1万人より、たったひとりに届けたい。澤田 空海理メジャーシングル「遺書」に込めた葛藤と感謝
切ない恋愛を日常の景色に重ね合わせた楽曲を動画投稿サイトに投稿する、シンガー・ソングライターの澤田 空海理(さわだ そうり)。
「またねがあれば」はYouTubeチャンネルで178万回再生を記録し、シンガーの當山みれいからバーチャルシンガーの花譜まで、幅広いジャンルの歌手たちにカバーされている。
そんな澤田 空海理が2023年12月6日にメジャーデビュー曲「遺書」を配信。彼が音楽にのめり込んだ理由、曲に込めた想いについて話を聞いた。
目次
“思いつき”で作曲を始めた高校3年生
──まず、楽器を持つようになったきっかけや作曲を始めた経緯について教えていただけますか。
澤田 空海理(以下:澤田) 高校2〜3年生のころ、音楽をやっていた友達の影響でギターを始めたことがきっかけです。
オーストラリアへ4年間留学していたんですけど、日本では野球部に入って週5〜6で野球をやっていたところ、向こうだと週2〜3だったので、時間が余っていたんですよね。そのときに始めたのがギターでした。
ちょっと傲慢な言い方に聞こえるかもしれないんですけど、曲作りに関しては「できそうだな」と思って、思いつきで作ったのが高3でした。たぶん、人より「創作する」ということに対する垣根がなかったんだと思います。
──「創作は才能やセンスのある人だけがやるものだ」みたいな感覚がなかった。
澤田 なかったですね。音楽をやっている幼なじみで構成されたmixiのコミュニティがあって、そこに1曲出したら、思いのほか「いい」と言ってもらえて。友達のおべっかもあったと思いますけど、「あれ、俺、これいけるんじゃないか」と。
──それ以降、何が楽しくて音楽にのめり込んでいったのだと思いますか。
澤田 曲作りそのものがすっごく楽しかったんだと思います。曲作りが大好きで、大学生になると、ろくに授業も出ず曲を作っている毎日でした。
あと、もともと友達が好きで。音楽を通じて仲よくなった人たちと一緒にいるためには音楽を作りつづけるしかないと、無意識的に思っていたんじゃないかと今になって思います。
マンガ・映画・小説からインスピレーションを受けることも
──現在は「澤田 空海理」としての活動以外に作家としても活躍されていますが、ご自身のルーツになっている音楽とは?
澤田 たぶん、音楽的なルーツはちゃんとなくて。編曲でいえば「ルーツ」より「技術」で、筋トレと一緒だと思っているんですよ。
これは各所で言っているんですけど、僕は音楽を聴くことがそんなに好きではなくて、制作とかされていない音楽好きの方のほうが、よっぽど聴いている数が多いと思います。
僕はずっと、人に突き動かされてきた人生だと思っていて。音楽をつづける理由に友達があったのもそうですし。その人が好きなものを好きでいたいタイプなので、友達とか恋人が好きだった音楽を聴いていました。
──音楽以外のカルチャーから曲作りのインスピレーションを受けることはありますか。
澤田 マンガ、お笑い、映画、小説、全部大好きで、インスピレーションを受けることはよくあります。
マンガは小学生のころから好きで、曲作りのアイデア出しとかに助かります。言葉に関しては、気になったものをメモ用のアプリに入れているんですけど、小説から引っ張ってきたりもするし、映画は観ていると歌詞がポンと出やすいので重宝していますね。
小説でいえば、江國香織さんが一番読んでいて影響を受けています。目に見えない部分の生きづらさの描写が丁寧で、好きです。
マンガは多すぎて絞りきれませんが、田島列島さんの『水は海に向かって流れる』、平庫ワカさんの『マイ・ブロークン・マリコ』、羽海野チカさんの『ハチミツとクローバー』は何度も何度も読み返しています。
映画は魚喃キリコさん原作・冨永昌敬さん監督の『南瓜とマヨネーズ』を初めて観たときにとんでもない衝撃を受けました。あとは佐藤泰志さん原作・三宅唱さん監督の『きみの鳥はうたえる』、枝優花さん監督の『少女邂逅』、今泉力哉監督や岩井俊二監督の作品とか。今挙げた全部、人からの受け売りですね。
メジャーデビュー曲「遺書」に込められた想い
──音楽を作る動機は、学生のころからどのような変化を経てきましたか。楽曲を聴いていると、音楽や歌詞にしたいことが変わっていったのだろうなと感じます。
澤田 始めてから3年間くらい、たぶん2016年くらいまでは、人に応えるために音楽を作っていたんだと思います。
