ヒップホップ・クイーンAwich、過激なリリックの意味と伝えたい思い「あなたの居場所がある」

2022.3.15

文=渡辺志保 撮影=神藤 剛 編集=小林 翔
ヘア=HORI メイク=NOBUKO スタイリング=服部昌孝 ドレス=Vintage C LINE BAY Apt.


自分の思ったことをはっきり口に出す。それは大前提。Awichは加えて、自分が日本のヒップホップのクイーンになる、と宣言する。

仲間たちやファンたちのことも自ら引き受けようとする覚悟とエネルギーはどのように生み出されるのか。メジャーとしては最初のアルバムとなる『Queendom』へと続くこの1年の歩みを振り返りながら、その理由に迫る。

※この記事は『クイック・ジャパン』vol.159に掲載のインタビューを一部転載したものです。


責任と覚悟を持ってAwichが目指す場所

『クイック・ジャパン』vol.159掲載、Awich特集より

Awich
1986年、沖縄県那覇市生まれ。ヒップホップクルー、YENTOWN所属。2006年にEP『Inner Research』でデビュー。同時期に米国アトランタに渡る。ストリートライフに身を置きながらファーストフルアルバム『Asia Wish Child』を制作し、2007年にリリース。翌年、アメリカ人の男性と結婚し、長女を出産。3年後、インディアナポリス大学で学士号を取得。家族で日本に戻り暮らすことを決めていた矢先、夫と死別する。その後、娘と共に沖縄に帰郷し、本格的な音楽活動を再開。2017年、Chaki Zuluのプロデュースによるフルアルバム『8』をリリース。その反響は海を越え、Red Bullと88risingの共同製作による長編ドキュメンタリー『Asia Rising: The Next Generation of Hip Hop』において、Joji、Rich Brianらと並び、大きく取り上げられた。2020年7月にユニバーサルミュージックよりメジャーデビューを果たし、更なる飛躍が期待されている。

──2021年は、全国をまわった『Queendom Tour 2021』のほか、楽曲リリースや客演参加など、常に動き続けていたという印象です。振り返ってみて、どんな1年でしたか?

Awich 自分の中でめっちゃ変化があったっていうか、覚悟が芽生えた1年でした。

──そのきっかけは?

Awich アルバム『Queendom』を作るっていうこと自体がその結果だと思うんです。アルバム自体は、2021年の春ぐらいにはでき上がっていたんですよ。でも、そのとき、YZERRが。

──アドバイスをくれた?

Awich 「もっと行けるっしょ」みたいな。まさに「GILA GILA」で歌った歌詞そのままだったんですけど。

──「姉さんならもっとイケる」というリリックですね。

Awich 「Awichさん、どんなとこ目指してるんですか?」って言われて。「今の日本でヒップホップのカルチャーが広がるとしたら、Awichの存在が絶対必要だし、それをAwichがしないで誰がやるんですか?」と。YZERRのその言葉で「私、ずっとそう思ってやってきたわ」っていう気持ちを思い出したんです。

ただ、いざスポットライトを当てられると、誰もが恐怖を覚えると思うし、不安になることもあるし、無意識のうちに逃げていたことがあると思うんですよね。先に王座に座るということは、そこにいろんな責任も伴うし、背負っていかないといけないこともある。だからこそ、そこから逃げずに覚悟を持って「私がクイーンになる」って言わないと、という気持ちになったんです。

──自分からクイーンを名乗っていく、と。

Awich はい。そこを決められた1年でしたね。

Awich - GILA GILA feat. JP THE WAVY, YZERR (Prod. Chaki Zulu)

より良い社会を作るんだという思いがないとクイーンにはなれない

『クイック・ジャパン』vol.159掲載、Awich特集より

──すでに完成していたアルバムの内容と、今回最終的に仕上がった『Queendom』の内容は、どこが最も異なる点ですか?

