルームシェアが始まったんですか。

竹内 ルームシェアを始めたのは2020年の10月です。その数カ月前に吉野が僕をバイクで家まで送ってくれたことがあって。駐車場で2時間くらいお笑いについて語り合ったんですよね。もうちょっとギアを上げていかないとまわりの芸人に勝てないとか漏らしながら。

──熱いですね。

吉野 あの夜は青春でしたね。

竹内 それで、ルームシェアしてる芸人のおもしろさは頭ひとつ抜けてると思ってたんです。フリートークのときの空気感が違うというか、普段から芸人同士で会話してるから余裕がある。だから、俺らもいっちょルームシェアでも始めるかって話になって。でも、吉野ではなく住岡を誘ったんです。

住岡 なんでやねん。

──どういうことですか?

吉野 竹内は僕と熱い話をしたのに、僕ではなく住岡に声をかけたんです……。でも、住岡とは僕も仲よかったんで、住岡がたまたま僕も誘ってくれました(笑)。

住岡 吉野とは前に別のところでルームシェアしてたんですけど、そのときにめちゃくちゃ狭い部屋で寝とったんで、こいつならどんな物件でもいけるかと思って。

──家賃要員ですか?(笑)

吉野 結果的に僕だけリビングで寝てるんですけど、ぜんぜん平気です。

竹内 でも、3人いたほうが絶対おもしろいんで。

──「熱い話をした2時間」というのが気になります。

吉野 とにかくあのころは焦りがすごかったかもしれないですね。

竹内 たぶんそのときに初めて吉野と深い話をして。それまで吉野と話すと全部ボケで返されてきたから、まともに会話できる人じゃないってずっと思ってたんですけど(笑)。

吉野 (笑)。確かに、あそこでちゃんとしゃべってなかったら竹内にルームシェア断られてた可能性もあります。

予想外の大バズリを経験するも、突然のアカウント凍結

板橋ハウス

──TikTokを始めようと思ったきっかけは?

吉野 住み始めてから2カ月くらいは何もしてなかったんです。ただ、朝5時とかまで竹内の部屋に集まってぐだぐだしゃべったり部屋からずっと出ないみたいなくだりを延々としてて。

──動画とか関係なくそういうことをしてたんですね。

吉野 あのときはひどかったです。なんの収益も見込めない遊びを朝まで。

竹内 絶対寝たほうがいいんですけど、毎日が修学旅行みたいで楽しくて(笑)。

吉野 住岡もいた前のルームシェアのときも動画を撮りたいっていう話はしてたんですけど、言うだけで終わってしまって。今回もだらだらしてたらこのままの状態がつづくなと思って、撮ってみたのが2020年の12月でした。

──最初にバズったのはどの動画ですか?

吉野 「コンビニ行く誘いを絶対断らない男、吉野」ですね。住岡とふたりで撮ったんですけどまったく手応えはなかったです。

住岡 これおもろいんか?って言いながら。

吉野 でもアップしたら次の日に急激に伸び始めて。その前に、大喜利に答えてスベったら水風呂に突っ込むっていう自信のある動画とかも上げてたんですけど、7いいねしかなかったり。TikTokはこっちがウケるんやって、バズリの法則はわからないながらに理解しました。

「コンビニ行く誘いを絶対断らない男、吉野」

──それが何本目くらいの動画ですか?

吉野 7、8本目とかですかね。バズってからはペースを上げて撮るようになって、朝5時までやってた部屋を出ていかないくだりも動画にしてみたり。

──バズるのも早くて、かなり順調ですよね。

竹内 順調だったんですけど……。

吉野 のぼり調子のときに僕が間違ってアカウントを消しちゃって。

──そんなことが。

吉野 僕がアカウントを管理してるんですけど、普通に触ってたら生年月日を入力する画面が出てきて、間違えてその日の日付を打っちゃったんです。そしたら0歳の赤ちゃんだと認定されて一瞬でアカウントが消えた(笑)。

竹内 赤ちゃん凍結事件ね(笑)。

吉野 ひたすらTikTokに凍結解除してもらうようにお願いのメールを送ったら1週間くらいでようやく取り戻すことはできたんですけどね。「赤ちゃんじゃないです」って証明するために免許証とかも送った気がします……。

その期間にYouTubeも始めました。片方が消えても大丈夫なようにっていうリスク分散の意味合いもあって(笑)。

バイトを辞めることができた

板橋ハウス

──TikTokを始めたときは、どうなっていきたいと思っていましたか。

竹内 同期のマツきんぐっていう芸人がTikTokでバズってるのを見てて、けっこう目標にはしてましたね。がんばったらあれくらい見られるんだなと思って。

住岡 僕はふたりの熱量に乗っかった感じです。いずれ飽きるのかなとか思ってました。

吉野 (笑)。

竹内 住岡はアカウント停止したときもあんまり動じてなかったですからね(笑)。

住岡 さすがに今はもうちょっと熱ありますけど。

吉野 僕も今みたいにYouTubeの登録者数が35万人になるとかは考えてなくて。おもしろいことしてるのを少しでも多くの人に見てほしいっていうかまってちゃん精神だけだったんで。竹内はちゃんと野望があって、バズリたいって思ってたよな?

