DJ和×冨田明宏が語る「アニソンはいかにして“壁”を破ったか?」誰も知らなかった時代の“カオスな熱狂”を紐解く

2021.9.29
DJ和

文=森 樹 編集=渡部 遊


DJ和が2000年代(特に2005~2010年)の重要アニメ作品をピックアップし、その主題歌や挿入歌を全40曲繋いだノンストップMIX CD『時間旅行[DJ和の“あの頃“アニソンMIX]』。深夜アニメと美少女ゲームを題材に、インターネットと地下の現場が濃密に絡み合いながら大きなムーブメントを作っていた“あの頃”の熱とは?

「アニクラ(=アニメクラブイベント)」黎明期から現場でアニソンを流し続けてきたDJ和と、当時からライターとしてシーンの活性化に奔走し、本作でも作品監修を務めるアニメ音楽評論家・冨田明宏が当時を振り返る。

放送されているアニメのジャンルが本当にバラバラな時代だった(DJ和)
ゼロ年代後半は、地下で様々な種類のオタクが繋がっていった(冨田)

DJ和 2008年以降、一貫してJ-POP/アニソンにこだわり続け、今までにリリースしたCDの累計が195万枚を突破。国内外の大型アニソンフェスにも出演。代表作は、「J-アニソン神曲祭り」「ラブとポップ」があり、数多くのアーティストのMIX CD制作も手掛けている。冨田も参加した「平成アニソン大賞」では発起人&選考員を務め、後にノミネート作をミックスし発表した

──そもそも、おふたりの最初の出会いはいつごろですか?

 2012年に、『J-アニソン神曲祭り[DJ和 in No.1 胸熱 MIX]』がリリースされて、その前後じゃないですか?

冨田 リリースのタイミングで、NHKの名物プロデューサーだった石原真さんを招いて、『ニコニコ アニメ・アニメソング研究会』(2012年2月10日配信)を放送したんです。

 そのとき、冨田さんに司会兼解説に入ってもらったんですよね。NHKの石原さんにはよくしてもらっていて、当時NHKで放送をしていた『MUSIC JAPAN』という音楽番組の、公開収録時にオープニングDJとして呼んでもらっていました。

冨田 確かNHKの現役会社員がニコ生に出るのも初で。このとき、私が年表を作って、2000年代のアニソンの変遷を語っているんです。そこでも話したかもしれませんが、2012年に和さんがリリースした『J-アニソン神曲祭り』が画期的だったのは、いわゆる“懐メロ”がなかったこと。旧態依然としたロボットアニメの主題歌を一切収録していなくて、和さんたちが盛り上げていた「アニクラ」の文化、DJとしてオーディエンスと触れ合ってきた温度感で選曲されているのが新しかった。

──ゼロ年代はまだ、J-POPや歌謡曲をクラブでかけるのも憚られる時代だったように思います。

 まだそのムードはありましたね。僕がJ-POPとかアニソンをクラブでかけはじめたのが2005年前後なのですが、そのころはそういうイベントも全然なかった。逆にいうと、その時代からどんどんかけられる場所も増えていって「やった!」みたいな。すごく変化がある時代でした。

冨田 2000年代でも、ちょうど2005~2006年がアニソンがガラッと変わった転換期なんですよ。その前から、空気を読まずにアニソンをかけまくっていたのは和さんとかで。

──2008年放送のテレビアニメ『マクロスF』が、アニクラの盛り上がりにも寄与したように思います。

冨田 ありますね。アニソン好きの観点から言うと、『マクロスF』は、あの菅野よう子がこんなにポップでキャッチーな楽曲を作るんだ、という驚きがありました。しかも『機動戦士ガンダムSEED』と同じく、往年のファン層以外に、新たな女性層を取り込むことに成功したんです。菅野よう子のポップスと、女性層を取り込んだ新しい時代の作品──そのふたつの意味を『マクロスF』は持っていたと思います。

