「KAWAII LAB.(カワイイラボ)」の総合プロデューサーとして、FRUITS ZIPPERをはじめ多数のアイドルグループを手がける木村ミサ。かつて自分の個性を認めてくれた原宿という場所から「KAWAII」を発信する彼女は、誰よりもこの言葉に対する思い入れが強い。
『Quick Japan』vol.176のFRUITS ZIPPER表紙特集テーマは「かわいいってなんだろう?」。本誌に掲載しきれなかった木村ミサのインタビューを、QJWebで特別に公開する。
目次
すべての“かわいい”は同じ物差しで測れない
──大学のゼミで「かわいい」について研究されていらっしゃったんですよね。なぜ、その言葉に惹かれたのでしょうか?
木村 大きな理由があったわけではなく、ただ興味として“かわいい”という言葉に関心がありました。もともとアイドルが好きなので、私自身も頻繁に使っていて、身近な言葉だったというのも大きいと思います。
大学では「アイドルから読み解く、“かわいい”の社会変動」といったテーマで、言葉が意味するものの変遷について調べていました。「アイドル×かわいい」という概念は、時代によって変化があるんですよね。1980年代のアイドルに対しては“憧れ”に近い意味合いがありましたが、2010年代に入ると身近な褒め言葉として使われるようになっています。
──「かわいい」という言葉への感じ方が、人によって異なるというのもおもしろいですよね。魔法にもなりますし、呪いにもなる。かわいいという言葉に肯定された人もいれば、苦しめられた人もいると思います。
木村 ああ、すごくわかります。人によっても、そのときの状況によっても、受け取り方が変わる言葉ですよね。
![木村ミサ](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/023_241223_QJ.jpg)
──現在の木村さんは、どんなふうに“かわいい”という言葉を捉えていますか?
木村 おっしゃったように、ある種の呪縛みたいな部分はたしかにあると思います。「こうでなきゃいけない」と縛られるような重たい言葉という側面もありつつ、捉え方によってはいい意味だからこそ影響力が強いのかなと。かわいいと言われたら、理由はわからなくてもうれしいですし、自分を肯定する道のりのために大切な、背中を押してくれる言葉だと私は思っています。
でも、“かわいい”の定義は人それぞれですよね。自分にとっての“かわいい”が正解ですし、同じ物差しで測ることはできないと常々思っています。
──“かわいい”に対する価値観が多様になってきているということでしょうか。
木村 昔は時代によって共通した“かわいい”があったと思いますが、情報源が増えてきたからこそ価値観がばらばらになっている。InstagramなどSNSが普及して、その人にとっての“かわいい”を発信できるようになったことで、いい意味でごちゃまぜになっていると思います。
「NEW KAWAII」が意味する“個性の幅”
──FRUITS ZIPPERのコンセプト「NEW KAWAII」にはどんな思いが込められているのでしょうか?
木村 “かわいい”が持つ変幻自在さを根底に置いたグループで在りたい、というのはあります。FRUITS ZIPPERが一番大事にしているのは「誰でも主人公になれる」ということ。全員がセンターとして立てるようなグループにしたいという思いで集めた7人です。
個性はバラバラなんですが、全員に共通するワードをあえてピックアップするとすれば“かわいい”かなと。いわゆるピンクやフリルだけではなくて、かっこいいこともカルチャーっぽいことも、ど真ん中の“かわいい”も全部したい。そこを表現するために生まれた言葉が「NEW KAWAII」です。
──「NEW」にはいろいろな意味が含まれていて、“かわいい”の幅の広さを表現しているんですね。
木村 まさにそうですね。可能性がたくさんある言葉でもあるので、広く捉えられる言葉として作りました。そんなふうに、マイナスなこともプラスに変えていくマインドは、FRUITS ZIPPERの楽曲でも意識的に表現しているところです。
![木村ミサ](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/029_241223_QJ.jpg)
──グループ結成当初は「楽曲がこんな人に届いてほしい」という想定はされていましたか?
