岡崎体育×鬼龍院翔、コンプレックスがあっても成功するための「小5の女子がベタに笑えるもの」

2020.1.15

文=鈴木淳史 撮影=南阿沙美


「お笑いと音楽の融合を考える」という点で共通点を持つ、ゴールデンボンバーの鬼龍院翔と岡崎体育。

いわゆる“王道”とは異なるアプローチで突き進むふたりにとって、「音楽活動」の意味は少し異なる。ネタと音楽の配分、“ベタ”の恐怖、そして王道への憧れ――。

岡崎が「性格が似ている」と話す、鬼龍院翔。ふたりの対談前編では、“ベタ”と言われることを実践することの重要性について話し合った。

この記事は『クイック・ジャパン』vol.132(2017年6月発売)に掲載されたインタビューを転載したものです。


学生時代とかに満たされた人にはできないことをやっている

――鬼龍院さんはブログで岡崎さんを「恐ろしい人」と書いてましたね。

鬼龍院翔(以下、鬼龍院) やっぱり「MUSIC VIDEO」のMVからですよね。セカオワのFukaseさんときゃりーさんがつぶやいていて、それで僕も観て「面白いな!」って。こういう曲だから「ただのネタ寄りの人なのかな? YouTuberなのかな?」って思ったんですけど違ったんです。

体育さんはサビの声がすごい出てるんですよ。ネタだけの人はサビの盛り上がりでだいたい声が出ないんですけど、体育さんはいい声が出てる(笑)。

ネットという流れては消えていくコンテンツの中で「もしかしたらこの人はシンガーとして“聴かせるレベル”のポップスを作り続けられる人なんじゃないか」と。まぐれで一発面白いネタが浮かんでも、やっぱり音楽的にダメだと意味がないですから。

岡崎体育(以下、体育) ありがとうございます。

――岡崎さんは、鬼龍院さんのことを「性格や思考が似ている」と言ってましたが。

体育 最初、ガチャピンの姿でスポーツとかに挑戦する動画で、ゴールデンボンバーの存在を知ったんです。面白いなと思ってたら、あっという間にお茶の間の人気者になってて。

当時のインタビューを見てましたが、ちゃんと隅のほうまで気にされる視点がある、クリエイター気質の人ですよね。そして多分、性格は明るくないだろうなと(笑)。僕も普段声は小さいですし、目もほとんど合わないほうなのでシンパシーを感じるんです。ステージでは自分を演じるところとか。

自分でアイデアを出して、それを実際に話題にさせて世の中に広めていくセルフマネージメントの力もリスペクトしていて、自分もそうなれたらと昔から思っていました。

――「性格が明るくないクリエイター感」に同じ匂いを感じたと。

鬼龍院 いや、僕や体育さんのやっていることは、決して学生時代とかに満たされた人にはできないことだと感じるんです。やっぱり普通の人がこうだと決めつけていることの裏をかく人って、ストレートは勝てないとわかってますから。もともと何かコンプレックスがあるんですよ。

だからそういう人たちが自分なりのやり方を思いついて人気を集めるのは素晴らしいことですよね。柔よく剛を制すみたいな。コンプレックスを持った人にも成功の仕方があるんだと、僕も体育さんも示せているのはとてもいいことだなって。これは夢を与えている。学生時代だけがすべてじゃないんです(しみじみと)。

体育 いやほんとその通りですね。僕は大学時代からすごく人間不信というか、みんなが同じに見えて。みんな同じ髪型で同じしゃべり方で同じ服着てるし。「この人たちの中には混じれない!」と思いました。
高校の時にテニス部に入ってて、1コ上の先輩が同じ大学にいたんです。真面目にテニスに打ち込んでた人で、テニスサークルに誘ってくれたので見に行ったらすごくチャラチャラしてて、女の子とベラベラ喋ってるだけだったんです。
先輩変わっちゃったと思って……。学生時代の自分のヒエラルキーとかカーストのランクが音楽に影響してますね。

鬼龍院 でもね、心の底では、僕は羨ましいんですよ。ものすごく。自分は到底そんなに明るくなれないし、フランクになれないし、オシャレにもなれなくて。
いつかテニスサークルの先輩の周りにいる女の子が僕にキャーキャー言ってくれるように頑張る、っていう気持ちをいつも持ってます。

体育 羨ましいかぁ……。たぶん、突き詰めたらそこまで行くかもですけど、現状はまだその気持ちはほとんどなくて。どちらかというと僕は僕で見下されるカーストにいながらにして上の奴らを見下しているという構図で、もしかしたらまだ認めたくないというか、そこはまだ青いんでしょうね。笑いはベタであるべき!