2017年に、当時好きだった子に対してアルバムを1枚作っているんですよね。そこで良くも悪くも、「すごくいいものが作れた」という実感が生まれてしまって、歯車が狂って、自分の人生を切り売りすることで楽曲の力強さが増すことを強烈に感じてしまったんです。
そこから、自分の人生をしっかり削って書くかたちでやるようになったんですね。
──メジャーデビュー曲「遺書」もまさにそうですよね。
澤田 2020年に大きな別れがありまして。付き合いが長かったんですけど、その人から「楽曲がよくなくなってきてる」「手癖でやってて、やれることが見えてきてしまってる」みたいなことを言われたのがずっと残っていて。
そこで僕の中で「自分の人生を削ってやるだけじゃ駄目なんだ」と思って、コードワーク、サウンド、アレンジをもっとこだわるようになりました。
──自分の人生を歌詞や音楽にすると、景色の描写や心の奥にある複雑さがより具体的に書けて、しかもリアリティをもって表現できるから伝わりやすいものになるし、「遺書」のように秘密や本音を差し出されたときのドキッという感覚を与えることができる。だから自分の人生を削った音楽にはどうしたって強度が増す側面があると、私も思っていて。
澤田 はい。
──でもこれからメジャーに行くなかで、人生を切り売りしてばかりの自分から抜け出して、そうじゃない方法でも曲を書いていきたいという意思が「遺書」には込められていると感じました。そういった意図はありましたか。
澤田 ありますね。まさにここですね、《そこには大きな光があるんだろうか。/変わんなきゃいけないんだろうか。》。そのあと《いや、居てもいいんだ。》ってひっくり返しているんですけど。
作家活動もやってきて、ただ自分の我を貫き通すことだけが人とやることではないとわかって……正直、まだ体がそこに対応できてないんですけど、でも対応しなきゃいけない日は絶対に来るので……。歌詞の中の自分が、そういう想いをうまく捉えている気がします。
──「遺書」をメジャーデビュー曲に持ってきたのは、どんな想いからでしたか。
澤田 1曲目をどうするかってなったときに、正直、あまりいいものが出なくて。そんななかで「自分のことを書いてみたらいいんじゃないか」という意見が出て、僕は自分のことを書くなら絶対にひとりのことを書きたいと思ったんです。
これまでは自分がいかに悲しいかしか書いてこなかったんですけど、この子に向けている気持ちは「悲しいから戻ってきてくれ」とか「いなくなったからこんなことになっちゃってるよ」というわけではなくて、ただただ感謝しかない。なので、せっかくの機会を使わせてもらおうと思いました。
「いい曲」って、なんだろう?
──この先は、この子のことに限らず、いろんなことをテーマにしていけたら、という想いがありますか。
澤田 したいですけどねえ。でもこればかりは……どうなんだろう。「遺書」でその子の話は終わりにするんですけど、かといって次何をするか、となりますよね。
人生において好きなものがすごく少なくて。人間と……あとなんだ? 野球と、音楽制作と……。どうにか野球関連のタイアップが来ないかな(笑)。
──澤田さんがいきなり解像度の高い野球の曲を出したらびっくりします(笑)。「遺書」は《良い曲ってなんだろうか。》から始まって、実際に「いい曲とは何か」の真髄について歌われていますよね。いい曲って、なんなんでしょうね?
澤田 これ(「遺書」)ではないと思うんですけどね、たぶん。
──そうなんですか?
澤田 だと思います。僕はJ-POPを通ってきた人なので、歌というものは、多くの人に刺されば刺さるほどいいと思っているんですよ。
3〜4人を救える強烈な1曲より、「なんとなくいい曲だな」と思った人が1万人いたほうがよっぽど強いと思っているタイプなので。そういう意味で、これは別に1万人を笑顔にする曲じゃないので。
──そうですかね?
澤田 どうでしょうね。これで1万人が笑顔になってくれたらうれしいですけどね。
──音楽やほかの創作もそうですけど、たったひとりに向けて作られたものが、多くの人にとっての「自分だけ」「自分のため」の作品になる。それこそがいい曲の真髄じゃないかと思うし、まさにこの曲はそういうタイプの音楽だと思いましたけど。
澤田 あら、それはうれしいです。そうなってくれと願いますね。でもこの曲に関しては、僕は出しただけで十分だとも思っています。
──「いい曲とは何か」でいうと──これもお笑いとかほかの創作にもいえると思いますけど──ひとりを傷つけて、1万人を感動させるものは、果たして「いい作品」なのか。そういう葛藤もあるじゃないですか。「遺書」を書く上で、そういったことは考えました?
