結成直後にコロナ禍に突入したバンド、インナージャーニーが苦悩の中で得たもの

2021.8.30

文=西澤裕郎 撮影=大橋祐希


東京出身の4人組ロックバンド、インナージャーニーが2nd EP『風の匂い』をリリースした。シンガーソングライターとして活動していたカモシタサラ(Gt.Vo.)が、高校の軽音楽部出身の先輩・後輩・同級生に声をかけ活動を開始。2019年10月に「カモシタサラバンド」から「インナージャーニー」に改名し、4人組のバンドとして歩み出した。

すべての楽曲の作詞作曲を手がけるカモシタは、父親のギターで、イルカの「なごり雪」を幼少期に弾いたことがギターを手にするきっかけだったという。小さいころからヴァイオリンを弾いていたという本多秀(Gt.)は、クラシック音楽をベースにサカナクションやサブモーション・オーケストラに影響を受けた。ふたりの1個先輩のとものしん(Ba.)は中学でベースを始め、ゆらゆら帝国やbloodthirsty butchersなどを好んで聴いてきたという。3人の後輩のKaito(Dr.)は、ONE OK ROCKに影響を受けドラムを始め、バークリー音楽大学に短期留学、音楽理論を学んだ期間を経て、スピッツ「シロクマ」に影響を受けるなどの音楽変遷を経ている。

上記では書き切れないほどの音楽的バックグラウンドを持った4人だが、共通で好きだというandymoriの楽曲をバンド名にし、青春の煌めきと切なさを感じさせるバンドサウンドを鳴らす。ネオアコやインディギターロックの影響を感じさせるギター・ポップに、平熱だが芯のあるカモシタの声が組み合わさることで、聴き手が抗うことができないくらいの音楽的心地よさを生み出す。そんな4人はどのような考えを持って活動しているのか。話を聞いた。


ルーツも性格もバラバラな4人のバンドの新たなバランス

——バンド名を「インナージャーニー」に変えてからメンバー同士が打ち解けてきたと、別のインタビューで拝読したんですけど、だいぶ打ち解けてきましたか?

カモシタ 打ち解けている……みんな……今?

本多 打ち解けて……ないね(笑)。

とものしん まあ、徐々にですよね。全員がわりと人見知りで、最初は敬語を使っていたんですよ。『未確認フェスティバル』が終わって、いろいろなライブハウスからお誘いを受けるようになったころから、わりとフランクに話せるようになった気はしますけどね。

本多 今までは「サラに寄せたほうがいいのかな」って感じだったけど、バンドになって寄せる必要ないじゃんと思って、主張をするようになったところはあるよね。

Kaito 2曲目の「Fang」はバンドになったことがわかりやすく表れている曲だと思います。もともと優しいフォーク的なデモが送られてきたんですけど、やっていくうちに「もっと速くしたほうがいいんじゃない?」って意見が出て。インナージャーニーで一番速い曲になったんです。これはサポートだったらやっていなかっただろうなと思うんです。

とものしん サポートだったときは、なるべく自我とエゴを消して彼女が作った曲にどう寄せるかしか考えていなかったんですけど、バンドになってから1曲1曲のアレンジに対して自由度が増したというか。自分のやりたいことと曲の整合性を考えるようになりました。みんなルーツも性格もバラバラだけど、それだからバンドっておもしろい。今回のEPも、いろいろな曲調があると思います。

——1曲目「夕暮れのシンガー」では、「シンガー そのままの君でいてよシンガー 助けを求めることも怒ることさえも忘れてしまったシンガーのために」と歌っています。具体的に誰かに向けて歌っているんでしょうか。

カモシタ 別に対象がいるわけではなく、すべての人に向けて歌えたらいいなと思っている曲です。でも、自分自身にも歌いたいなって気持ちはありました。

本多 それ、デモが送られてきたときめっちゃ思った。自分自身に対しての感じがすごい強い。

カモシタ それ初めて聞いた(笑)。これは気持ちが落ちているときにできた曲で。歌っても聴いてもお守りというか自分の支えになる言葉が必要だと思ってできた曲なんです。

——2曲目「Fang」は、中国のモン族という少数民族が着想になってできたそうですね。

カモシタ 今までは、自分の中にあるものや外の世界の関わりで生まれた曲が多かったんですけど、大学の授業でモン族についての映像を観たときに、すごい素敵な人たちが自分の知らない世界にいるんだと衝撃を受けて。曲にしようとは最初思わなかったんですけど、作っているときにこれモン族じゃんってなって。気づいたらつながっていたみたいな曲です。

——コロナ禍によって、これまでの当たり前が当たり前でない世界を生きています。それがバンドにどんな影響を与えると思いますか。

カモシタ 授業にもバイトにも行ってみたいな目まぐるしい中でライブや音楽制作もやっていたんですけど、コロナになって外との接触が限られたときに、あれ!全然曲できない!と思って。自分の中で嫌だなと思っていた外の人との関わりが、意外に大事な支えだったのかと思って。それが大きな変わりというか、大事だったんだなと気づきました。

とものしん ライブができないぶん、YouTubeでカバーをやったり、配信をやったり、視点を変えようって動きが自分たちの中ではすぐにできたので、ものすごいマイナスというわけではないのかなと捉えていますね。

Kaito もしライブ活動しかしてこない状況で直面していたら、変化に耐えられないところもあったかもしれないですけど、とものしんが言ったみたいにまだバンドとして歴が浅かったので柔軟に自分たちを見つめ直したり、その代わりに何かやろうって次の行動を早くできたのかなと思いますね。

——まさにバンドとして動き始めたばかりでもあるインナージャーニーですが、この先、どんなバンドにしていきたいと思いますか?

本多 音楽だけじゃなくて、映画のエンディングなど映像作品でも使用されるようになるとうれしいですね。

Kaito バラバラだからこそのよさがあるし、曲のよさが大前提にあるので、幅広い層のお客さんに聴いてもらえるように徐々にいろいろな活動ができたらなと思います。

とものしん 俺は自分のじいさんばあさんを笑顔にさせたい。未だにバンドをやっているのをあまり信じてくれていなくて。『VIVA LA ROCK』のオンラインの配信を家族みんなで観てくれたらしいんですけど、「あ、孫が映ってる」ってだけだったらしいんですよ(笑)。

カモシタ 運動会みたいな。

とものしん 運動会で孫が走ってるのと、ビバラでベース弾いてる孫はだいたい一緒みたいで(笑)。

Kaito 認めてもらうには『紅白(歌合戦)』に出るしかないね(笑)。

カモシタ 時代の流行りとか、そういうのに捉われないで自分たちが楽しいことをやりつづけられたらいいよね。いろいろな世代の人に、生活の中でいっぱい聴いてほしいです。

インナージャーニー
インナージャーニー(左から、とものしん(Ba.)、カモシタサラ(Gt.Vo.)、本多(Gt.)、Kaito(Dr.))

インナージャーニー
カモシタサラ、本多秀、とものしん、Kaitoからなる4人組バンド。2019年にカモシタサラのライブ活動のサポートとして参加した3名を同年10月に正規メンバーとして迎える。2021年5月の初ワンマンライブが即完するなど、注目を集めている。


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