竹内 最初は編集を全部僕がやってたんですけど、軌道に乗るまで3カ月くらいひたすら編集してアップしてました。

──コンビの活動もありつつ、「板橋ハウスでバズリたい」という気持ちがあったんですね。

竹内 コンビの活動が軸ではあります。ただ、とにかくバイトを早く辞めたくて、バズったら辞めれるだろうと。

吉野 今はもうみんなバイトを辞めることができたんですけど、竹内は最近ほぼバイトみたいなスマホゲームしてます(笑)。キッチンで指示されたものを作って出すっていう。

竹内 本当のバイトは怒られるんですけど、ゲームだと怒られないんで(笑)。

──バイトを辞められたことで、コンビの活動にも専念する時間も増えた。

竹内 余裕ができたぶん、だいぶお笑いに力を入れることができてますね。みんなそれぞれ劇場の出番も増えて、結果も出てきてると思います。

住岡 板橋ハウスのおかげでバイトせんでやれてるうちに、お笑いで食えるようになりたいなって思います。

──今が一番、コンビの活動としてもチャンスだなと。

吉野 そうですね。

だから僕らは芸人って名乗らない

板橋ハウス

──芸人さんがTikTokやYouTubeに挑戦することは増えていますが、特に抵抗はなかったですか?

竹内 僕はなかったですね。芸人界でもTikTokとかに対する抵抗はだいぶ薄れてきてると思うんですよね。住岡は最初ちょっと恥ずかしそうでしたけど。

住岡 うーん、確かに最初は恥ずかしかったです。でも、バズってもうたらもう恥ずかしくないですね。

竹内 現金なやつだな(笑)。

──ほかの芸人さんにイジられたりすることもないですか。

竹内 めっちゃ観てもらってて、逆に褒められることが多いんですよ。他事務所の人も「板橋ハウスの人だ!」とか声をかけてくれて、うれしいです。

──板橋ハウスさんの動画はベースがゴリゴリの大喜利で必ず笑えるんですけど、それでいて生活風景をのぞき見しているような安心する嘘のなさがあります。いわゆるTikTokerとかYouTuberっぽいことをしていないのが魅力なのかなと思いますが、そのあたりの見せ方はどこまで意識しているのでしょう。

竹内 キャラクターに入ったりせずに普段どおりにしようっていうのは、意識はしてないですけど絶対そっちのほうがいいと思ってましたね。

吉野 飾った状態の自分たちがTikTokでバズっても、YouTubeとかコンビの活動まで見にきてもらいづらいもんね。

竹内 今のTikTokやYouTubeは「おもしろい」より「楽しい」を求める時代だと思うんです。芸人って名乗った人が「おもしろいことをやります!」って意気込んでる動画は、だいたいコメント欄でバカにされてて。

吉野 だから僕らは「芸人」って名乗らないようにしてるんです。

竹内 芸人って名乗ったところで、いいことひとつもないもんな。

吉野 芸人だと「おもしろいのが普通」っていうハードルがまずあるから、それを下回るとバカにされる。おもしろくても、芸人ってだけでとっつきにくさもあるみたいで。たまにコメントで「板橋ハウスが芸人だって知ってショック」とか書かれることもあるんです。

──一般人だと思ってたのに……みたいな。

吉野 なんで一般人のほうがいいんや?って思います。

竹内 「この人たちはおもしろいことをやろうとしてるんだ」って引いちゃうんでしょうね。

──「おもしろいことやるぞ!」と気張ってないのがまた、板橋ハウスのよさだと思いますが。

吉野 大学生みたいな雰囲気は出してますね。もはや大学生って嘘つくときすらあります。

芸人という本分のために

──TikTokやYouTubeは順調だと思いますが、板橋ハウスの活動だけで食べていくことは考えてないですか。

吉野 それはぜんぜんないですね。

竹内 バイトを辞める手段ではありますけど、それは一切ないです。

住岡 芸人をやりたくて東京に来たんで。

吉野 本分、ですね。芸人っていう仕事が純粋に楽しくて、芸歴5年にもなるとまわりはおもしろい人しかいないから、この環境でずっとやれたらなって思うんです。でも、お金がないとつづけられない。だから今は板橋ハウスのおかげでハッピーって感じで。

竹内 「芸人を辞めたくないから早く売れたい」という気持ちでみんなやってますからね。

吉野 板橋ハウスは、芸人を辞めずにすむ手段だと思います。

インタビュー後編

「板橋ハウス」はそれぞれが売れていく交差点──「叶うならば、全員で賞レースの決勝へ」

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