大石昌良と母親が対談。“音楽不毛の地”でミュージシャンを目指せた理由は家族にあった

2021.8.23


学校でもらえるどんなトロフィーよりも、親からほめられるのがうれしかった

オーイシマサヨシ コーシキブック』(太田出版)の親子対談

——手がかかったことはありましたか?

 なかったですよ。でもやんちゃな子でね。おでこにたんこぶ作っては、おばあちゃんがアロエを切ってきて塗りこんだりしてて。

大石 そうだった。

 いつも庭石の上で「へーんしん!」とかってやりよってね。

大石 そうそう。昔からヒーローに憧れてたんですよ。小学校1年生とか幼稚園の年長組のときの写真では、ほぼほぼ変身ポーズで写っていましたから。あと幼稚園のころから歌は好きだったと思うな。

 おばあちゃんがねえ、カラオケ教室に行ってたんです。一緒におばあちゃんに連れられてはカラオケを歌いに行ってましたねえ。

大石 うちのばあさんは宇和島一ビブラートがキレイなおばあちゃんだったから(笑)。歌が好きになったのはおばあちゃんの影響かもしれないな。幼稚園とか小学校のころから歌が好きだったけど、僕らの時代はまだ近所にカラオケボックスとかがなかったから、自然に気持ちよくエコーがかかるお風呂場で歌謡曲とかを歌っていて。その歌に毎日、母親と父親が点数をつけてくれていたんですよ。覚えてる?

 覚えてるよ。お父さんが歌に詳しいけんね。私は音痴なんですけど、お父さんが歌が好きで。よくふたりでデュエットしてたもんね、「あずさ2号」とか。

大石 いまだに実家に帰ったらふたりで宇和島の「狩人」になりますから(笑)。「8時ちょうどの~♪」でちゃんとハモるっていう。思い出したけど、僕がお風呂で「昴」とか、チェッカーズとかマッチ(近藤真彦)とか歌って、両親が点数をつけてくれて。「今日のまーくんは〇〇点やな」とか「今日はうまかったから、まーくん100点あげるわあ」みたいなことをずっとしてました。子どものころって親にほめられるのが一番うれしいじゃないですか。学校でもらえるどんなトロフィーよりもうれしかった。だから毎日歌っていたし、毎日両親からトロフィーをもらっていた感じですね。

 私たちも子どもが喜ぶ姿が見たいから。「今日は100点!」とか言ってやったら、「やった!」って喜ぶじゃない。それがかわいいし楽しくて毎日やってたね。

大石 「音楽で飯食いたいわ」って打ち明けたのっていつぐらいだったっけ?

 TUBEのライブを観に行ったときに刺激されたみたいで。お父さんと一緒に観に行ってね。

大石 そうだった……!

——TUBEのライブ?

大石 小学校6年生のときに、宇和島の丸山球場にTUBEがライブツアーで来てくれたんですよ。

 あのあと「すごくよかった」ってね。影響されていました。

大石 そうだった。確かにめちゃくちゃ刺激を受けました。「え、プロのライブって水出るの!?」とか。「それはTUBEさんやから!」って言われて、大人になってからわかったんですけど(笑)。

 あとおばあちゃんがギターをもらってきて。それを持って初めてギターの練習を始めたよね。

大石 それが中学校1年生のときで。僕の友達のお兄ちゃんがベースを弾いてたんですよ。でも当時はベースなんて知らなくて、弦楽器は全部ギターやと思ってて。それでベースを弾いてるのを見てかっこいいと思ったから、うちのばあさんに「ちょっとギター、なんとかもらわれへんかな?」って言ったら、次の日だったか親戚のおばちゃん家からもらってきてくれて。クラシックギターだったんですけど、そのギターを弾き始めたのが僕にとって音楽のスタート地点です。中学校1年生の1学期だったかな?

 そうそう。あの日から、この子の部屋からギターの音と歌声が聞こえてくるようになって。ずっと独学でね。本を買って弾けるようになって。私は全然わからないから聴くだけでしたけど。

大石 僕の部屋からサイモン&ガーファンクルの「冬の散歩道」が聴こえてきたときはどんな気分やったんやろ?

——そうか、あの当時はドラマ『人間・失格』の主題歌だったから。

大石 そうそう! あの暗いメロディが部屋から聴こえてきたら、俺が親なら覗きに行くもん(笑)。「うちの子大丈夫か?」って。でもギターを始めて、すぐに曲も書き始めたんですよ。

 そうだったね。

大石 おかんにさ、中学校のときにオリジナル曲披露したことあったっけ?

 なんか変な歌やなーって。

大石 変な歌だと思ってたんや……今この人、変な歌言うたよ……。

 この子が「作ったんよー!」言うてね。歌ってくれたことがありました。

——でも普通は親にオリジナルソング聴かせるのって、恥ずかしいと思いがちの年齢だと思いますよ。

大石 多感な時期ですもんね。確かに普通は一番避ける観客が親かも。

——きっと小さいころから、子どもの歌の才能を認めてあげたり、ほめてあげてきたからですね。

 でもまさかねえ、こんなふうにアーティストで生活できるようになるとは思わんかったんです。だけどね、この子が歌っている姿を見てたら、本当に楽しそうに歌うんですよね。小さいころから。

大石 中1くらいから「プロになれたらいいなあ」みたいな思いはあったんですけど、本格的にプロになりたいと思ったのは、高校1年生の終わりぐらいだったかなって。進路相談もしてたんですけど、おかんにも確か「高校卒業したら専門学校行きたいわ」って。

 音楽学校とか行きたいなって。

大石 言ってたよね。でも、その当時の僕は成績もそこそこいいほうだったんで、4年制の国公立の大学に行こうということになって。「4年間のモラトリアムを獲得したほうが、お前の身のためだぞ」って、そのときの進路指導の先生に言われたんですよ。それで大学の軽音楽部で組んだバンドがSound Scheduleだった。

スタジオもライブハウスもない宇和島にステージを手作りしてくれた父親


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冨田明宏

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