『M-1グランプリ』2年連続出場のオズワルド（伊藤俊介、畠中悠）。着実に活躍の場を広げているふたりだが、現在もそれぞれ芸人仲間とルームシェアをしている。メンバー全員が活躍する伊藤、ルームシェア仲間と日々「高め合い」をしているという畠中。ふたりが芸人仲間と共に成長しようとする理由は？　現在の漫才のかたちに至るまでの経緯も聞いたインタビューの前編。

「漫才のための劇場」に立てる喜び

──2019年、2020年のM-1グランプリ決勝を経験されて、おふたりは現状をどう捉えてらっしゃいますか？

伊藤　現状ですか？　いやー、売れなかったなあと思います（笑）。M-1が終わってしばらくは「僕ら全然食えてないんですよー」っていうコスい笑いの取り方をしていました。まあ売れるのはこれからがんばるとして、ただ去年に比べたら全然（露出が）増えたかと。

畠中　やったことないことをいろいろやらせてもらって、新鮮です。

伊藤　1度目のM-1後はコロナと重なったというのもあって……。

畠中　2019年のM-1終わったあと、すぐにコンビニのバイトを再開しましたから、僕。

伊藤　蓮根のセブン-イレブンでね。M-1の決勝出た人で、蓮根のセブン-イレブンに行く人もいないんじゃないですか。

畠中　ましてや働く人なんて……。

伊藤　もっといないですよ。

畠中　何があるかわかんないんで、一応今も籍は置いてるんですけど。

伊藤　いやそこはさ、「もう戻らないようにしよう」みたいなのないの？

畠中　別にそんな嫌いな場所じゃなかったし。芸人がいっぱい働いてるんですよ。

──（笑）。確かに今年は昨年以上にいろんな場所でおふたりを見ますし、特に関西の番組やライブによく呼ばれている印象があります。

伊藤　そうなんです。めちゃくちゃありがたいですよ。

畠中　自分らでもなぜなのかはわからないんですけど。憧れの場所だったNGK（なんばグランド花月）の本公演に入れてもらっているのはめちゃくちゃうれしいです。「漫才師として認めてもらえたな」という喜びがありますね。

伊藤　あの場所に立ってみて、漫才してみたらわかりますけど、本当に漫才をやるには日本一の劇場です。めちゃくちゃやりやすいです。

畠中　ほんと、最高の劇場だよね。

──何が違うんですか？

伊藤　僕が今まで一番やりづらいなと感じたのはM-1の準々決勝、準決勝の会場であるニューピアホールなんですけど、横に広くて、お客さんを巻き込みにくいんです。NGKはその逆で、横幅もほどよいですし、音の返りもちょうどよくて、「反響し過ぎてゆっくりやらなきゃいけない」とかも一切ない。

畠中　本当に、漫才をやるために作った劇場って感じがする。

伊藤　ソニーの芸人さんなんか、あそこに立ったら死ぬんじゃないですか。

畠中　環境よ過ぎてね。

伊藤　Beach V（ソニー・ミュージックアーティスツの専用劇場）は笑いを吸い込みますから。あそこに出てウケてるなって思ったこと、一度もないです。だから（錦鯉・長谷川）まさのりさんはあんなに声がおっきくなっちゃってるんですよ。

「家族」と「高め合い」のルームシェア

──おふたり共、芸人同士でルームシェアをされていますが、特に伊藤さんのお部屋が『アメトーーク！』（テレビ朝日）をはじめ、さまざまな場で注目されていますね。

伊藤　岩倉（美里）の蛙亭はめちゃくちゃ調子いいですし、ウチのキモロン毛（森本サイダー）も『R-1グランプリ2021』の決勝に行きましたし。大鶴肥満のコンビ、ママタルトも名前がすごく売れてきて。僕らもそこに乗っかっていきたいですね。

──家が取り壊しになる来年7月までの期間限定だそうですが、伊藤さんの現在の気持ちは？

伊藤　僕は「次の家どうする？」って感じなんですけど、みんなそんなつもりがない可能性のほうが高いです。まあ、ひとりでも欠けたら解散ですね。もうルームシェアしないと思います。新しい人と住んだらどうしても比べてしまいそうで。

──そこまで……。畠中さんのルームシェアはどうですか？

畠中　最近、ルームシェア仲間（ナミダバシ・太朗、素敵じゃないか・柏木成彦）と一緒に、板橋2丁目から4丁目に引っ越しました。

伊藤　つい最近までワンルームにでかい男3人で住んでたっていうのが信じられない。金ないならまだわかるけど、引っ越しできるくらいにはなってたじゃない。

畠中　居心地がよかったからねー。逆に今寂しいですもん、僕だけでひと部屋あるの。

伊藤　それ普通だから。

畠中　用もないのにみんなのいる部屋に行く。

伊藤　寂しいとか言うけど、お前んちはとにかくモメてるじゃん。

畠中　あれはモメてるんじゃなくて「高め合い」だから。君はルームシェア仲間のこと「家族」とか言ってるけど、僕らは高め合いでやってるから。

伊藤　俺んちのほうが結果出てるし。

畠中　いや、うちだってふたりとも「花クラス」になったし。

伊藤　花クラス（笑）。「花鳥風月」ってどれが上とかないから。4つのいいものを並べた言葉だから（※実際は、神保町よしもと漫才劇場のランキング制ライブで花クラスが一番上）。

畠中　花が一番きれいなんだよ。

ダブルボケから現在のかたちへ

──少し遡って伺いたいのですが、オズワルドの独特なスタイルの漫才はいつごろ確立されたんですか？　組んだ当初からこのかたちですか？

伊藤　いや、最初はもっと雰囲気ある、「象さんのポット」の系譜のような漫才を。

畠中　最初はツッコミがなかったんです。まったり漫才というか。

伊藤　ツッコみたくなかったんです。僕、前のコンビでむちゃくちゃツッコミだったんで、次のコンビではボケをやりたいなと思ってて。でもまったくツッコミに向いてない畠中と組んだので。

畠中　僕はマジでツッコミできないですね。だから最初ダブルボケで始めたんですけど。

伊藤　それだとやっぱり勝てないなというのがあって。オズワルドを結成して2年目のM-1で、1回戦で負けたんですよ。あと、個人的にはまんじゅう大帝国が出てきて同じようなことをやってたんで、同じやり方ならこいつらのほうがうまいなと思って、ツッコミを入れるようにしました。だから結局（自分は）ツッコミなんでしょうね。

畠中　ツッコミを入れてみたら、ちゃんとウケたんですよ。「あ、ツッコむってウケるんだ」って、僕はそこで初めて知りました。