「デヴィット・リンチ? そんないいもんじゃねぇよ!」
「最初、僕とmono君とでドライブしてて、で、途中で、ヒッチハイクしてたみさこをゲットして、え? ちばぎん? ちばぎんはなんだっけ? あれだ、気づいたら後部座席に座ってた。それが2007年のこと」
ボーカルのの子が神聖かまってちゃんの成り立ちをそう説明すると、キーボードのmonoが慌てて解説する。「あ、いや、オレとこいつと、ベースのちばぎんは幼馴染なんですよ。それで、みさこも地元は近いんですけど、あとでメン募で入ってきて」。
彼らは現在24歳。音楽の専門学校に行っていたmonoは、ひょんなことからの子の作る曲を耳にし、その才能に驚き、バンドを組もうと誘ったらしい。「地元の雰囲気って自分に影響を与えていると思う? 来る途中、デヴィッド・リンチみたいだなって感じたけど」。そう言うとの子はますます興奮し始めた。
「デヴィット・リンチ? そんないいもんじゃねぇよ! ただの田舎街だよ!」「じゃあその退屈さが、さ」。それに対する答えが冒頭の叫びだ。
「その街で、普段はどんな生活をしてるの?」「え? 俺はだから、マンガ喫茶で働いて、あとは寝たり、寝たり、あとはあれだ、病院に精神薬もらいに行ったり。以上だな」。
monoは溜息交じりにつぶやく。「昔は、明るい普通の奴だったんですけどねえ」。「そんな良い子がどこでどうねじれちゃったのよ?」。この質問での子のアクセルが全開になった。
だいたい、音楽ってもう終ってきてるじゃないですか
の子「あーのな。そういった過去のことを絡ませたくないんですよ」
磯部「でも、曲にはそれが表れてるよね?」
の子「何が? 母ちゃんのことが?」
磯部「お母さんのことは知らないけれども」
の子「そりゃ、計算ドリル返せとか、くそったれサトウ死ねとか、歌詞に表れてる部分はあるけども、イジメられてたとか、そういうくだらないことは言いたくないんすよ」
磯部「聴いてると、心の奥にそういう暗いものが埋まってるような気がするんだよね。さっき、ショベルカーの話をしてたように」
の子「何? ショベルカー? オレ、免許持ってねえよ」
磯部「免許なくても乗るんでしょう?」
の子「そうだよ、乗るよ、それで掘るよ、奥まで、奥まで、奥まで、そしてそこに自分だけの秘密基地を作るわけですよ!」
磯部「じゃあ、なんでバンドやってんの?」
の子「あ? デモのほうが出来がいいですね。バンドは全然だめ」
磯部「多分、の子君の表現はひとりでやったほうが完成度は高いんだろうけど、君は人と出会いたいんでしょう? だから、バンドもやるし、こういう配信もやるし」
の子「だって、ぶっちゃけ配信のほうがおもしろいもん。音楽やるよりも。ライブハウス出るよりテンション上がるし、そりゃそうだ。だって、ここ、オレの家なんだもん。だいたい、音楽ってもう終ってきてるじゃないですか。だから、新しい文化してるんですよ。わかりますかね? アイ、アイ、アイ・アム・サブカルチャリング!」
いつの日か、外の世界に飛び出して
「……これ、インタビューになってますか?」不安そうなみさことちばぎんが聞いてくる。「大丈夫、大丈夫。かっこいいこと言ってるよ」。すると、痺れを切らしたようにmonoがの子に叫んだ。「そうだよ、格好つけ過ぎなんだよ! お前!」「あ? オレのどこが格好つけてるんだ!」そこからケンカが始まり、その後、会話は部屋の惨状に合わせるようにひたすらとっ散らかっていった。
ふと横を向くと、飲みかけのコーラや空きっ放しで中身のないアニメのDVDケースといったガラクタの山の中に、ジェームス・チャンス・アンド・ザ・コントーションズのCDがあるのを見つけた。僕にはそれが小さなドアのように思えた。まさに現代社会のミニチュアのような部屋から、パソコンの向こうにいる誰かに叫び続けるかまってちゃんは、いつの日か、音楽というドアを通って、外の世界に飛び出し、その誰かと握手を交わすのではないか。
僕はこんなふうにして神聖かまってちゃんに出会った。
神聖かまってちゃん「スーパーぴえんツアー」
7月3日(金)梅田 Shangri-La(4月3日の振替公演)
7月10日(金)名古屋 CLUB UPSET(3月27日の振替公演)
7月13日(月)渋谷 CLUB QUATTRO(4月7日の振替公演)
※新型コロナウイルスの感染拡大防止を受けて、当初の予定から延期しての開催となりました。詳細は公式サイトでご確認ください。