木村 特に限定していなかったんですが、私自身『Zipper』という雑誌でモデルをしていて、個人的にも原宿系の個性的な格好が好きでした。ですが、田舎出身なので地元に帰るとまわりはギャルっぽい格好が多かったので、めちゃくちゃ浮いたんです。
当時は肩身が狭い思いをしていたんですけど、原宿に行くと、自分らしさを受け入れてもらえる。格好も好きなテイストもバラバラだけど、お互いの好きなものを否定しないですし、ジャンルを超えて褒めてくれるんですよね。
なので、自分の“好き”を大事にして、人と違うことにうしろめたさを感じている人に届いたらいいなと思っていました。
生歌に込められた、“かわいい”と“本気”の共存
──「かわいいから許される」という言葉があるように、“かわいい”と“本気”は相反すると思われているところがあります。しかし、FRUITS ZIPPERは“かわいい”と“本気”が共存していて、特にその印象を強めているのが生歌でのパフォーマンスではないかと思うのですが、最初から決めていたのでしょうか?
木村 生歌で、パフォーマンスがしっかりしていることは、アイドルグループをプロデュースする上で絶対に譲れませんでした。私自身、生歌で心揺さぶられた機会がたくさんありますし、生歌でしか伝わらないことがある。デビューまでの練習期間に、ボイトレ、ダンスレッスンなどかなりストイックに練習してもらいました。
メンバーを選ぶ際も、歌が上手・下手というより、目標に向かって努力できる子かどうか、というところをものすごく重視して選んだんです。がんばれる力があって、本気でアイドルをやりたい子だけ。みんな必死になってやり遂げてくれました。
私は、かわいさとパフォーマンス力が相反するものであってほしくないんです。フリフリの衣装を着ているアイドルだとしても、歌に想いを乗せることは絶対に必要だと思うので、これからも大事にしたいですね。
![木村ミサ](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/017_241223_QJ.jpg)
──コンセプト重視のグループだと、コンセプトを最大限表現するために生歌じゃない選択肢を取ることもありますが、音源では伝わらない思いをライブで見せたい気持ちがあるんですね。
木村 ツアーになると顕著に表れるのですが、生歌はアレンジが入れられるので楽しいですよね。たとえば「わたしの一番かわいいところ」のセリフパートは、ライブによってアレンジが変わることも。本人たちもそのあたりを楽しんでやっていると思います。
──多くの楽曲を手がけられている作詞作曲家のヤマモトショウさんとは、“かわいい”の定義についてどんな話をされているんですか?
木村 もともと“かわいい”楽曲を作るのが得意な方で、ヤマモトさんとは定期的に「今のFRUITS ZIPPERの“かわいい”ってこういうことだよね」みたいな話をします。
そこからニュアンスを汲み取ってくださって、楽曲に落とし込んでくれる。常に“今”思うFRUITS ZIPPERなりの“かわいい”を表現してくださいます。
──“かわいい”のニュアンスが常に変化しているんですね。
木村 メンバーが今悩んでいること、好きなこと、ハマっていることを私がすくい上げて、ヤマモトさんに近況をお伝えするんです。
加えて、ライブやSNSでメンバーの雰囲気もチェックしてくださっているので、一歩引いたところからグループのことを考えて、楽曲に落とし込んでくださっているなと思います。中にはメンバーへのメッセージになっているような曲もあり、感慨深い気持ちになります。
──楽曲ではメンバー全員に見せ場があるのも、「誰でも主人公になれる」という意識からなのでしょうか?
木村 歌割の時点でかなり意識しています。どんな曲でもセンターとその他、という見え方にはしたくなくて。歌割が少なかったとしても耳に残るフレーズを任せるなど、その子自身が活躍できるか想像しながらじっくりパートを練ります。
「ハピチョコ」の櫻井(優衣)の「なぁになぁに?」というフレーズが話題になったのですが、これは2番のBメロというテレビサイズでは切られてしまうパート。ですが、「櫻井が歌ったら絶対にいい」と思って任せました。1番だろうと2番だろうと、隅々まで考えるようにしています。
ファッション性を持たせた衣装にもこだわり
──“かわいい”の幅を作る意味で、衣装やアートワークもFRUITS ZIPPERにとって大事な要素のひとつだと思うのですが、どのような基準で決められているのでしょうか?
