「これが矢部」を今でもやってるんです
――『めちゃイケ』では、半分スタッフというか「裏回し」的な役割でしたが、『ぐるナイ』ではどのような役割を求められているんでしょうか?
矢部 『ぐるナイ』でも「ゴチ」以外は似たようなもんですね。「矢部さんだけに言っておきます」とか、「今日のゲストおしり(終わらなければならない時間)あります」とか。それはそっちが(調整)やってよみたいな(笑)。いつの時代からか、スタッフも観る側も「矢部はそれやろ」になってしまってるんでしょうね。「これがやべっちや」と。
そういう意味では『めちゃイケ』はやっぱり影響力あったんやなあって思います。いつのまにか『めちゃイケ』の立ち位置がほかの番組での立ち位置にもなってますね。
――そういうふうに求められるのは矢部さん的にはどう思われているんですか?
矢部 それが矢部浩之なんやろなって思いますね。ほかのことできなかったからそのかたちになったんやと思います。僕がもしガツガツ行ってボケよりも前に出るような、たとえばフジモン(藤本敏史)みたいな目立ちたいツッコミやと、たぶんこの矢部にはなってない。あの『めちゃイケ』にもなってないだろうし……。だから僕自身もスタッフも「これが矢部」ってなってて、それを今でもやってる感じですかね。
――『めちゃイケ』と『ぐるナイ』を同時にやっていたときは、番組の差別化みたいなものは考えていましたか?
矢部 まあ、ありましたけど、『めちゃイケ』はオバケ番組になってしまったので。僕が表現すると、「ほかのすべての番組が『めちゃイケ』に合わせてた」という感じ。だから自然と「あれは『めちゃイケ』でやってた」とかが出てくるんですよね。その中で『ぐるナイ』はどっちかというと自由。もちろん台本はあるんですけど、遥かに自由にやってましたね。
『めちゃイケ』は規律のあるお笑い。とりあえず細かい決まりがカチッと決まった台本がまずある。本番ではその台本よりもう1個向こうに行こうとするのが『めちゃイケ』。『ぐるナイ』は本当に要所要所だけで、あとは自由。それぞれのよさが出てて、バランスがよかったなと今も思います。
『めちゃイケ』後期は「“いいとき”を何年も超えてなかった」
――『ぐるナイ』といえば、もうひとつの看板企画に「おもしろ荘」があります。たとえばオードリー若林(正恭)さんが、「おもしろ荘」での矢部さんの言葉に救われたというエピソード(※)もありますが、若手芸人のネタを見るときに心がけていることはありますか?
※2008年元日の「おもしろ荘」に、まだ無名だったオードリーが出演。生放送でネタを披露したあとに矢部が「オードリー、やったね」とコメントした。若林は地上波のテレビ出演という夢が叶ったら芸人を辞めようと思っていたが、矢部のその言葉を聞いて自信を持ち、芸人をつづけることを決めた。オードリーはその年の12月、『M-1』でブレイクする。
矢部 「一発で切らない」ってことですかね。ネタ終わりにトークしてても、スパッ!っと切るのはやめようと。かけ合いの中で何か出てきたらええなって思うし、特にツッコミに僕は目が行きます。どっちかというと、そのコンビの顔じゃないほう。そっちに優しく。若林もそれがあったと思うんですよ。どうしても春日(俊彰)が濃いので。
今考えると短い期間でしたけど、やっぱり僕らも先輩芸人が厳しくて、いわゆるお笑いの「かわいがり」的なことをされて、ツラい記憶として残ってるので。それだけはやめてあげようっていう思いがどこかにありますね。
――『めちゃイケ』が終わって2年以上経ちましたが、終わったときの心境を教えてください。
矢部 僕は、清々しかったんですよ。そりゃあ長くつづけられるものはつづいたほうがいいんですけど、ただ、さあ終わったときにどうしよう?っていうのはずっと考えてましたね。大きな変化は必ず来るので。僕個人が『めちゃイケ』に対して考え始めた時期と、終わるよっていう時期が何年かズレてたので、言われたときは「今か!」って思いました。
――もっと早く終わると思っていた、ということですか?
矢部 いや、粘ろうとは思ってました(笑)。一番いいときを体感してるんで、「そこ超えてないよ、何年も」っていうのはずっと思ってましたね。もちろんその都度がんばるんですけど、明らかに視聴率にも出てくるし、現場の温度にも出てくる。ただ、どんだけバケモノ企画をやっても次の週は違う企画をやらなくちゃいけないから、なかなか難しいんです。やっぱり視聴率が落ちてくると上からのプレッシャーがあるので……。「え! こないだテストやったばっかりやん! また!?」っていう時期も、ありましたね(笑)。
『めちゃイケ』の「テスト」は、『ぐるナイ』の「ゴチ」だったんですよ。必ず(視聴率が)取れる。でも『めちゃイケ』は「そういうのは違う。攻めよ攻めよ」みたいな感じでやってた。それまでの『めちゃイケ』なら、「また!?」ってことはなかったんです。さっき言った『めちゃイケ』と『ぐるナイ』の棲み分けはそこでもあった。でも番組をつづけるにはやらないといけないみたいなジレンマが、後半はありましたね。
僕らの弱点は、番組が終わる経験が少なかったこと
――(『めちゃイケ』総合演出の)片岡飛鳥さんにインタビューをしたとき、「三浦大知さんのオファー(※)で盛り上げることができたからちゃんと終われると思った」とおっしゃっていました。
※オファーシリーズ第15弾として、三浦大知のライブに出演した(2017年10月14日放送『ダンシングヒーローでゴイゴイスーペシャル』)。
矢部 うん、ダメがつづいて「終わります」よりは、僕個人もいいときにスパッと終わってかっこいいほうを選びたい。終わるってなったときに飛鳥さんが「プライドもある。でも老害みたいに思われるのもイヤだから」って言いはったんですよ。そこは一緒やな、聞けてよかったなと思って。引き際の美学ですよね、中田英寿かキング・カズか。
ナインティナイン的にはわからないですけど、個人的には中田派なんですよね。「辞めないで! まだ全然できるやんか!」って思われたい。でも相方はキング・カズのほうかもしれないし、じゃあナインティナインはどっちなんやろなと思ったりもしましたね。でもいつかは終わりますから。僕らの弱点はその経験が少なかったことなんですよね。調子いい番組が終わるっていうのを若いときに経験してないから。そこを経験して強くならないとって思います。もう50歳になるから、50から強くならないとなあって。
『ぐるナイ』もいつか必ず終わりますしね。カジサックに頼まれてYouTube出たんですけど、そのとき、「今から第2章や」って言ったんです。それはそういう意味があって、スタッフにも恵まれ過ぎてて、それも全部なくなってからのナインティナインってどうなん?と。『オールナイトニッポン』にまた戻ったので、ちょっと複雑になってしまったんですけどね(笑)。
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