澤田 考えました。最後に「どうしても今の生き方をしていると曲になってしまうので、この先の曲は聴くな」と言ってあるんですよ。この人は「聴かない」と言ったけど、でもたぶんいつか聴くんです。
僕は「どうせ聴くだろうな」と思って動くわけにはいかないので、精一杯バカなふりをするしかない。傷つけてる自覚は明確にあります。まあ、向こうがどう思っているかはわからないので「傷つけてる」と思うのも傲慢ですけどね。
ただ、僕の中で、攻撃する意図があることは間違いなくて。こういう曲を書いているとき、罪にならない殺人をずっとしてる感覚があるんです。
──ああ……。
澤田 実際に人を殺してるわけでもないし、なんの罪にもならないですけど、ただただ都合のいい人間をずっと刺し続けているみたいな感覚が、ここ最近はすごく強くなっていて。
だから「遺書」を書いているときも、頭の中では「またこの人を消費するんだ」と思っているけど、もう身体が止まらないんですよね。言い訳がましいんですけど「頭ではちゃんとわかってます」というのが答えで。
ただ、これをやめられていたら、たぶんここまで来てないと思っているんですね。
──身体が動いてしまう、というのは、音楽家として「いい曲を書きたい」という気持ちが湧き上がり続けるからですか。
澤田 もう、経験則によるものというか。これでいい曲を書けることは知っているから、そう動かない道理がない、という動き方をしているように自分では思いますね。
──それは、自分も苦しいですか?
澤田 目に見えて苦しいということはないんですけど、取り返しのつかないことをずっとやっている感覚だけは残っています。これがいつかバンって爆発するんじゃないかなとは思っていますね。
人生を削って曲にすることは、今後も変わらない
──この曲に、「遺書」というインパクトのあるタイトルをつけた理由は?
澤田 2個、意味があります。1個はすごく小賢しいです。1stシングルが「遺書」だと、言葉の強さがフックになるから。それは「お客さんにウケればいいな」では絶対になくて、どうすれば本人に届くだろうかというところで、少しでも確率の高いほうを選んでいる。
もう1個は、お客さんに向けた意味で。これまで偏屈で陰鬱とした音楽をやってきたので、メジャーに行くことで「売れ線のポップな澤田 空海理」になるんじゃないかと変化を恐れている人が意外と多くて。
これをメジャー1発目に置くことで、「僕はここで死にますよ」と言っているんですけど、中身で「この人は変わらないんだ」というのを見せられたらなと。メッセージとしては皮肉ですよね。
──この先、澤田さんはどういう楽曲を書いていくのでしょうね。
澤田 自分の人生であってくれたらいいなと思います。このことに縛られて曲を書き続けるのでも、たとえばどこかでヒットが出たらそれを書き続けるのでもなくて、ちゃんと自分の人生が変わっていくときに曲も変わっていったらなと。
60歳くらいになったときには、ゲートボールの歌とかを作ってみたいですね。そういうふうにできたらいいなとは思っています。
──人生を削って曲にしていくこと自体は、これからも変わらないんですね。
澤田 そこは変わらないと思います。
澤田 空海理メジャーシングル「遺書」
「天才にはなれなかった。でも、あなたが信じてくれたから凡才にはなれなかったよ。」
美しい記憶も背負った傷も飲み込んだ、生々しい言葉が「届けたい」という意思を持ってあふれ出る、6分を超える長尺バラード。
・「遺書」各配信サイト
・澤田 空海理 Official HP
・澤田 空海理 YouTubeチャンネル
・澤田 空海理 Instagram
・澤田 空海理 X
・澤田 空海理 Staff X
関連記事
-
天才コント師、最強ツッコミ…芸人たちが“究極の問い”に答える「理想の相方とは?」<『最強新コンビ決定戦 THE ゴールデンコンビ』特集>
Amazon Original『最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ』:PR -
「みんなで歌うとは?」大西亜玖璃と林鼓子が考える『ニジガク』のテーマと、『完結編 第1章』を観て感じたこと
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
「まさか自分がその一員になるなんて」鬼頭明里と田中ちえ美が明かす『ラブライブ!シリーズ』への憧れと、ニジガク『完結編』への今の想い
虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会『どこにいても君は君』:PR -
歌い手・吉乃が“否定”したかった言葉、「主導権は私にある」と語る理由
吉乃「ODD NUMBER」「なに笑ろとんねん」:PR