『カネコアヤノ TOUR 2020 “燦々”』密着ルポ【前編】歌えなくなる、その日に向けて

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2020.4.1

「『私は音楽をやって生きていくんだ』と決めたときに作った曲」

あれは13曲目の「明け方」を歌い終えたときのことだ。今回のツアーは、バンドセットだとアンコール以外はしゃべることのなかったカネコアヤノが、珍しく口を開く。

「あのー、ほんとすいませんでした」。お詫びの言葉に、客席から「いーよ」と声が飛ぶと、彼女は「ありがとう」と小さく笑う。「ごめんね。ごめんね。だから、あの、新しい曲をやります。がんばって、がんばって練習してきたからね。練習したよね。よーし!」。彼女が大きく声を上げると、ドラムのBobがカウントを取り、演奏が始まる。今日が初披露の新曲「星占いと朝」だ。

いけしゃあしゃあと平気なふりをしたい
冷たい紅茶を一気に飲み干して

君が僕の街の灯り
一緒の気持ちなのにね
こないだ見た嘘くさい占いのせいだよ

朝日の中シャワーの粒が光る
君のことずっと考えて朝

朝にテレビをつけると、ほとんどの番組で星占いを見かける。特段信じているわけでもないのに、自分の星座が最下位だと少し残念な気持ちになってしまう。

星占いは、天体の位置が私たちの暮らしを左右するという考えに基づく。つまり、私たちの暮らしは、星によって決められているということだ。そうした運命に抗うように、「いけしゃあしゃあと」、カネコアヤノは歌う。

「占いとかって、やっぱいいことだけ信じてたいじゃないですか。友だちでも恋人でも、誰かとの関係を占ってもらったときによろしくない結果が出たとしたら、それがいくら当たる占いだったとしてもシカトする。シカトするっていうか、こっちのパワーでねじ伏せてやるって思っていたいんですよね。そういうのを気にせずに、いいことだけ信じて、でっかい心で生きていけたらいいのにってすごく思います」

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名古屋クラブクアトロでのライブより

いいことだけを信じて、でっかい心で生きていけたらいいのに。祈りにも似たそんな気持ちは、この日の18曲目に披露された「祝日」にも込められている。

お腹が痛くなったら
手当てをしてあげる
嫌われないように
毎日不安にならないようにしている

それはそう あなたと目をあわせるようなこと
みんなに内緒もいつまでできるかな

飽きないな
若気の至りか 気持ちの問題か
あとは抱き合って確かめて

あなたが振り返らなくても
姿が見えなくなるまで
気づかれないように見送る
できないことも頑張って
やってみようと思ってる

幸せのためなら
いくらでもずる賢くいようよ
いつまで一人でいる気だよ

飽きないな
若気の至りか 気持ちの問題か
あとは抱き合って確かめて
飽きないな
若気の至りか どうでもいいことだ
これからの話をしよう
祝日 どこに行きたいとか

「祝日」は、2018年にリリースされたアルバム『祝祭』のラストに収録されている曲だ。カネコアヤノ自身にとって大事な1曲ではあるけれど、1年近く、バンドで演奏する機会から遠ざかっていた。

「自分の曲の中で、『大事なライブのときにはこの人を連れて行きたい』って曲がいくつかあって、『祝日』はそのうちのひとつなんです。でも、すごく人格がある感じで、こっちが寄り添わないと歌わせてくれないんです。『祝日』もそうだし、『グレープフルーツ』や『燦々』もそうだけど、こっちが寄り添える気持ちになったときに歌うようにしてますね」

歌の入口を探るように、慎重に、カネコアヤノは「祝日」を歌う。この日はそれが顕著に感じられた。歌に詰まっているものをこぼさないように、いつもよりゆっくりと、ささやかな声で歌い始めた。「あなたが振り返らなくても/姿が見えなくなるまで」という歌詞に至ると、彼女は顔を手で覆い、この歌が生まれたときの感覚をなぞって確かめるように歌う。そして言葉が強くなってゆく。

「2年前に『祝日』を書いたときの自分が、今の自分から離れていくところもあるんです。でも、2年前と結局変わってないからこそ、同じように『祝日』を歌えてると思うんですよね。あれがただの歌になると、つまらない曲になっちゃう気がする。すごく大事な曲だから、そうさせたくないし、だから『今日は歌えないな』ってときは歌わないようにしてる。スタジオで『今日は祝日をやろう』ってなっても、私がやりたくないときは『え、やだ』って言うこともあるんです。この曲は、『私は音楽をやって生きていくんだ』と決めたときに作ったから、わかんなくなっちゃったときに歌うと、思い出す。なんだろう。たとえばファッションにしても、この年齢だからこの服は着れないなって思うことってあるじゃないですか。その気持ちもわかるけど、『年齢とか関係ないじゃん!』って思うんです。若気の至りとかではないよ、それが似合う自分でいれるかどうかでしょって、すごく思う。それと同じように、歌うのが楽しいかどうかですよ、みんなで音を合わせてるのが楽しいかどうか、それだけ、以上――それを思い出すために歌うし、歌うと思い出します」

「私は音楽しかできないから、この人生、これだけはがんばる」


『アルバムって覚えてる?』プリンスの言葉がずっと頭の中に渦巻いていた――西寺郷太インタビュー(PR)

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