──そうした流れと並行して、美少女ゲーム・アダルトゲーム出身のクリエイターが多数登場したのも特徴ですよね。

 今回のCDを作るときにこの時代のことを思い出すと、放送されているアニメのジャンルが本当にバラバラなんですよね。

冨田 ゾーニングされていなかった時代ですよね。エロゲが好きな人も、同人誌が好きな人も、ラノベが好きな人もアニメを観ていた。

──アニソンやキャラソン自体の人気が堅調で、J-POPとは違う価値が出てきたのもこの時代だったような気がします。

冨田 僕はタワーレコードで働いていたので実状を見てきていますけど、当時はアニソンの棚なんてなかったですからね。全部サントラのコーナーに入っていて。

 そうでしたよね。

冨田 キャラソンも何もかもそこに全部一緒くたになっていて、つまりは音楽扱いされていなかったんですよ。音楽雑誌でも扱ってもらえませんでしたし、唯一『オトナアニメ』だけが興味を持ってくれて『アニソンマガジン』を制作したり。あのときにアニソンを評価しようという動きが、私たちみたいなライター界隈でも、和さんのDJ界隈でも同時多発的にあったんですよ。

 DJでも、ジャブのようにアニソンをかけていって、その割合を徐々に増やしていって……というのが2000年代後半ですね。

冨田 それこそ、秋葉原にクラブ「MOGRA」(2009年営業開始)ができるわけですけど、その前身的なイベント『電刃/DENPA!!!』(2007年スタート)は、今のアニクラとも随分雰囲気が違いましたよね。

 そうですね。『電刃/DENPA!!!』もそうですけど、アニソンだけではなくて、歌謡曲やアイドルポップス、HIP-HOP、テクノ~エレクトロも含めて、日本語の曲を楽しむDJ文化を盛り上げていこうとしていました。同時に、パソコンでのDJが普及しはじめるのも、2000年代後半ですね。ハード的にも、洋楽からアニソン、アニソンからその元ネタの曲を繋いだりすることが可能になった。だから、日本の曲を繋ぐときにアニソンを一曲差し込むみたいなことがDJの間で流行ったこともありました。

『時間旅行[DJ和の“あの頃“アニソンMIX]』

冨田 まぁ、DJは基本オタクですからね。アニソンももちろん押さえていたわけですよ。

 それこそ『マクロスF』の挿入歌「星間飛行」(ランカ・リー=中島愛)は、普通にオシャレだから、いろんなジャンルのDJがかけていましたね。音も上質で、アニソンっぽくない。『涼宮ハルヒの憂鬱』や『けいおん!』の音楽とも違う感覚がありました。

冨田 『アニサマ(Animelo Summer Live)』が2005年から開催されているのですが、そこでも演奏されない「俺たちのアンセム」が地下シーンにあったのもポイントですね。ちょうどアイドルもライブハウスじゃなくてクラブに出ていたりとか。Perfumeも出演していたJ-POPイベント『申し訳ないと』でも、アニソンがかかっていたり、地下でいろんな種類のオタクが繋がる現象が起きていた(笑)。

 確かに、上じゃなくて下で繋がっていましたね(笑)。

──三宿Webや小箱でイベントが盛り上がっていたイメージがあります。

 そうですね。小箱のDay(昼帯)イベで。

冨田 僕はMOGRAの立ち上げのときに運営会社の役員をやっていたんですけど、最初のコンセプトが、アニソンの箱を作ることでした。D-YAMAやDJシーザーさんたちと話しながら。「オタクこそクールだ」という考えで、それを具現化したのがでんぱ組.incでもあった。秋葉原の誇り高きマイノリティたちが集まって楽しんでいる音楽を、最先端でクールなコンテンツとして世界に広めていこうとしていた。そういう変化がじわじわ地下シーンから起きはじめていて、すごく不思議な時期だったと思いますね、2000年代後半というのは。

世間に受け入れられながらも、シーン全体のトーンとしては陰がある(冨田)
この時代のクリエイターが攻めてくれたおかげで、今のアニソンはある(DJ和)

──2010年になると、『ラブライブ!』が登場します。

冨田 そこからの景色はまたガラッと変わりましたからね。

 今回のCDも、その手前まででまとめているんですよ。2010年以降になると、今の時代に直結していく。『ラブライブ!』以降と言っても良いと思います。

 『時間旅行』の話にようやく入りますけど(笑)、いとうかなこさんやKOTOKOさん、栗林みな実さんとか、美少女ゲーム界隈で活躍していたシンガーやクリエイターの人たちが、オーバーグラウンドに登場した時代でした。ランティスさんキングレコードさんのサポートもありつつ、アニソンやアニメにとって、彼女たちの存在が欠かせないというのが、今の時代にはない“カオス”を生み出していたと思います。

──たとえばこのアルバムだと、17曲目~21曲目ですよね(※記事下部のアルバム概要を参照)。

 そうですね、一箇所にまとめてみました。

 ここ、ザワザワしますもんね(笑)。

 このコーナーだけで本当はCD5枚分はいけます(笑)。ただ、今回のCDでは、シーンにおける作品の重要性から楽曲をピックアップしたところもあるので、「これがないとはじまらない」という作品の楽曲を収録させてもらいました。でも、こういうコーナーを入れたのも今回がはじめてなんですよ。

 ほかにも、『苺ましまろ』のOPテーマ「いちごコンプリート」は、リアルタイムで聴いていた私たちからすると、本当にいい曲なんですよ。

 いい曲ですよね!