ベタ、絶対大事

――おふたりと言えばライブでの「ボケ」が特徴的ですよね。

鬼龍院 僕、去年の夏、氣志團万博で観た時、まだ体育さんを知らない人も多い中、しっかり笑えるポイントをわかりやすくお客さんに伝えられているのがすごいと思いました。

普通は、面白くしようとして笑いの演出を盛り込みすぎて、わかりづらくなるのが関の山でございまして。体育さんのアオリで、手を上げるのを2回繰り返した後に、3回目は爪を見て手を上げないとかちゃんとボケが成立しているんですよ。

音楽の中でできるボケはずっと僕も考えてますけど、こんなシンプルでわかりやすいのが残ってたか、うわっ悔しいって思いましたね(笑)。

体育 すごく恥ずかしい! ライブに関してはできるだけわかりやすいテーマと演出でパフォーマンスをする意識は持っています。

でもインディーズの時はもっと高尚なことをやってたんです(笑)。30歳以上の人にはウケるんですけど、若い子らはぜんっぜん笑ってなくて。よくしてもらってたライブハウスの人に「もっとわかりやすい路線でいったほうがいい。

それ恥ずかしいのもわかるけど、もうちょっとピエロになったほうがいい」と言ってもらって、そこから意識を変えましたね。YouTuberの動画とかで笑っている今の若い子の感覚に合わせたというか、もうちょっとヘラヘラしていても良いかなと感じました。

鬼龍院 これは僕だけでなくお笑い芸人界全員が同意する話ですね。12年前、高校卒業してすぐに東京のNSCへ通ったんですけど、まず全員ベタができないんですよね。「オレがお笑い界を変えてやる!」という気持ちがあって、すぐ難しいことをやろうとするんです。

小5の女子がベタに笑えるものを作らなきゃいけないことに何年もかかって気付く。そこがわかると早いんでしょうね、この業界。

体育 そうだと思います。

鬼龍院 僕は1年で辞めちゃったんですけど、当時、同期とは会うたびに「ベタ大事だよ。ベタに気付いた。ベタ絶対大事!」とものすごく言ってきてもやっぱり意味がわかってなくて。

その同期に僕のライブを見せたら、「あのボケはもっとベタにして、もっとわかりやすくしたほうがいい」と言ってくるんです。でもその通りにしてみたら本当にウケたんです。それでようやく僕もベタの大事さに気が付きました。

僕や体育さんのボケも、お笑いの劇場でやったら普通のボケなんですけど、音楽や歌というスタイルでやるとオリジナルになるんです。

【岡崎体育×鬼龍院翔<オワコン>にならない生き残り方「もう他はいいよって思えた」】へ続く


岡崎体育(おかざき・たいいく)
京都府宇治市出身の男性ソロプロジェクト。2016年5月発売のアルバム『BASIN TECHNO』でメジャーデビュー。同アルバム収録の「MUSIC VIDEO」は、『第20回文化庁メディア芸術祭』エンターテインメント部門新人賞を受賞。現在までにリリースしたオリジナルアルバム3枚はすべてオリコンTOP10を記録。CMやドラマ出演などマルチな活動を行いながら2019年6月9日(日)に、さいたまスーパーアリーナでのワンマン公演を開催。SSA史上初となる、1人vs18000人のコンサートを大成功裡に収めた。

鬼龍院翔(きりゅういん・しょう)
ゴールデンボンバーのボーカルとして、楽曲の作詞・作曲・編曲を手がける。「第56回日本レコード大賞」作曲賞受賞(14年)。2019年12月にアルバム『もう紅白に出してくれない』をリリース。


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鈴木淳史

(すずき・あつし)1978年生まれ。兵庫県芦屋市在住。 雑誌ライター・インタビュアー。 ABCラジオ『よなよな・・・なにわ筋カルチャーBOYZ』(毎週木曜夜10時~深夜1時生放送)パーソナリティー兼構成担当。雑誌『Quick Japan』初掲載は、2004年3月発売号の笑い飯インタビュー記事。

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