月亭方正「お金がなくても怖くない、落語を取られるほうが怖い」関西に戻って8年で、再び東京を目指す理由
40歳で新たに落語家としての道を歩み始めた月亭方正。落語を始めてもう14年目になる。2021年4月には弟子を取り、順調に歩みを進めている印象がある。20歳でお笑い芸人として東京に進出、上方落語に本腰を入れるために大阪へ戻って8年、そして現在、再び東京進出を考えているという。
8月19日にルミネtheよしもとで開催される、方正・三四郎・三度『三人会』。意外なことに、ルミネtheよしもとで落語会が開催されること自体が初となる。そんな記念すべき落語会に込める思いと、落語家として再び東京進出を考える理由を聞いた。
落語を始めてからお金を使わなくなった理由
——方正さんは39歳のときに落語家になろうと決意したそうですが、今までとまったく違うことを始めるのに不安はなかったんでしょうか?
方正 それはこういう取材のときに皆さんに言われるんですけど、まったくなかったんですよね。僕からしたら「助かった」っていう感覚のほうが強いから。営業に行って20分間何もできずに、だんだん下がっていく自分にずっとモヤモヤしていて。そこで自分の努力でどうにかなるものを見つけたわけですから、怖さよりもうれしさのほうがデカかったんです。
——一時的に収入も落ちたのではないかと思いますが、そういう面でも不安は感じなかったですか?
方正 お金は使わなくなったんですよね。テレビをやっているときってすごく苦しかったから、その苦しさを紛らわすために私生活でめっちゃお金を使っていたんです。そうじゃないと帳尻合わへんから。
でも、落語始めてから、お金を全然使わないんですよ。落語をやることで報われているから、お金で帳尻を合わせなくていいんです。お金がなくても別に怖くない。それより落語を取られるほうが怖いですもん。
——落語を覚えたり自分で作ったりする作業も楽しんでやっているという感じでしょうか。
方正 そうですね。今、YouTubeに上げている『大安売り』というお相撲さんの噺があるんですけど、その中に自分で入れたくすぐり(ギャグ)が何個かあるんですよ。
それを考える作業は楽しいし、それがウケたときにはやっぱりうれしいし。こうやって落語を学ばせてもらったら、今度は自分で作りたいという欲も出てくるじゃないですか。それで自分でも作っているんですね。僕の新作はまだ全然、古典には勝てないんですけど。でも、自分で作ったネタでウケたときはやっぱりうれしいし、これを今度、後輩のみんながやってくれたらうれしいですよね。僕の肉体は朽ち果てていくけど、このネタはずっと生きる。そういう永遠のものを手に入れられるかもしれない、みたいな夢もあるし。
——そうやって自分の芸がずっと残っていくかもしれないと思えるというのも、落語をやるおもしろさのひとつなんですね。
方正 そうですね。今の古典落語には作者がわかっていないのがいっぱいあるんですよ。でも、これから残っていく噺はわかりますからね。永遠の命をもらえるというロマンはあります。
——方正さんは立川志の輔さんや笑福亭鶴瓶さんにも噺を教わったりしているそうですね。落語というのはそうやって師匠以外の方からも学んでいくものなんですね。
方正 そうですね。稽古をつけてもらうというのは、間(ま)をいただくものなんですよ。この(桂)雀々師匠の間が欲しいとなったら、つけてもらうしかないですからね。それが自分の財産になるんです。
僕の『大安売り』も、何個かくすぐりを入れていて、それに何時間、何十時間も費やしていて、それを舞台にかけていって、今の月亭方正の『大安売り』になっているんです。
この間も、後輩が「(稽古を)つけてください」と言うからつけたんですけど、そこでやっぱり、タダであげるわけですよ。何十時間も費やしてきたものをタダであげる。でも、僕も師匠方にそれをしてもらっているんです。お金に換算したら何百万、何千万とするものを「はい、どうぞ」ってもらうことができる。これが落語の素晴らしさやと思います。
落語でなぜ再び東京進出をするのか
——方正さんが落語を始めて14年目になるそうですが、始めたころと比べてご自分の成長を感じることはありますか?
方正 始めたときから自分の中でビビビッと伸びているなと感じたんです。でも、7〜8年目くらいから停滞しているなあと思ったんです。「あれ? なんかずっと一緒やな。これ、どういうふうに伸びてんねんやろ」って。
でも、やっと最近ちょっと変わってきたと思うようになりました。やっぱり20年かかるんやなって思いますね。今はようやく第2形態みたいな、2回目のグッと変わってきたのを感じています。
——では、これから20年目を迎えたときには、またひとつ変化したものが見られるということでしょうか。
方正 いや、20年経ってやっと月亭方正という噺家が誕生するんかなと思っています。そのときに60歳やから、僕がバリバリやれるのはそこから10年ぐらいじゃないですか。始めたのが遅いからそれはしょうがない。でも、今までほかの噺家さんが経験されていないことも経験してきたから、違うアプローチはできると思うんですけどね。
——8月19日に新宿・ルミネtheよしもとで桂三四郎さん、桂三度さんとの『三人会』が行われるそうですが、このイベントの見どころを教えていただけますか?
方正 まず、ルミネで落語会をやるっていうのが、劇場ができてから初めてのことなんです。東京でがんばっている三度と三四郎と、今からまたもう一回東京に進出しようと思っている僕が、その記念すべき一発目をやらせていただくという感じですね。
——今までルミネtheよしもとで落語会が行われたことがないというのは、意外な感じもしますね。
方正 ないんですよ。やっぱり吉本興業の主軸としてはテレビと漫才というのがありますから、今、僕らががんばらなあかんのです。そういう意味で吉本にもアピールしたいです。
——方正さんは、今は大阪を拠点にされているそうですが、また東京に出てきたいというお気持ちがあるんでしょうか?
方正 僕、20歳のときに大阪から東京に来たんです。そこから25年東京におったんですよ。やっぱり25年東京におったら、上方弁もまろやかになってきていて、大阪で落語をやるときに違和感があったんです。あと、師匠に「お前、それ発音違うな」って言われることが多々あって。これはしっかり上方落語をやらないと中途半端になってしまうなと思って、関西に戻って8年が経ったんです。
今は上方落語をやらせてもらいながら、こっち(東京)で精力的に落語会をやっているんですけど、大阪と東京では落語のお客さんの数が全然違うんです。上方は、落語も漫才もコントも全部一緒と捉えている方がけっこうおられて、でも、江戸というのはやっぱり落語という一個のカテゴリーが確実にあって。そこで勝負したいという気持ちがあるんです。
——つまり、ルミネで初めて行われる落語会は、方正さんが今後、東京に進出していく試みの始まりでもあるわけですか?
方正 そうです。コロナが落ち着いたら東京に家も借りる予定です。もちろん拠点は大阪ですけど、週2〜3日とか、けっこうな頻度で東京に行こうとは思っています。
——20歳のころに東京に出てこられたので、今回は2度目の上京ということになりますね。やはりそこで初心に帰るような気持ちになるんでしょうか。
方正 そうですね。これは本当に神様に「ありがとうございます」と言いたいんです。何重にも楽しませてもらっているというか。まわりの方にずっと助けていただいているので、恵まれているなと思いますね。
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