 だけど、今はそれを語る場所がない。『ゼロの使い魔』のOPテーマであるICHIKOさんの「First Kiss」なんて、2000年代の超重要曲なんですけど、たぶん今語らないと残っていかない可能性がある。I’ve(札幌を拠点とする音楽制作チーム)も、人気絶頂の頃(2005年)には武道館公演をやったわけですから。当時は、美少女ゲームのシーンが新進気鋭の若手クリエイターの活躍する場所だった。

冨田明宏
冨田明宏(とみた・あきひろ) アニソンプロデューサー、アニソン評論家。『クイック・ジャパン』にて「冨田明宏の読むアニメソング」を連載中。10月31日に朝日カルチャーセンターにてアニメ音楽論のオンライン講義『菅野よう子と梶浦由記の比較論』を開催

──実験場として機能していましたよね。

 I’veは、自分たちのインディーレーベルにFUCTORY Recordsと名付けていて、これは言うまでもなく、イギリスのFACTORYレコードへのリスペクトなわけです。もともと、代表の高瀬(一矢)さんは札幌でパンク/ハードコアをやっていて、そのあとのアシッドハウスやトランスにも影響を受けた。そういうものを通過した音楽を表現できる場所のひとつに、美少女ゲームシーンがあったんです。徐々に楽曲の良さに気づいていく人も増えた結果、I’veという存在も注目を浴びていくようになる。

 みんながTwitterをやりはじめる前なので、なんとなくシーン全体に周囲から閉ざされた「壁」があって、それが良い環境を生んでいたように思います。自分の好きなものを好きなだけ楽しんでいることができた。

 その流れで『Fate』シリーズも出てきたわけですけど、もともとアダルトゲームだと言ったら怒る人もいるくらいですから。

 それは話が違うぞと(笑)。それくらい年月が経って、一般のところまで派生していったんだと思いますけどね。

──西川貴教さんをはじめ、J-POPシーンでしっかりと評価されながらも、なおかつアニメに向き合ってくれるアーティストの存在も大きかったと思います。

 西川さんやしょこたん(中川翔子)、m.o.v.eのmotsuさんとか。J-POPとアニソンの架け橋になりましたね。

 しょこたんは「空色デイズ」(2007年)で紅白に出場していますから。

 「アニメ好き」や「アニソンを歌っている」ことがマイナスにならずに、親しみやすい存在になりましたよね。

 しょこたんの存在が大きいと思います。彼女がすごくアニメ好きであることをおおっぴらに語ってくれて、「空色デイズ」というヒット曲を持っているのが大きかった。

──今回のアルバムでも、まさにアニソンが世間的にも楽曲的にも評価されていく歴史が味わえますよね。

 世間が受け入れていく流れもあるのですが、どうしても拭えないのが、この時代はシーン全体のトーンとして陰があること。

 ああ、そうかもしれないですね。

 オタクやアニメ好きのみなさんを取り巻く環境として、まだ完全にオーバーグラウンドの壁を突き破れていないというか。『けいおん!』(2009年)や『ラブライブ!』(2010年)が登場して、やっと女子高生たちもカジュアルに楽しめるような明るさが得られたように思います。とはいえ、当事者である私たちは、そんな陰があるシーンを楽しんでいたわけですけど(笑)。

 楽しんでいましたね(笑)。でも、言われてみれば、確かに暗かったかもしれないですね。

 地下の匂いが漂っていて、それが逆に良かった。「俺たちしか知らない」みたいな気持ちもあったので。アニソンを好きな人たちの分母は増えているのは感じていましたけど、村が大きくなるだけで、そこからは出られない、みたいな(笑)。

 ようやくアニソンのCDも売れはじめて、ランキングでも上位に入ってくるんですよね。

 まさに2000年以降の10年が顕著ですね。それまでは、『テニプリ(テニスの王子様)』のキャラソンが『CDTV』(TBS)に大量にランクインして、MVもないから、静止画がスクリーンセーバーのように動くのが逆にインパクトがあって(笑)。『らき☆すた』の「もってけ!セーラーふく」(2007年)もそうですけど。

