私、このまま生きていってもいいんやな
――無意識の自虐を担当編集さんと協力して剥がしていくことで、つづ井さん自身も自分への呪いを解いているのかな、というふうに感じています。
つづ井 描くことによって私が救われている部分は大いにありますね。「オタク」や「腐女子」といったキャッチーな属性がなくても、たくさんの人が絵日記を見て支持してくれている状況がめちゃくちゃうれしいし、ありがたいです。楽しかったことを絵日記にして残すというのは『腐女子のつづ井さん』のときから一貫していますが、『裸一貫』は「これが私の人生です、私の日常です」という気持ちで描いているので。「私、このまま生きていっていいんやな」という気持ちにさせていただいています。
いただく感想も「いつも読んでます、がんばってください」というだけじゃなくて、「私もつづ井さんのような状況でしたが、これからはこうしていきます」というような……。なんだろう、前向き100パーセントではなく、シリアスな相談内容を打ち明けてくださるようになって。生身の人間として見てもらっている感があります。
noteの内容に触れてくださる方も多いです。私、あのnoteがこんなにたくさんの人に読んでもらえると思っていなくて……。
――あのnoteが投稿されたとき、私を含む周囲の女友達は「つづ井さん、よく言ってくれた!」と大盛り上がりでしたよ。noteがものすごい勢いで拡散されていくなかで、どれだけの人たちが「ただ生きてて楽しい」ということを信じてもらえなかったり、言いづらい空気に苛まれてきたんだろうとも思いました。
つづ井 ですよね! なんで楽しいって言っちゃだめなのかな。つづ井さんとしてというより、生身の人間として社会でいろんな大人と関わるなかで「話の最後はやっぱり自虐にいかなきゃ」と思うようになっていましたが、あのnoteを書いたことによって自分の中で改めて覚悟ができました。「こんなん書いといて絵日記がさして今までと変わらんようだったら情けないぞ!」って。
インフレした「つくってあそぼ」マインド
――つづ井さんや友人の皆さんの、毎日楽しいことを自分から見つけに行くし、ないなら作っていこうというスタンスが本当に素敵だと思っています。
つづ井 「おもしろいことをやるぞ!」というよりも、「やったことないからやってみよう!」という気持ちが大きいですね。「マンガやアニメでよく見るあれ、私らもやってみようよ!」みたいな。ごっこ遊びやおままごとみたいな感覚で言い出すことが多いです。
――全員がブレーキを一切かけずに取り組む様子が読んでいて清々しいです。
つづ井 ありがとうございます。「全員の度肝抜いたるぞ」という気持ちでやっています。向こうもこっちの度肝を抜きにかかってるんで。
最初はお互いもうちょっと気を遣っていた気がするんですけど、徐々にインフレになっていって……。誕生日はいつもプレゼントの大喜利みたいになるんですが、最近は行くところまで行っちゃって、周囲を巻き込み出しています。
橘の誕生日のときには、私の知り合いの知り合いくらいまでの人に頼んで「橘誕生日おめでとう」っていう5秒動画を30人くらい集めたビデオレターを作ったんですけど、もはや3分の2くらいは橘の知らない人で、3分の1は私も知らない人でした……。
――ほぼ知らない人からの誕生日メッセージ……。
つづ井 みんないるところで一緒に見たんですけど、橘うれしくて泣いちゃって。でも「もうこういうのはなしにしよう、人は巻き込まんとこう」って。インフレが起き過ぎて際限なくなっちゃったから、1回フラットにすることになりました。
――橘さんも、贈る側になったときには自分の会社の社長を巻き込んでますもんね。
つづ井 そうなんです。そうするともう私には「知らない人」しかなくて……。
――作中では「前世からの友」という表現も出てきますが、つづ井さんにとって、友人の皆さんは改めてどんな関係ですか?
つづ井 お互い干渉し過ぎない、すごくいい距離感だと思っています。基本的にはみんなで遊びますが、誰が抜けても大丈夫ですし。ジャンルが全員バラバラなんですけど、オタクとして「これはダメ」という倫理観が一緒なので、気を遣わなくても尊敬し合えているのかなって思います。
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