Awich 音楽的には、もっと今のほうがラップしてます。

──『Queendom』はメジャーレーベルに移籍してから発表する最初のアルバムでもありますよね。ということは、もっとポップス的というか大衆的な視点を優先したアルバムになるのかな?と勝手に思っていたんです。

Awich それは、実際にYZERRに言われたことですね。元々仕上がっていたアルバムは、まさにそうした方向性になっていて、それでYZERRに「ヒップホップ、もうやんないんすか?」って言われたんです。そのあと、チームのみんなでそれを話し合って。やっぱり一番やりたいのはラップだな、って。

だからこそ、ラップを武器にいろんな人に聴いてもらう必要があるなと思って。それが、私がヒップホップの畑の領土を広げていくほうがやりがいがあるし……という話し合いの方向になったんです。一度完成したアルバムをまた最初から作り直すのは、めっちゃキツかったですけどね。

──一体どんなマインドで、再度アルバム制作に挑んでいったのでしょうか。

Awich まず、武道館で単独公演をやるってこと自体がめちゃくちゃデカいことなんですよ。それを達成するために、やらないといけないことは死ぬほどあって。そのいろんな仕掛けをやるためには、本当に働かないといけないんですよね。あと、人々がどういうことを必要としてるのかを見極める。それを今の私が持ってるスキルとか、キャパの中でどうやって与えることができるのかってことを考えながら進めていきました。

──独りよがりではなく、人のことを考える。

Awich それが、君主たるものであると思うんですよね。「今、(自分が)やりたいことをやればいい」というのが前提ではあるんですけど、そこで人々にどういう豊かさや価値を与えられるのか、という思いやりが、君主のあるべき姿だと思うんです。“クイーン”っていうからには、そこを考えないといけないなって。

『クイック・ジャパン』vol.159掲載、Awich特集より

──ツアーの冠にもなっていた『Queendom』というフレーズはどうやってインスパイアされたものですか?

Awich アルバムを作り直す時点で“クイーンとして頂点を取っていく”という内容にすると決めていて、いろんな言葉を考えたんです。それで、「やっぱりクイーンでしょ」と。コンセプトというか、今、私が表現したいものが“クイーンというあり方”や“クイーンの存在”みたいなもの。そこから、私の王国を作って、かつそこの中にいる人のことも考える、というコンセプトなんです。キングダム、じゃなくてクイーンダム。私のクイーンダムの中に、人々の居場所があるはずなんです。

──自分ひとりのQueendomではなく、そこにいる人々も内包した居場所、という意味?

Awich はい。別に、なにができるとか、美人とかかわいいとかがクイーンの条件じゃないんですよ。いろんな生き方やいろんな存在の仕方を理解して、より良い社会を作るんだ、という思いがないとクイーンにはなれない。私は、いろんな生き方があっていいし、そこに有限性はないと思っていて。そうしたときに、なんだかひとつの国みたいなものが浮かんできて、「Queendomだ」と思ったんですよね。“dom”って、状態を表す言葉なんです。“boredom”とか“freedom”とか。だから、私がクイーンになった理想というものがQueendomなんです。

──去年はAIやキリンジ、RADWIMPSらべテランのアーティストたちとのコラボも経て、より一層ファンベースが拡大したのでは、と思うんです。そういう新しく入ってくるリスナーの方を、どのように迎えたいみたいなことって考えますか?

Awich もちろん。そうした人々に向けても「Queendomの中には、あなたの居場所があるよ」っていう気持ちですね。


過激なリリックに内包された意味と伝えたい思い

──アルバムを制作する中で、「ここまで言っちゃっていいのかな」というせめぎ合いはありませんでしたか「この表現で伝わるのかな」とか。

Awich もちろんありますし、それは昔からずっと考えてることでもあります。「言いたいことを言う」っていう前提がありながら、「どう言ったら伝わるかな」って聴いてもらう人のことも考えてる。今回は、協力してくれる人が増えたぶん、そこに対してもいろんな意見があったから、それを取り入れつつ作っていきました。「もっと際どくっていいんじゃないか」とか。