 「もってけ!セーラーふく」がランクに入ったのは事件でしたね(編注:オリコンでは最高2位にランク)。

 いろんなジャンルの、いろんな組み合わせが予期せぬところで起きていたから、この時期は毎クールごとにワクワクしていましたね。

 2021年とは全然違いますね。僕たちも若かったというのはありますが。

 作家でいっても、今では大御所である神前暁さんや上松範康(Elements Garden)さん、ヒャダインさんもみんな20代で、最高にクレイジーな音楽を生み出して(笑)。「もってけ!セーラーふく」や、その少し前だと水樹奈々さんの「ETERNAL BLAZE」(2005年)が出てきて、それがその後の10年のスタンダードになっていく。

 この時代にみなさんが遊んで攻めてくれたおかげで、今のアニソンはあると思います。極限まで裾野を広げて、「ここまでやっていいんだ」という楽曲がたくさん生まれた。

 それを格好いいと思える土壌が、当時のアニクラにはあったと思いますね。そのクラブの中では100%通じる楽曲とノリがあって、だけど外に出れば誰も知らないという不思議な状況が生み出す熱狂。その“カオス”が楽しかったのは間違いないですし、このCDを聴くと、あの頃の気持ちを懐かしく思い出しますね。

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  • 『時間旅行[DJ和の

    『時間旅行[DJ和の“あの頃“アニソンMIX]』

    発売中
    定価:2,640円(税込)

    <曲目>
    1:泉こなた(CV.平野 綾)、柊かがみ(CV.加藤英美里)、柊つかさ(CV.福原香織)、高良みゆき(CV.遠藤 綾)「もってけ!セーラーふく」
    2:KOTOKO「ハヤテのごとく!」
    3:ICHIKO「First kiss」
    4:石田燿子「STRIKE WITCHES~わたしにできること~」
    5:碧陽学園生徒会「Treasure」
    6:千佳(千葉紗子)・美羽(折笠富美子)・茉莉(川澄綾子)・アナ(能登麻美子)「いちごコンプリート」
    7:765PRO ALLSTARS<天海春香(CV:中村繪里子)、高槻やよい(CV:仁後真耶子)、星井美希(CV:長谷川明子)、萩原雪歩(CV:浅倉杏美)、菊地 真(CV:平田宏美)、如月千早(CV:今井麻美)、双海亜美/真美(CV:下田麻美)、三浦あずさ(CV:たかはし智秋)、水瀬伊織(CV:釘宮理恵)、秋月律子(CV:若林直美)、我那覇 響(CV:沼倉愛美)、四条貴音(CV:原 由実)>「The world is all one !!(M@STER VERSION)」
    8:ヒャダイン「ヒャダインのじょーじょーゆーじょー」
    9:Oranges & Lemons「空耳ケーキ」
    10:ハムちゃんず「ハム太郎とっとこうた」
    11:下川みくに「それが、愛でしょう」
    12:Keno「おはよう。」
    13:GARNET CROW「夏の幻」
    14:HOME MADE 家族「少年ハート」
    15:dream「Get Over」
    16:千石撫子(花澤香菜)「恋愛サーキュレーション」
    17:yozuca*「サクラサクミライコイユメ」
    18:eufonius「リフレクティア」
    19:彩菜「風の辿り着く場所」
    20:Lia「時を刻む唄」
    21:栗林みな実「Precious Memories」
    22:Girls Dead Monster「Alchemy」
    23:いとうかなこ「Hacking to the Gate」
    24:タイナカサチ「disillusion」
    25:川田まみ「緋色の空」
    26:ALI PROJECT「聖少女領域」
    27:MELL「Red fraction」
    28:FLOW「COLORS」
    29:THEATRE BROOK「裏切りの夕焼け」
    30:m.o.v.e「Gamble Rumble」
    31:T.M.Revolution「INVOKE -インヴォーク-」
    32:ポルノグラフィティ「メリッサ」
    33:陰陽座「甲賀忍法帖」
    34:DOES「曇天」
    35:中川翔子「空色デイズ」
    36:ClariS「コネクト」
    37:涼宮ハルヒ(C.V.平野 綾)「Lost my music」
    38:supercell「君の知らない物語」
    39:奥 華子「変わらないもの」
    40:本間芽衣子(茅野愛衣)、安城鳴子(戸松 遥)、鶴見知利子(早見沙織)「secret base ~君がくれたもの~(10 years after Ver.)」

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