木村 アイドルらしさは残しつつ、アソビシステムという原宿カルチャーを掲げた事務所発のアイドルであることを大事にしています。
衣装はファッショナブルであってほしい。『装苑』などモード誌でも活躍されている相澤樹さんにお願いして、デザインや生地などディテールにコスチュームとしてのおしゃれさが宿っている衣裳を作ってもらっています。
アイドル+αで、少し違う角度から攻めたい気持ちがあって。思いっきりアイドルっぽくするときもあれば、ファッショナブルな衣装を作ってもらうこともあり、振り幅は大きいですね。
──木村さんもいろいろ研究されているのですか?
木村 イメージを共有できるように、どういう“かわいさ”があるのか、ものすごい量をストックしてスクラップにしています。いつでも、どんな“かわいい”も表現できるように。メンバーもファッションが好きで、生誕祭は自己プロデュースになるので、本人たちの思いもディテールに宿っています。
![木村ミサ](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/031_241223_QJ.jpg)
──PVなどアートワークはいかがですか?
木村 そのときどきによって違うのですが、「わたしの一番かわいいところ」や「ハピチョコ」は顔面がかわいく映る、ということに注力しました。アイドルのPVってダンスシーンが多いと思うのですが、このふたつの曲に関してはビジュアルで攻めたい。「とにかくかわいく映してください」とオーダーしました。
私自身、アイドルの引きの絵も好きだけど、アップで映る瞬間に「かわいい〜!」って言いたくなるので、そういう気持ちが高ぶる瞬間を作れるといいなと思います。
お互いのためにも「不健康なこと」はしない
──ファンとの健康的な距離感もいいですよね。全面的に“かわいい”を推していますが、けっして媚びることはしない印象も感じます。
木村 いいファンに恵まれているところもありますが、不健康なことはしないようにすごく意識しています。自分自身アイドル側でもあったので、身を削って疲弊していく人も見てきて……。自分のなりたいアイドル像を貫いてほしいですし、健康的に続けてほしい。
それは、ファンに対しても思うことで、健康的に応援し続けてほしいので、一定のルール作りは徹底してきました。一方で、どれだけ規模が大きくなっても出発点はライブアイドルなので、ファンの方と会える機会は定期的に作るようにしています。
──近すぎず遠すぎず、アイドルとファンが健康的な距離感でいられるように。
木村 きっと、売れるためにやるべきことってほかにあると思うのですが、私はひとりの人間としてメンバーもスタッフも大事にしたい。その上で、攻めるときは攻めて引くときは引く。できる範囲も伝えます。
そうやって、メンバーとスタッフと私が三位一体でいられるように、私はクッションのような存在として両者の意見をすくい上げて、時には他チームの方が助けてくれることも。ありがたいことにとっても忙しいのですが、どうにか前を向けているのはメンバーとスタッフの目指す方向が同じだからだと思います。
![木村ミサ](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/039_241223_QJ.jpg)
──これから目指していくことは?
木村 原宿から世界へ、を体現できるグループになりたいという気持ちはずっと変わらないです。Japanese IDOL=FRUITS ZIPPERだと認識される存在になりたいですね。
あとは、アイドルって表現者としてのポジションがあまり高くない気がしていて。ですが、アイドルという職業は素晴らしいですし、楽曲もかなり考え抜かれているので、音楽を届ける表現者としての立場を高めたいですね。
そのためにも、先輩であるきゃりーぱみゅぱみゅや新しい学校のリーダーズが立った『コーチェラ・フェスティバル』などの海外に出る夢は叶えてあげたいです。
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![FRUITS ZIPPER](https://qjweb.jp/wp-content/uploads/2025/02/QJ176_h1_r07-1000x705.jpg)
2月17日発売の『Quick Japan』vol.176は、FRUITS ZIPPERを50ページで総力特集。撮り下ろしグラビア、一人ひとりの“かわいい”を紐解くメンバーソロインタビュー、木村ミサの特別インタビューなど、大充実の内容でお届けします。