──実際にアルバムを聴くと、予想以上に生々しい表現もあって。

Awich そう。生々しくて、人がびっくりすることで興味をひいてもいいんじゃないかっていう結果になったと思います。

──その筆頭が、リード・シングルとして発表された「口に出して」かな、と。

Awich - 口に出して (Prod. ZOT on the WAVE)

Awich ヤバいですよね。あれは超大好きな曲。でも、ただ過激なことを言うだけじゃなくて、その奥に隠された意味や、こういうことを伝えたい、という気持ちをチームと共有できたからこそ、完成した曲です。

──実際にライブで歌っているのも聴いて、とにかくオーディエンスの女の子たちが盛り上がっているのが印象的でした。「新しい時代、来たな!」って思わせられた。

Awich この曲も、実現したのはYZERRたちBAD HOPのメンバーの助けもあったんです。元々、「口に出して」ってコンセプトの超爽やかな曲があって、めっちゃポップだったんですよ。今とは全然違う曲だったんですけど、YZERRが「ラチェットな「口に出して」を作ったほうがいい」と言ってくれて。

──ラチェット・バージョン!(笑) さすが。

Awich 「たしかに」と思って、YZERRやBenjazzy、Vingo、Barkたちが集まってくれて、彼らと一緒に一つひとつ確かめながら作りました。「こういうこと言う女どう思う?」「え、めっちゃいいじゃん」「まじ?」「いや、絶対言ったほうがいいっすよ」みたいな。

──めちゃくちゃ心強いですね。

Awich 「腹ばっか立てずに立てろよChimpo」と言う歌詞ができ上がったとき、不安になっちゃって次の日に「やっぱり、これ言い過ぎじゃない?」と相談したんですよ。でも、「いや絶対大丈夫です」と言われて。ひとりで作っていたら「ドン引きされるだろうな」って、この歌詞を消していたかもしれないです。

──実際に「口に出して」をリリースして、反響はいかがでしたか?

Awich このMV、YouTube上で規制が掛かっていて、おすすめ動画に表示されないようになっているんですよね。それでも、もう100万回以上再生されている。女性も、自分が欲しいものや性に対する欲求をもっと主張してもいい、ということが主流になってくるのが次の時代だと思うんです。この曲は、その先駆けにもなったと思う。言葉だけじゃなくて、全体的なコンテキストを聴いてほしいですね。

──MVでも、ワークアウトする女の子たちがたくさん出てきて、“戦う姿勢”みたいなものが感じられて最高でした。こうして、Awichさんが挑戦しながら攻めていっている姿勢に勇気をもらっているリスナーはたくさんいるんじゃないかと思います。

Awich ありがとうございます。私自身もそうなんじゃないかなって思えているし、自分が挑戦すること自体が楽しいんです。一番に目指しているのは“みんなのことを理解する”ということ。だから、まずは自分のことをさらけ出して、その姿がみんなにとって“自分のままでいいんだ”とか、“こういう今のつらい時期が、いつか神話になるかもしれない”みたいなインスピレーションになればいいなと思っていて。だからこそ、『Queendom』では自分のことを話してみようと思って制作した作品でもあります。

『クイック・ジャパン』vol.159掲載、Awich特集より

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  • 『クイック・ジャパン』vol.159(表紙はAwitch)

    『クイック・ジャパン』vol.159

    発売日:3月3日(木)より順次
    定価:1,430円(税込)
    サイズ:A5/176ページ

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渡辺志保

(わたなべ・しほ)広島市出身。音楽ライター。主にヒップホップ関連の文筆や歌詞対訳などに携わる。これまでにケンドリック・ラマー、A$AP・ロッキー、ニッキー・ミナージュ、ジェイデン・スミスらへのインタビュー経験も。共著に『ライムスター宇多丸の「ラップ史」入門』(NHK出版)などがある。block.fm..

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